人間の悲哀を描く、桜木紫乃氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきます。
高校卒業後、裁判所でタイピストとして働いていましたが、結婚を機に24歳で退職して、専業主婦となります。
夫の転勤に伴い、北海道各地に住み、27歳で長男を出産し、続いて二人目の長女出産直後から小説を書き始めます。
そして2007年に「水平線」という作品で作家デビューを果たします。
その後も各文学賞の候補に挙がり、ついに、2013年「ホテルローヤル」という作品で第149回の直木賞を受賞します。
桜木紫乃おすすめ作品8選をご紹介~最上級の人間ドラマを描く~
作風としては、ほとんどの作品が北海道が舞台になっていて、性愛文学の代表的作家として、人間の本能的行為としての悲哀を描いています。
熱狂的なゴールデンボンバーのファンとしても知られていて、ラジオ番組で、鬼龍院翔との初対面も果たしています。
また、金澤伊代名義で、詩人としても活動していて、詩集も刊行しています。
そんな桜木紫乃氏のおすすめ作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『ラブレス』
昭和初期、北海道の開拓村で極貧の家に産まれた姉妹、壮絶な人生を歩むことになる姉の百合江と、堅実な道を歩む妹の里実の話です。
ここがポイント
多くの理不尽な出来事を乗り越えて生きた、姉妹の人生は想像を絶する過酷さが伺われます。
貧困の中に巣食う卑劣さや悲哀に満ちた展開は、読んでいて、とても辛く、苦しくなってしまいます。
傍目から見れば、不幸せに見える姉、百合江の人生ですが、百合江自身にしてみれは最後のその時まで、自分は幸せだったのではと、思っていたのです。
強い女性の生き様を感じてしまう作品です。
2、『ワン・モア』
大人の恋愛を中心に描かれている、6編からなる連作短編集です。
どの話も北海道が舞台になっていて、癌で余命宣告をされた医師の鈴音と、彼女に関わる人々の生きる姿が、北海道の自然を背景に静かに語られていきます。
6つの話はそれぞれ繋がっていて、ラストの表題作へ向かっていくのです。
ここがポイント
人は何のために生きているのか、生きていて、何が幸せと呼べるのか、余命を宣告された鈴音の心の揺れを通して、しみじみと考えさせられます。
登場人物たちの味わい深い台詞もあり、最後に一筋の希望の光が望めるような展開の作品です。
3、『ホテルローヤル』
北海道東部のラブホテルを舞台に展開される、7編からなる連作短編集です。
廃業したホテルを舞台にした短編で始まり、最後はそのホテルの開業を決心する男の話で終わるという、実際とは逆の時間軸で展開していきます。
登場人物も各作品で繋がっていて、ラブホテルが舞台だけに、じめじめしているのかと思いきや、人物自体に焦点を当てることで、身体の欲望よりも内心に目を向けさせているのです。
ここがポイント
慎ましく暮らす人々の心情がうまく描かれていて、昭和の寂れた風景や空気感を感じることができます。
様々な人間模様が、見え隠れする作品です。
4、『誰もいない夜に咲く』
北海道を舞台に、女性が主人公となる7編の短編集です。
北の大地に生きる強く逞しい女性たちの、浮き沈みのある人生模様が描かれています。
自らの下した決断に責任を取り、後悔せずに今を懸命に生きようとしている、男以上の力強さを感じてしまいます。
なのに何故、ダメな男に引っかかってしまうのかと、口惜しくなってしまいます。
もっと視野を広げて、世間を見れば、まともな男はたくさんいるのです。
ここがポイント
男性以上の女性の覚悟に、圧倒される作品です。
5、『蛇行する月』
6人の女性の名前がタイトルに入っている、6編からなる連作短編集です。
二十も歳が離れている年上の職人と駆け落ちした順子より、自分たちの方がまだましだと思っていた節のある、みんなであったが、順子の生き方がブレていないのが分かると、自分の方が幸せなのにと、動揺してしまうのです。
他人の不幸を見て、自分の幸せを確認するのは、現実でも無意識にやってしまっていることなのかもしれません。
まさしく「他人の不幸は蜜の味」という言葉が当てはまってしまいます。
6人のどの女性も所謂、絵にかいたような幸せとは縁のない人生の中、与えられた場所で、精一杯生き抜いていくしかないのです。
ここがポイント
実際、幸せは他人と比較するものではないし、幸せの価値観も人それぞれに違うのです。
その人にとっての幸せは、考え方次第だと思わせてくれる作品です。
6、『星々たち』
親子三代に渡る物語を人生を通して、実に見事に描いた9編からなる連作短編集です。
自由奔放でひとところに留まらない母、どこか幼稚で胸ばかり大きく人間味のない娘、そんな二人の存在すら知らない孫。
誰も気に留めない人生、死んだことも伝わらない家族、それでも生きていく意味があるのでしょうか。
ここがポイント
墜ちて流れていく女の姿態を情感を漂わせて、哀切という儚い性や業の物語として描かれています。
何ともやりきれない、余情に浸ってしまう作品です。
7、『氷の轍 北海道警釧路方面本部刑事第一課・大門真由』
釧路の海岸で80歳の元タクシー運転手の死体が発見され、釧路署の女刑事の大門真由とベテラン刑事の片桐が、事件に挑む話です。
あまりにも孤独な老人の過去を明らかにしながら、二人の刑事は核心へと向かっていきます。
北の寂れた街で、哀しい境遇を背負い、懸命に生きる親子、刑事自身の境遇や新興宗教なども絡んでいて、一気に物語に引き込まれてしまいます。
ここがポイント
ただ生きることだけに精一杯だった人たちの価値観の違いが、重なったことにより、何とも悲しい理由が浮き彫りにされていきます。
派手な展開はありませんが、胸にグッと迫ってくる作品です。
8、『ふたりぐらし』
夫婦とは何ぞやを綴った、10編からなる連作短編集です。
映写技師の信好と看護師の紗弓、夫婦それぞれの視点が入れ替わりながら、ストーリーはてんかいしていきます。
夫には、ほとんど仕事がなく、ヒモ状態で、今でも脚本家になる儚い夢を持ち続けているのです。
お互いの距離に気を遣い、お互いの実家には、より気を遣い、そして、二人の周りにある、いくつもの二人暮らしを見つめ、思いながらの道程があったのです。
そこにじんわり染み入る様な感動が、散りばめられていることがわかります。
ここがポイント
静かな日常に、ささやかな幸せを感じてしまう作品です。
まとめ
桜木紫乃氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。