読後に不思議な余韻を感じてしまう、今村夏子氏のおすすめの作品5選をご紹介させていただきます。
大学卒業後は、パソコンなども上手く使えないし、接客なども苦手だったので、契約社員やアルバイトで新幹線やホテルの清掃業務をしていたそうです。
ふとしたきっかげで小説を書き始めたのが、29歳の時で、作家って何となくかっこいいと思って書いたそうです。
そして、書いた作品「新しい娘」(後に「こちらあみ子)に改題」が太宰治賞を受賞してしまうのです。
今村夏子おすすめの作品5選をご紹介~日常に潜む不穏さを描く~
作家になる以前は漫画家になりたかったそうですが、絵をかくのが苦手という何とも、面白い性格のようです。
デビュー作が華々しい評価を受けたので、各出版社から執筆依頼が殺到してしまい、プレッシャーからか、しばらく書けない時期が続いてしまいます。
しかし、編集者からの励ましもあって、完成させることだけを目的に書いた作品「あひる」が再び評価を受けて、自信がついたそうです。
職業作家としての自覚は全くないそうですが、書かなくていいと言われると寂しいので、自分が書いていて楽しいと感じる限りは書き続けていきたいそうです。
そんな今村夏子氏のおすすめの作品5選をご紹介いたしますので、どうぞお楽しみください。
1、『こちらあみ子』
今村氏の原点がここにある、タイトル「こちらあみ子」を含めた2編からなる短編集です。
変わり者の少女、あみ子の純真無垢な行動が周囲の人間を狂わせてしまうのです。
あみ子は自分の気持ちにまっすぐな一方、他人の感情には驚く程、鈍感であり、思ったことをすぐに口に出してしまうのです。
学校にも行かないし、悪気なく人を傷つけてしまうのです。
優しいお母さんは心の病を持ち、お兄ちゃんは不良になり、好きな人からは殴られて歯をおられてしまうのです。
ここがポイント
独特の世界観、不思議な登場人物、文章も言葉も難しくはないのに、読みながら何度も立ち止まってしまい、息苦しい気持ちになってしまいます。
もう一つの話「ピクニック」はお笑いタレントと付き合っているという七瀬さんの話であり、付き合っているのは嘘だと分っている周りの気持ちを想像すると、何となく寂しいような哀しいような感覚に陥ってしまいます。
何とも不思議な余韻が残ってしまう2作品です。
2、『あひる』
表題作「あひる」を含む3編からなる短編集です。
医療系の資格を取るために、家で缶詰になって勉強している女性と、孫の誕生を願う両親の元で、一羽のアヒルを預かることになります。
この、アヒルが近所の子供たちの注目を集めるようになるのですが、やがてアヒルは段々と弱っていくのです。
淡々と進む日常の中に、何ともいえない不安感、気持ち悪さが漂っていくのです。
気付いているのに、気付かないふりをすることがあると思う反面、傍から見るとこんなにも、気持ち悪いことなんだと思ってしまいます。
ここがポイント
穏やかに話が進む中で、異様な雰囲気は却って怖ろしさを感じてしまうものなのです。
表題作以外にも「おばあちゃんの家」と「森の兄妹」が収められていて、嘘に気付かぬふりをする大人、歩けないふりをする老婆、ものを貰う魅力と葛藤する貧しい子供が、主題になっています。
不気味さと同時にほっとする一面もある描写に、複雑な気持ちになる短編集です。
3、『星の子』
生まれた直後から病弱だった我が子ちひろを救いたい一心で、宗教にのめり込んでいく両親と、それに巻き込まれる家族の話です。
新興宗教を軸に、信じる者、蔑視する者、否定する者など、様々な想いを持つ人たちが存在して、そういう人たちに時に傷付けられたり、ときに救われながら生きていく主人公の姿が描かれています。
主人公のちひろは、マイペースで家族が大好きで、純粋な女の子だけど、思春期に入ってから、自分の立場を意識し始めて、思い悩むようになっていきます。
或る時、ふと両親の行動の異常性に気付いてしまいますが、決して家族崩壊する訳でもなく、ちひろの親思いの優しさは変わることなく、立派に巣立っていくことを示唆してくれています。
ここがポイント
切なさと温かな余韻が残る、味わい深い作品です。
4、『父と私の桜尾通り商店街』
今村氏独特の世界観のある、書き下ろしを含む6編からなる短編集です。
どの話も相変わらずの、ざわざわ感があり、何でもない日常を切り取っていながら、結末はそうなっては欲しくない方向へとどんどん進んでいってしまうのです。
今村氏の描く子供は、とても無邪気で、特に変わっている様子はないのですが、一緒にいる大人があらぬ方向に持っていかれてしまうのです。
そうじゃないと思っていても、実際そうなってしまうのです。
ここがポイント
非常識ではずれな人たちでも、一生懸命に生きていることはひしひしと伝わってきて、明るい見通しが作品中に描かれていることに救われます。
不思議な世界観にハマってしま作品です。
5、『むらさきのスカートの女』
むらさきのスカートの女を、黄色いカーディガンの女(私)の視点で語る話です。
街で有名なむらさきのスカートの女と友達になりたい私は、いつも監察していたのです。
そして一緒の職場まで勧誘し、そこで生き生きと働くむらさきのスカートの女とは対照的に、私の行動には不穏な空気が漂っていくのです。
最初は単純に私のむらさきのスカートの女に対する、ストーカーの話として読めますが、途中から私はむらさきのスカートの女の化身でないかと思ってしまいます。
ここがポイント
異常であると思われていたむらさきのスカートの女の正体が分るにつれて、その異常さが失われて、私の方がが狂気へと変わっていってしまうのです。
色々な捉え方ができる作品です。
まとめ
今村夏子氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
日常に潜む不穏さは感じていただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみがひろがりますよ。