独特の視点で描く、門井慶喜氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、1994年から2001年まで、宇都宮市にキャンパスのある大学で職員として勤務しています。
2003年に「キッドナッパーズ」という作品が、第42回オール讀物推理小説新人賞を受賞し作家デビューを果たします。
2005年には、妻の実家のある大阪府寝屋川市に転居し、自宅近くのアパートを借りて、執筆場としているそうです。
門井慶喜おすすめ8選をご紹介~ありのままを差し出す姿勢を貫く~
2018年、「銀河鉄道の父」という作品で、第158回直木賞を受賞します。
門井氏は作家になろうと決意したことはないそうで、「作家になるもんだ」と思い込んでいたそうです。
子供の頃から小説が好きだったので、読書を通じて、自然と「自分は作家になるもんだ」と思っていたので、大学卒業が近づいて、みんなが就職先を探している時に、もしかして、小説を書かなくては作家になれないのではないかと、22歳にして、初めて気付いたそうです。
そんな門井慶喜氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『美術探偵・神永美有 天才たちの値段』
美術探偵・神永美有シリーズの第一弾であり、短大の美術史講師の佐々木昭友と美術コンサルタントの神永美有のコンビが美術品に関わる謎解きをする5編からなる連作短編集です。
鑑定眼ならぬ、何とも奇妙な鑑定舌で美術品の真贋を見極める天才美術探偵、神永美有が活躍します。
証拠を一つひとつ積み上げて、解決に至る道程が、淡々と描かれているところに、押しつけがましさのない軽快さを感じます。
ここがポイント
ミステリーでよく使われるネタが、美術という切り口から入り込んでいる斬新な作品です。
『おさがしの本は』
本や図書館にまつわる謎解きの話を集めた5編からなる連作短編集です。
ここがポイント
図書館のレファレンス・カウンターで働く主人公、和久山隆彦の話であり、図書館に関する問題意識が描かれています。
少ない情報や間違った情報から希望の本を見つけ出すのはとても大変であり、いろんな経験と知識が必要になってくるのです。
そして途中から怪しい雲行きになり、図書館不要論や民間委託など、かなりヘビーなテーマが職員と館長の間でディベートされ、議論は市議会にまで及んでいくのです。
図書館の存在意義を考えるきっかけとなる作品です。
『小説あります』
一冊の古本と、その作者ゆかりの閉鎖寸前の文学館をめぐる話です。
謎の失踪をした作家をめぐり、兄弟が、何故人は小説を読むのかという問答をしながら、作家の遺稿本の謎にも迫っていきます。
ここがポイント
小説とは何なのか、自分にとって何の役に立っているのか、主人公と共に考えさせられます。
物語はフィクションながらも、実在の作家たちの名前が登場するので、現実と入り混じった不思議な感覚になってしまいます。
大きな動きや痛快さもそれほど感じませんが、じんわり緩やかに効いてくる感じの作品です。
『ホテル・コンシェルジュ』
ベテランコンシェルジュの九鬼銀平が新人でフロント係の坂名麻奈を助手代わりにして、持ち込まれる難題を次々に解決していく5編からなる連作短編集です。
ホテルの滞在者のみならず、レストランやカフェの一見の客に対しても、サービスを提供するコンシェルジュ。
謎解きが主体なのですが、短編という事もあり、最後にはあっさりと予想もできない展開で謎は解かれてしまいます。
ここがポイント
どちらかというと、謎解きよりも周りの人々のキャラクターが楽しめます。
特にホテルの宿泊客の桜小路清長とその伯母さんの突拍子もないドタバタな行動と言動が興味をそそります。
気分転換用にさらりと読める作品です。
『東京帝大叡古教授』
東京帝国大学の叡古教授と熊本から上京した高校生の阿蘇藤太が、連続殺人事件や首都の騒乱事件に巻きこまれる話です。
明治時代を舞台にしていて、大学教授を名探偵に据えた政治系ミステリーであり、知の巨人の活躍が描かれています。
また、夏目漱石や徳富蘇峰といった著名人も多く登場し、どこまでが史実でどこからが創作なのか判らないくらい面白く楽しめます。
ここがポイント
そして最後に意外な重要人物が現れて、日露戦争以降の日本の歴史につながる驚きのエンディングとなります。
歴史小説とミステリーが融合した作品です。
『家康、江戸を建てる』
家康が江戸を整備して一大都市に仕上げていく過程を「治水」、「金貨鋳造」、「上水道」、「江戸城の石垣」、「天守」の五つの柱として描いた5編からなる連作短編集です。
話の展開はテンポ良く、さらっと読めながら、内容はしっかりと味わい深くなっています。
湿地ばかりが広がる江戸の土地が、京都、大坂から名実ともに日本の中心として、ゼロから築かれていく過程は目を見張るものがあります。
ここがポイント
また、直接的ではない家康の影響力や人間的な底力に恐れ入ってしまいます。
建設機械など無い時代に、このような大規模なインフラ整備が行われていたことに驚きを隠せない作品です。
『銀河鉄道の父』
決して長くはない紆余曲折に満ちた、宮沢賢治の生涯をその父、政次郎の視点から描いた話です。
ここがポイント
童話や詩の世界からしか見ていなかった宮沢賢治が、父親目線で語られることによって、人間臭い人物に思えてきます。
どこまでが真実であるかは推し量ることはできませんが、しきたりや家計を重んじる東北の風土にあって、その時代の世間体に対峙し、苦悩しながらも子供の理想に寄り添った父、政次郎の姿勢に感動すら覚えてしまいます。
親バカと言ってしまえばそれまでですが、大きな愛につつまれて育った賢治はこの父親なくしては考えられません。
宮沢賢治の奥を覗けた気分になれる作品です。
『定価のない本』
終戦直後の神田神保町の古書店主の琴岡庄治が、同業者が本での圧迫死した謎を追いかける話です。
ここがポイント
GHQは日本国民の矯正という責務から、日本の古典・歴史を消し去り、新しい歴史を与えようとしたのです。
1500年の歴史を持つ国の消滅を計画していたGHQに売り渡した大量の古典籍を古書店主たちが力を合わせて買い戻すのです。
謎解きとしてよりも、自国の文化を守ろうとする琴岡たちの戦いの方に、興味を引かれてしまいます。
終戦直後の古書の世界を知ることができる作品です。
まとめ
門井慶喜氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
独特の視点で語られる内容に思わず引き込まれてしまいます。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しさが広がりますよ。