独特の雰囲気のある、呉勝浩氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきます。
大学の映画学科を卒業後、2015年に「道徳の時間」という作品で、第61回の江戸川乱歩賞を受賞し作家デビューを果します。
卒業後すぐに作家になったわけではなく、アルバイトを転々としていたそうですが、不良アルバイターだったようで、バイト先のエリアに着いたら先ず、ファミレスに入り本を読んでいたそうです。
呉勝浩おすすめ作品7選をご紹介~何をしでかすかわからない~
現在はコールセンターの管理者という仕事をしていて、週休が3日あるので、その中で執筆しているそうです。
現在の職場はいろいろな人が働いているので、人間観察するにはいい職場で、作品を創作するうえでも参考になるそうです。
執筆する前には、必ずタバコを吸ってから、取り掛かるようで、呉氏にとってはタバコを吸うことがルーティンのようなものだそうです。
そんな呉勝浩氏のおすすめの作品7選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『道徳の時間』
鳴川市で起きている連続いたずら事件と、過去に起きた鳴川事件を軸に、ジャーナリストの伏見が真実に挑んでいく話です。
過去に起きた事件の犯人は、今もなお事件の真相を語ろうとせず、現在起きている事件も、複雑な様相を呈していきます。
ここがポイント
現在と過去の事件の真相が分った時に、人として、複雑な想いに駆られていくのです。
文章やストーリーに独特の雰囲気もあり、デビュー作としては良作で楽しめる作品です。
『ロスト』
コールセンターでアルバイトをする女性が誘拐されて、身代金一億円を要求される話です。
犯人からの指令は、100人の警察官に100万円ずつ持たせて、指定の場所に、指定の時刻までに運べという何とも奇妙なものなのです。
誘拐犯の交渉の窓口となった会社の上司、誘拐事件を担当した特殊犯係の刑事、輸送役100人の中の一人の生安の刑事、そして誘拐された女性が所属しているタレント事務所の社長の4人がそれぞれの立場の知り得た情報から、徐々に誘拐の真相に近づいていくのです。
ここがポイント
全てが始まるに至った経緯よりも、登場人物それぞれの人間ドラマに興味がいってしまいます。
どちらかと言えば、贖罪をテーマにしている作品のように思えてしまいます。
『蜃気楼の犬』
ベテラン刑事と新人刑事の活躍を描いた5編からなる連作短編集です。
現場の番場と異名を持つ、捜査一課の熟練刑事と、正義感に満ちあふれれたルーキー刑事の船越の「刑事としての正義」対するスタンスの隔たりを意識しながらも、綺麗事や正論だけでは解決できない刑事としての現実を描いています。
また番場には、二回りの下の若い妻がいて、彼女への偏愛ぶりも、全体を通して描かれていて、一つのアクセントになっています。
人間の裏表や被害者と加害者の境界線、善と悪などを常に目の当たりにしながら、たとえそれが、偏った正義であることが分っていても、刑事であり続ける番場の心意気に感動さえ覚えてしまいます。
ここがポイント
よくある警察小説とは違った切り口を味わえる作品です。
『白い衝動』
「人を殺したい」という欲望を持つ少年と、その子に向き合うカウンセラーの話です。
殺人を犯したいという純粋な衝動を抱えた少年と、そのカウンセリングをしながらも、自分もかってそのような衝動に駆られていた奥貫千早の殺人を起こさせないための戦いが描かれています。
そして、千早の住む町にかって残虐な犯罪を犯した入壱が、刑期を終え町に戻ってきたことで、町の人たちは彼を追い出そうと画策し始めていきます。
ここがポイント
様々な問題が絡み、犯罪を犯してはいなくても、その恐れがある人に対して、本当に心を許せる人間はどれくらい、いるのだろうかと思ってしまいます。
異質な人間を受け入れるとはどういうことなのか、誰かが受け入れなければならないのだろうか。
重いテーマであり、心に積まされる作品です。
『ライオン・ブルー』
同期の警官の長原の失踪の謎を解明するために、生まれ故郷の交番勤務となる澤登耀司の話です。
田舎の閉塞感や地元の有力者への媚びへつらい、そして癒着の中での捜査、目に余るものがたくさん出てきます。
そしてそのうちに殺人事件が、立て続けに発生し、ヤクザ、土地の利権争い、暴力、災害など、これでもかというくらいに淀んだ空気が蔓延していきます。
ミステリーの部分よりも、狭い社会のしがらみの中で生きる、窮屈さの方が心に響き、それと同時に登場人物たちが重い荷物を背負っているようで息苦しくなってしまいます。
ここがポイント
自分を捨ててでも守りたかった人への、愛情が鮮やかに表現されている作品です。
『マトリョーシカ・ブラッド』
山中で見つかった白骨死体と公園で殺された死体の傍には、共に同じマトリョーシカが残されていたところから始まる話です。
神奈川県警と警視庁の反目、隠蔽された過去及び過去の新薬を巡る薬物事件などが、複雑に絡みあって展開していきます。
事件解決に向けては、一丸とならなければいけない警察組織の縄張り意識は、嫌悪感さえ抱いてしまい情けなくなってしまいます。
その中でも過去はどうあれ、「自我の中の正義」にかける六條、辰巳、彦坂の3人は清涼感には、感動さえ覚えてしまいます。
ここがポイント
警察組織の闇の部分が垣間見える作品です。
『スワン』
巨大ショッピングモールの「スワン」で起きた、無差別銃撃事件の話です。
死者21名、重軽傷者17名を出した前代未聞の悲劇の中で、高校生であった、いづみは犯人と接しながら生き延びたのです。
怪我もしないで、生き残ってしまったことが、悪なのか、いづみは世間からバッシングを浴びる存在となってしまうのです。
そして物語のメインは、事件から生き残った、いづみを始め5人が集められた、「お茶会」なる催しで明らかになっていくのです。
ここがポイント
事件の悲劇と、その先のさらなる悲劇を明るみにすることで、正義という名の光と闇が浮き彫りにされていくのです。
衝撃に圧倒される作品です。
まとめ
呉勝浩氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。