等身大の感覚で描く、羽田圭介氏のおすすめの作品8選をご紹介いたします。
高校在学中の2003年に、高校生と中学生の兄弟が憎み合う、家庭内ストーキングを繰り返すさまを独特の表現で描いた「黒冷水」という作品で、第40回の文藝賞を17歳で受賞し、作家デビューを果します。
大学進学後、2006年に「不思議の国のペニス」という作品を文藝に発表します。
羽田圭介おすすめ作品8選をご紹介~自分の中の無意識なものを引き出す~
2008年同誌に「走ル」という作品を発表し、芥川賞候補作となります。
大学卒業後は一般企業に就職するも、1年半で退職し、専業作家となります。
その後も執筆した作品が、芥川賞候補に挙がり、ついに2015年に「スクラップ・アンド・ビルド」という作品で第153回の芥川賞を受賞します。
お笑い芸人の又吉直樹氏の「火花」との同時受賞や、本人のキャラクターが話題となり、その後はテレビ番組などマスコミへの出演が激増していきます。
そんな羽田圭介氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『黒冷水』
兄の部屋をあさる弟と、罠を仕掛け報復をする、兄の陰湿な応酬合戦の話です。
偏執的な弟と、その弟を強く憎み報復する兄、弟の方はあまりにも自己評価が高すぎて、話の中で表現されている「自分に対して盲目」という表現がピッタリきます。
ジメジメした感情に心が沈みながらも、物語が加速していく感覚がすごいの一言です。
ここがポイント
そして徐々にエスカレートしていく兄弟の攻防の行き着く先は、読者が予想だにしない展開へと加速していくのです。
最後の兄の感情がとても印象的であり、弟への憎しみ、それに伴う自分の行動の反省、でも弟の為だからと言い訳する醜い心。
ちょっと良心のかけらが残っていたのかと思ったら、最後の一行でドカーンです。
2、『走ル』
自宅に放ったらかしになっていたビアンキのロードバイクに何の気なしに乗ってみると、そこからはいつもと違う景色が見え、部活の朝練に出た後、いつしか北を目指す自転車の旅に変わる話です。
すぐ帰る、もうちょっと行ける、まだまだ行ける、今夜はどこかで休もうという繰り返しでひたすら走り続ける。
ここがポイント
10代の衝撃的な行動であり、計画も理由もなく、ただその時の気分で走ってしまう気持ち、なんだか分かるような気がします。
こういう気分は大人になってもあるのですが、若い頃のように、行動に移せないのは、仕事とか家族とか振り切れないものがあるからだと思います。
これぞ青春といった、感じの作品です。
3、『御不浄バトル』
主人公はブラックかつ悪徳企業の社員で、自分自身は詐欺に関わってはいないものの、ある顧客を切っ掛けに引きずり込まれてしまいます。
新卒から1年という期間で転職に踏み切ることもできず、どうしようもない怒りや苦しみを、トイレですごす自分だけの時間を作ることで、やり過ごそうとする話です。
トイレ争奪戦や、トイレ内での食事、自慰などシュールに見せる箇所が多いですが、的確に心情を描いています。
ここがポイント
思うように好転しない現実と、様々な欲が満たされるトイレの対比を上手く捉えています。
展開も面白いのですが、それ以上に空気感の表現に引き込まれる作品です。
4、『盗まれた顔』
警視庁の見当たり捜査官が、死んだはずの同僚の顔を見かけたことにより、隠された事件に巻き込まれる話です。
「見当たり捜査」とは、数百人の指名手配犯の顔を記憶し、繁華街に出向きその顔を見つけ出し、逮捕するという職人技の地道な捜査のことなのです。
ここがポイント
刑事の白戸は見つける側であるはずが、見つけられる側に転じたのは、ひとりの中国人マフィアを歌舞伎町で逮捕した時だったのです。
特殊な捜査員の姿が描かれていて、架空の操作方法のようでもあり、500人の顔を覚えて、人ごみの中の手配犯を探すのです。
自分の精神を追い詰めるような緊迫した世界、描写が丁寧なので、状況が目に見えるみたいで、最後の最後まで楽しむことが出来る作品です。
5、『スクラップ・アンド・ビルド』
毎日のように「死にたい」と口にする祖父に、安らかな死を提供しようと画策する孫の健斗の話です。
健斗は祖父の身体や脳の動きを奪う為に、手厚い介護をすることで、本人から心身の能力を弱らせて、死に至らす計画を実行していくのです。
健斗の母も祖父に暴言を吐く様子も生々しく、肉親の方が被介護者にきつく当たることが多いというのも納得できます。
結局、物語の最後まで、生と死、どちらに振り切ることもできていず、どうすればいいのかも定かではない、そんな状況で闘いは続いていくのです。
ここがポイント
それらを肯定や否定ではなく、ありのままを書こうとしている感じが見事な作品です。
6、『成功者K』
芥川賞を受賞してから、成功者Kとなった小説家が、調子に乗って、ファンや芸能関係の女性と性交しまくる話です。
どこまでがフィクションで、どこからがノンフィクションなのか、作者を知る人は、倍楽しむことができると思います。
何かを得るためには、何かを失う覚悟が必要であり、成功を得るために失うのは、大切な人かもしれないし、プライベートかもしれないし、自由な時間かもしれないのです。
ここがポイント
何かを失ってもよいと思える人だけが、成功者になれるのかもしれません。
この世界の自分勝手なナレーターになってしまえば、失ったものには目も向けず、前だけ向いて進めるのです。
その結果得た成功というものは、果たして幸せと言えるのでしょうか。
やはり、身の丈に合った成功は、あるかもしれないと教えてくれる作品です。
7、『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』
日々起きている、誰もがどこかで違和感を感じているであろうことを、ゾンビというものを通して皮肉った話です。
流されるままに、大きな文脈に乗る意志を持たない人々のことを、ゾンビに重ね合わせています。
分かり易く大味な物語だけを好む小説や、凝り固まった評価軸しか持ち合わせていない文壇への羽田氏の怒りが伝わってきます。
ここがポイント
しかし、伝えようとしているメッセージは、「自分の頭で考えろ」というストレートなものであり、それを救世主の能力に重ね合わせるところに、世間に対する羽田氏の希望がみえる作品です。
8、『5時過ぎランチ』
少しずつリンクしていく、定時にランチにありつけない仕事を描いた3編からなる短編集です。
歪な家族を支えるGSの敏腕アルバイト女性、小麦アレルギーの殺し屋、そして仕事と自身の幸福の狭間で揺れ動く、スキャンダル系写真週刊誌のライターの3人が登場します。
いわゆる普通の会社員とは違い、この3人は、それぞれの相手を救う為に、ヤクザを罠に嵌めたり、米粉を買い続けるアレルギーの仲間の為に裏切り者を片付けたり、体制に潰されても立ち向かい、悪を駆逐するのです。
ここがポイント
仕事の数だけ、苦労があると思える作品です。
まとめ
羽田圭介氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
新しい発見に出会えるかもしれません。