読み手を陶酔させる、山田詠美氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
大学在学中に本名の山田双葉名義で漫画家デビューをし、同時期に「漫画エロジェニカ」でエロ漫画デビューした、まついなつき氏と並び、女子大生エロ漫画家として取り上げられています。
その後、大学を中退し、クラブなどでアルバイトをしながら、漫画作品を発表していき、「シュガー・バー」や「ミス・ドール」等の作品を出版しています。
山田詠美おすすめ作品10選をご紹介~人間の内面に分け入る描写~
1985年に「ベッドタイムアイズ」という作品が文藝賞を受賞し、小説家デビューを果たします。
この作品は芥川賞候補にもなり、次いで出された「ジェシーの背骨」と「蝶々の纏足」も芥川賞の候補に挙がるのですが、受賞には至りませんでした。
そして、ついに、五木寛之氏の強い推薦もあり、「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」という作品が直木賞を受賞します。
現在は芥川賞選考委員の常連であり、2003年の上半期から勤めています。
そんな山田詠美氏のおすすめの作品10選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『蝶々の纏足』
束縛する側とそこから逃れたい2人の少女の話です。
常に人の視線の中心にいる子と、その子を取り巻く周り、そしてその子の引き立て役となる子の存在の構図がしっかり描かれています。
ここがポイント
優しさに込められた残酷とそれに秘められた哀しみ、そして少女から大人へと華麗な変身を遂げる幼くも多感な蝶たちの青春。
好奇心ではなく欲望を、少年ではなく男を愛することで、美しい女友達の枷から逃れようとする方法を詩的緊張を込めた文体で表現しています。
感性を沸き立たせる作品です。
『ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー』
ソウルミュージックを題材にした8編からなる短編集です。
どの話も心地良い雰囲気に包まれていて、ムード小説とでも言いたくなるような感じです。
ここがポイント
心と身体で誰かを愛すること、どうしようもなく求めてしまうことの幸福と切なさを、あくまでもクールに描いています。
愛と性をテーマにした作品の中の性描写は、際どい所で風俗小説と一線を画していて、そのリアリティさは山田氏の体験が多分に反映されているのではないかと思われます。
芯がブレていない一貫性のある作品です。
『ひざまずいて足をお舐め』
SMクラブの女王様のちかが、小説を書いて文学賞を受賞する話です。
夜の世界をあっけらかんと遊泳しながら作家となった主人公、ちかの本音と過去の記憶をその親友の視点から綴っています。
気を抜けばどこまでもダメになってしまいそうな環境の中で、自分をしっかりと持ち続けているちかは、強い女であり、誰にでも真似できるわけではないのです。
ここがポイント
この作品を通して、語られるのは、見栄や羞恥心や建前を捨て去ってこそ見えてくる等身大の人間そのものなのです。
風俗の仕事に関わるちかが、世の中で尊敬される作家になることで、世の中の卑しさと気高さの境界を破壊してくれるのです。
自分に正直に生きようと思える作品です。
『放課後の音符(キイノート)』
女子高生の心の内を繊細に綴る8編からなる恋愛短編集です。
どの作品も主人公が自分にはないものを持った女の子と、会話をする流れになっています。
大人の女性のような恋愛を繰り広げる少女、なかなか恋愛に踏み出せない少女、憧れながらもその時が来るまでじっくり待つ少女。
色々な少女が山田氏の言葉で、瑞々しく描かれていて、たとえそれが失恋しても失敗しても美しいのです。
ここがポイント
恋は少女を大人にしていき、シンプルかつ甘い夢が、音符のようにこぼれ、読む者を一時酔わせてくれる作品です。
『晩年の子供』
子どもの目線で描かれた9編からなる短編集です。
小さなある年代にだけ、見えたり感じたりした特有の視点があったのです。
吸い込まれるように、それを深追いすると、決まって別次元にいる大人たちに叱られて、現実に引き戻されるのです。
ここがポイント
どの話も無駄な言葉が全くなくて、安易だけど深く、抉られるような情景描写にドキリとしてしまいます。
大人になるにつれ、忘れてしまった現実がふと息を吹き返すような、もの懐かしくも儚い作品です。
『トラッシュ』
ニューヨークに住む、日本人女性と黒人男性の愛憎を描いた話です。
愛や恋人の在り方について、深く考える女性が主人公であり、自分が求める愛の形に愛が応えてくれないことへの葛藤が書かれています。
ここがポイント
恋が愛に変わった時に、今までなかったものが、二人の目の前に現れ、人は安らぎをそして心の拠り所を求めるのです。
そこには精神的な面も肉体的な面も含まれていて、好きなのに愛しているのに、それなのに、その人といることが苦痛になってくるのです。
全身を投げ出すような恋愛作品です。
『ラビット病』
わがまま放題の日本人の娘と、いたいけな黒人男子のアツアツでラブラブな日常を綴った9編からなる連作短編集です。
ゆりちゃんとロバートのラブラブ生活であり、一見ただのバカップルみたいですが、浮かれた二人の生活の中にも恋の苦みや人を愛することの厳しさが、きちんと描かれています。
ここがポイント
お互いがお互いのことを考えて、幸福な気持ちになれるということは、とても素晴らしいと改めて認識させられます。
どこへ行くにも、くっついている二人を寄り添って生活する兎に例えている、ほのぼのとした作品です。
『ぼくは勉強ができない』
サッカー好きで勉強はできないけど、女性にはなぜかモテる高校生、時田秀美君を描いた連作短編集です。
常識という公式に自分を当てはめるな、自分にとっての正解を導き出せるのは、自分だけなのだ。
この作品は格好悪い人間にならないための教科書であり、当たり前の中にない、大切なものをどれだけ拾えるかを教えてくれています。
ここがポイント
そして、秀美が己を貫けたのは、自分を絶対的に承認してくれる母親と祖父が居たからこそだと思います。
自分を信じてくれる人間が身内にいるだけで、何かを実行する勇気が貰えるのです。
何度も読み返したくなる作品です。
『A2Z』
編集者である夏美と一浩は、夫婦であり、ライバルでもあるのですが、二人共が不倫をしている話です。
各章にAからZまでのアルファベットを頭文字とした、キーワードが入っていて、乾いたユーモアを交えながら、洗練された筆致で物語は展開していきますが、行間から恋愛の切なさが伝わってきます。
恋愛は光と影のようであり、はじめのうちは一筋の光が何とも嬉しいものなのですが、時が経つと光が当たり前になってきて、影の部分を不安に思えてくるのです。
ここがポイント
恋心もまたかくのごとしであり、変わらぬ価値観を共有している相手こそが、失いたくない人なのです。
いろんな夫婦の在り方を考えてしまう作品です。
『風味絶佳』
男女関係のいろいろな要素を引き出し、紡ぎだしている6編からなる短編集です。
すべて肉体労働に携わる男性の恋を描いていて、歪んだ恋もあれば、狂った恋もあり、理解できない恋もあるのです。
すべての恋が壊れ物のように繊細なタッチで描かれています。
ここがポイント
そして、どの話にも強烈なキャラクターが存在していて、そしてそれらは皆、自分の完成したポジティブな価値観をもっているのです。
まさに風味絶佳という言葉が相応しい作品です。
まとめ
山田詠美氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
様々な恋愛のパターンを楽しんでください。