ジャンルを超えて読者を魅了する、本谷有希子氏のおすすめの作品9選をご紹介させていただきます。
2000年に「劇団、本谷有希子」を旗揚げし主催として、作、演出を手掛けています。
2007年には「遭難、」で鶴屋南北戯曲賞を最年少で受賞し、2009年には「幸せ最高ありがとうマジで!」で岸田國士戯曲賞を受賞しています。
本谷有希子おすすめ9選をご紹介~あなたをスリリングな世界へ導く~
2002年から小説家として、活動を開始し、2011年「ぬるい毒」という作品で、野間文芸新人賞、2013年には「嵐のピクニック」という作品で大江健三郎賞を受賞しています。
その後も意欲的に作品を発表し、2014年に「自分を好きになる方法」で、第27回三島由紀夫賞を受賞、2016年に「異類婚姻譚」で、第154回の芥川賞を受賞します。
笙野頼子氏、鹿島田真希氏に続いて史上3人目の純文学新人賞の三冠作家となります。
※純文学新人賞三冠とは:芥川賞、野間文芸新人賞、三島由紀夫賞の受賞者。
そんな本谷有希子氏のおすすめの作品9選を、ご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『江利子と絶対』
人間の心の奥底に潜む、善意、ユーモア、想像力を本谷氏独自の感性で描いた3編からなる短編集です。
引きこもり女子と捨て犬の底辺感が漂ってくる表題作の「江利子と絶対」、更には陰々滅々感がエスカレートしてホラーとしか言いようのない「生垣の女」、そして閉鎖空間で殺人鬼に狩りたてられる子供たちを描いた「暗狩」はまさしくサスペンスホラーそのものと言えます。
ここがポイント
どの作品も追い詰められる人が描かれていて、死というものを覚悟した時に、どういう生き方や行動が生まれて、さらに困難が去った後に、どういう影響を与えるのかみたいなことが、実験されているように思います。
ジャンルにとらわれない、不穏で緊迫感のある作品です。
2、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』
エキセントリックな女優志願の姉の澄伽と、内に秘めた想いが凄まじい妹の清深、血の繋がっていない兄の穴道、そして穴道の妻である待子の4人のおかしな人たちによる死闘のような、ぶつかり合いの話です。
一癖も二癖もある登場人物たちが、ドロドロの欲望をぶつけ合い、悲劇とも喜劇とも言い難い流れで物語は展開していきます。
都会ではみんな自分の本性を隠しながら生活しているのが当たり前で、主人公の澄伽も例外ではなかったのです。
しかし、両親の突然の事故死で田舎に帰り、そこで出会う家族の中で再び覚醒してしまうのです。
今までの抑圧をぶっ飛ばし、絶望感から這い上がっていくのです。
自分の本性を見せない人々に対しても、感情を爆発させろ、腹の底をみせて生きてみろという声が聞こえてきそうです。
ここがポイント
建前ばかり言っていないで、まさに、「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ!」なのです。
本谷氏の想いが、ガンガンと伝わってくる作品です。
3、『生きてるだけで、愛。』
過眠症と躁鬱症状に苦しむ、失業中の25歳女性の恋愛や日々の苦悩、他者との関わりを描いた話です。
青春ものでありながら、爽やかな場面は少なくて、主人公の寧子は終始、同棲している男、津奈木や、その元カノに対してイライラしているのです。
ここがポイント
お互いを分かり合いたい、つながりたいと思える存在に出会えることや、一瞬でも分かり合えたと思える瞬間をもてることは、この上なく幸せなことだと思ってしまいます。
やはり人の感情の読み取ることは、本当に難しいと感じてしまう作品です。
4、『乱暴と待機』
天井裏から妹の奈々瀬を覗く兄の英則と、覗かれながら復讐の機会を待つ奈々瀬、そして英則の同僚の番上と、その恋人で、奈々瀬を敵視している、あずさの4人の話です。
この個性豊かな4人が繰り広げる物語は、奇妙奇天烈ですが、何故だか妙に引きつけられてしまうのです。
それは弱い女と強い女との間で、生まれる女の業や、奇妙な男女関係の間に横たわっている愛が、説得力を持って描かれているからなのです。
ここがポイント
どうでも良さそうな場面を丁寧に描いていたり、逆にここが見せ場というところをわざとボケで笑いにしたりと、読む者の気持をすかしますが、緩急のある間やストーリー性は飽きることがないのです。
不快感がありながらも、妙にしっくりくる部分もある作品です。
5、『あの子の考えることは変』
ルームシェアをしている23歳のイケてない女性2人が、下ネタと汚物と悪意にまみれて、ひたすら痛い行動をエスカレートしていく話です。
処女で手記を書いているという日田と、巨乳だけが取柄の巡谷が、お互いに変な奴だと思っていて、客観的に見ても2人は相当ヤバイ奴らなのです。
2人のあまりの振り切り加減に初っ端から面食らってしまいますが、読み進めるにつれ、いろんな意味で一線を越えそうなギリギリのところで生きている2人があまりにも痛々しくて、切なくて、不思議と愛おしく感じられてくるのです。
ここがポイント
笑えるところや、不快なところなどいろいろとありますが、不思議な魅力のある作品です。
6、『ぬるい毒』
見栄を張る女と、嘘をつく男の話です。
嘘をつかれているのを知りながら、いつか仕返ししようと時期を伺うも、やがて飲まれ、ゆるく溶けてゆく主人公なのです。
狡猾で途轍もない嘘つきで、恐ろしいほど魅力的な男である向伊と出会った熊田由理は、自ら進んでぬるい毒に犯される事を望むような、ちょっと痛い女性だったのです。
自分の本心を押し殺したまま、周りが期待する自分をつい演じてしまい、いつの間にか全く望んでいなかった方向に話がすすむという内向型人間特有の苛立ちが、良く分かります。
ここがポイント
他人を傷つけることに何の躊躇いもない向伊のような人間は、もちろんクズですが、往々にして魅力的に見えてしまうのかもしれません。
何とも不思議な気持ちにさせてくれる作品です。
7、『嵐のピクニック』
奇妙な味わいを楽しむことができる、13編からなる短編集です。
発想、設定がとても工夫されていて、こんなことが起こったら面白いと考えるようなことを書いてくれているようであり、自由な印象を受けてしまいます。
切れ味が鋭いだけでなく、どれも奇妙な世界ながら、脳内再生がしやすく、一般常識が正しいとは限らなくて、いづれもアウトサイドな各話は、ファンタジーのようでもあり、どれもその世界の中のハッピーエンドなのです。
ここがポイント
この世界で生き辛さを感じている者たちの孤独や辛さや閉塞感を、しっかりと描いている作品です。
8、『異類婚姻譚』
設定が異様な感じで、結末も奇抜な4編からなる短編集です。
読み進めるにつれて、ただの暗喩ではないことに気付き、最期には思いもよらない展開が待ち受けていて驚いてしまいます。
何が何の象徴だとか、何々を意味しているとかが、はっきりと分からないながらも、それでも何となく伝えたいことは、伝わる様な不思議な感覚を味わうことができます。
ここがポイント
異形のものにまで、世界を掘り下げ、人間の奥底を照らした感性に、驚愕させられてしまう作品です。
9、『静かに、ねえ、静かに』
不気味で、ゾワゾワとした不安な気分に陥ってしまいそうになる3編からなる短編集です。
不愉快で最も近づきたくない人たちが、ひょっとして、将来の自分の姿だったりするかもしれないという恐怖を想像してしまいます。
3話に登場する人たちのどこかと言うか、かなり、常識とは逸脱した行動が、中毒のように読み手にまとわりついてきます。
人をバカにすることが、案外、読後の快感になっていることに気付いてしまいます。
ここがポイント
全てに共通しているのは、一般からズレている主人公たちが、自分が正しいと信じている故の危うさなのです。
それはネット社会の暗部であったり、貧困や無知からの誤りだったりするのです。
奇妙な不条理さを感じてしまう作品です。
まとめ
本谷有希子氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。