ワクワク感が味わえる、佐藤正午氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきます。
大学在学中に同郷の作家である野呂邦暢氏の「諫早菖蒲日記」という作品に感銘を受け、ファンレターを書き、返事をもらったのをきっかけに、小説を書き始めます。
その後大学は中退し、故郷の佐世保に戻り、1983年に2年がかりで書き上げた長編小説の「永遠の1/2」という作品ですばる文学賞を受賞し作家デビューを果たします。
その後の執筆作品も各文学賞を受賞したり、候補に挙がったりして、ついに2017年「月の満ち欠け」という作品で第157回の直木賞を受賞します。
佐藤正午おすすめ作品8選をご紹介~自分は安楽椅子小説家です~
佐藤氏の執筆の基本は、「こういうことが起こったら、おもしろいんじゃないか」いうことにあるようで、あとはそれを、小説の中でいかにリアルに、感じてもらえるように書くかということだそうです。
一日の過ごし方は、午前10時過ぎから午後1時まで執筆して、その後は仕事はしないそうです。
それだけでも仕事をすると、疲れ切ってしまい、本当に動けなくなってしまうそうです。
そんな佐藤正午氏のおすすめ作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『永遠の1/2』
自分とそっくりな男がこの町にいて、それをきっかけに様々なトラブルに巻き込まれていく男の話です。
20代後半の男性が、巻き込まれている不思議な出来事が、淡々とした口調で語られています。
ここがポイント
永遠に終わらないんじゃないかと思うような、なんてことがない日常の描写、主人公の中で相反する感情が同時に湧きおこる瞬間の描写がリアルです。
文章にユーモアがあり、仕掛けもあって、冗長なところもありますが、心に残る作品です。
『彼女について知ることのすべて』
小学校の教師が魅惑的な女性と出会い、その後の人生が、グダグダに変わってしまうという話です。
8年前の記憶と現在が行ったり来たりするので、順序立てて整理しないと迷ってしまうかもしれません。
ここがポイント
あの時、犯罪に手を染めていたなら・・・、あの時もう一度女の部屋に戻っていたなら・・・、と考えると今の自分はどうなっていただろうという余韻が汲み取れます。
様々な男女関係において、女性の方が男性よりも相手を知り尽くしているのではないかと思える作品です。
『君は誤解している』
競輪を舞台にした人間模様が詰まった6編からなる短編集です。
ギャンブルの魅力、競輪の魅力に憑りつかれてしまった男女の姿が描かれています。
競輪を通じての出会い、別れ、切なさ、虚しさなどが事細かに綴られていて、ギャンブル好きの人にとっては自分のスタイルを見直す格好のテキストになるかもしれません。
ここがポイント
ギャンブルを忌み嫌う人にこそ読んでもらいたい作品です。
『アンダーリポート/ブルー』
時効を迎えた15年前の事件の真相を見つけ出そうとする検察事務官の男の話です。
冒頭に謎が提示されて、少しずつ紐解かれていく流れで物語は展開していきます。
派手さとかはあまりなく、心の揺れ動きの表現が巧妙に描かれているので、引き込まれてしまいます。
男が過去を思い出しながら、話が進むので、同じシーン、台詞等の描写が繰り返し出てくるたびに、読み手の記憶も補充されていくのです。
事件の真相がハッキリしているのにも関わらず、遠回しな会話、曖昧な言葉が多くてモヤモヤしますが、結局それがどういう結末になったのか、明示されないのが、何とも言えず、印象的です。
ここがポイント
計算されたかに映るワクワク感が味わえる作品です。
『Y』
アルファベットのYのように、分岐点でどちらを選ぶかで、全く別の人生を歩むことになるタイムスリップの話です。
男女二人による気になる始まり方、覚えのない親友からのミステリアスな電話等、読み始めると同時に引き込まれてしまいます。
人生にはいくつものYの字ような二股に分かれた選択肢があり、その都度どちらかを選びながら進んでいるのです。
ここがポイント
誰しも一度くらいは、あの時、ああしておけば、もしあの時に戻れるものなら、今度はYの違う道を選ぼうなどと思ってしまうのです。
端から過去に戻れることを当然とするのではなく、ひょっとしたらということだと、程よいリアルさをかかえながら、のめり込める作品です。
『身の上話』
少しのはずみでとったその一歩から、流れ流され、運命が翻弄されていく主人公ミチルの頼りなさが描かれた話です。
書店員の若い女、ミチルが不倫相手と駆け落ちする話に、頼まれて買った宝くじが高額当選する話が絡んで、邪魔になった人間を簡単に殺していく様が綴られています。
初めから最後まで、一人の人物の語りで構成されていて、濃密でありながらも追いやすい文章で読み進んでいけます。
ここがポイント
どこにでもありそうな日常の瑕疵、愚かさや不実さを、急に転がり込んできた大金が増殖させて人間を破滅させてしまう、そんな恐ろしさが、湿った静かなリアルさで迫ってきます。
これだから読書は止められない、心からそう思える作品に間違いありません。
『鳩の撃退法』
しがない元小説家の男が、偽札事件に巻きこまれ、更に一家三人神隠し事件も絡んで複雑な様相になっていく話です。
偽札を掴まされて、様々なトラブルに巻き込まれていく小説家が、その内容を小説に仕上げていき、それを読者が読むという現在進行形で物語は展開していきます。
主役の独特な語り方、小説の中の小説と現実との交錯、行きつ戻りつするストーリーと伏線。
文章の構成に驚くばかりですが、話の内容も上巻で仕掛けられた謎が見えていく面白さも楽しめます。
ただし、最後には全てがスッキリという訳でもなく、過去の一時点に逆戻りしたりして、そこからまた物語は続いていくのです。
終わってしまうのが、惜しくなってしまう作品です。
『月の満ち欠け』
不慮の事故で亡くなった人妻の瑠璃が、何度も生まれ変わって、元大学生に再会しようとする話です。
愛する人の為に何度も生まれ変わるというのは、現実の世界であったなら、少し怖い気持ちになってしまいますが、小説の設定としては、ロマンチシズムに溢れています。
人の死に方は2種類あって、樹木のように死んで種子を残す、要するに自分は死んでも子孫を残すことと、もう一つは月の満ち欠けのように、死んでも何回も生まれ変わること。
ここがポイント
女性の想いの強引さに引き込まれる、不思議な余韻の作品です。
まとめ
佐藤正午氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
その卓越した、文章表現は感じ取っていただけ増してでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。