卓越した表現で魅了する、中村文則氏のおすすめ作品15選をご紹介させていただきます。
中村氏は大学卒業後、フリーターを経て、2002年に「銃」という作品で第34回新潮新人賞を受賞し、作家デビューを果たします。
2004年には「遮光」で第26回野間文芸新人賞、翌2005年には「土の中の子供」で第133回芥川賞を受賞するなど、その卓越した実力が認められています。
また、2010年「掏摸」で第4回大江健三郎賞を受賞し、同作品の英訳書は海外の賞も受賞しています。
中村文則おすすめ15選をご紹介~純文学と本格ミステリーの同在~
中村氏の作品はミステリーやスリラー要素を感じさせる純文学作品であり、国内外で幅広い層の支持を得ています。
また、テーマとして人間を書くことをいつも念頭においていて、人間の根源がある、悪の側から書いているそうです。
そんな中村文則氏のおすすめの作品15選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、《銃》
銃を拾った青年が、銃の魅力に憑りつかれてしまう話です。
キケンなモノを手にしてしまった青年の心の変化に焦点をあてて、ストーリーは展開していきます。
ここがポイント
銃を扱うことへの欲求と、リスクによる抵抗の相反する二つの感情が、絶妙に描かれています。
予想をはるかに超えた、衝撃のラストが味わえる作品です。
2、《遮光》
圧倒的な闇の中、虚言によってのみ世界とつながっている、男の話です。
ここがポイント
事故で恋人を亡くした男は、心の闇を虚言で覆い隠すうちに、だんだんと自分を見失っていくのです。
彼の虚言癖は幼い頃、両親と死に分かれて、その悲しみから立ち上がれないうちに、悲しい気持ちを隠して生きるように仕向けられたことが、原因だったのです。
痛々しいほど切ない気分になってしまう、胸に重くのしかかる作品です。
3、《悪意の手記》
死に至る病から、奇跡的に生還した少年が、親友を殺してしまうという話です。
ここがポイント
何故、殺人を犯してはいけないのか、人殺しの贖罪とは何なのかを問いかけてきます。
人の悪意から絶望が生まれ、そしてその絶望が人が生み出すものではなく、もともと存在するものだとしたら、絶望に気づかないことが、どれだけ幸福なことなのかが分かります。
究極のテーマに向き合った作品です。
4、《土の中の子供》
幼い頃のトラウマと対峙する、27歳のタクシードライバーの男の話です。
幼い頃に恐怖を身体の奥底まで沁み込まされた男は、自らを必然的に危険な場所に追い込んで、生と死の衝動の中でもがきながら、自分の心の中に巣食っている何かを探し続けていきます。
ここがポイント
簡単には消えないような自己への強烈な否定や、それに対する反発など、様々な想いを感じとることができます。
また、中村氏初の「蜘蛛の声」という短編も収録されていて、見逃せない作品です。
5、《最後の命》
子供の頃に遭遇した事件から、精神的打撃を受け、生きていくことに考え悩む、私と友人の話です。
集団レイプの犠牲となり、挙句の果てに殺されてしまった憐れな精神薄弱女性の苦境を目の前で見ながら、何もできなかった二人の少年。
そしてその後、それぞれ別の形で成長に深い影を落とし、本当の悪にもなれず、出口のない自問を投げかけては、苦しみ続けていくのです。
延々と続く深い闇の葛藤から、ミステリー的な要素が現れてきます。
ここがポイント
理性と本能の間で揺れる気持ちが、リアリティたっぷりに描かれている作品です。
6、《掏摸》
天才掏摸(スリ)師が悪の組織に、巻き込まれていく話です。
金持ちしか狙わず、売春婦の息子を母親の虐待から、救おうともする天才掏摸師の暗躍と悲劇が描かれています。
無理難題と思える仕事をギリギリの知恵で、こなしていくシーンは見ものであり、手に汗を握ってしまいます。
ここがポイント
理不尽な力に翻弄される掏摸師の姿に切なくなり、生まれた環境で決まってしまう、運命の不条理を感じてしまいます。
やはり、すごいとしか言いようのない作品です。
7、《なにもかも憂鬱な夜に》
刑務官の主人公が、控訴期限の迫る死刑未決囚の青年と接し、自身の抱える感情と向き合う話です。
重大犯罪と死刑制度、生と死について、あらためて考えさせられてしまいます。
ここがポイント
人間の心の底にある歪みや葛藤、そして生と死に対して、きれいごとではなく、正面から向き合って描かれています。
社会の様々なことが、問題提起されているように思える作品です。
8、《世界の果て》
独特な世界観で描かれた、中村氏初の5編からなる短編集です。
ここがポイント
異常な人の異常な話ばかりですが、自分がその人間たちのある意味人間らしい精神の、内側に迷い込んだかのような感覚にさせられてしまいます。
暗い内容の話の連続ですが、文中にある「明るさが時に人を阻害する」という言葉が印象に残ります。
不思議で不可能な世界に行ってしまいそうな作品です。
9、《悪と仮面のルール》
邪の家系で育てられた主人公が、その家系の大いなる運命に対し、抵抗することを試みる話です。
愛する少女を守るために、実の父親を殺害した少年が大人になり、新たな顔と身分を手に入れて、再び彼女のために動き出していきます。
ここがポイント
悪とは何なのか、人を殺すということはどういうことなのか、その本質を深く問いただしています。
人間として生きていくためには、超えてはならない一線が確かにあることを示唆しているように思います。
アメリカのThe Wall Street Journal」2013ミステリーベスト10にも選出された作品です。
10、《王国》
「掏摸」の兄妹篇であり、身寄りのない孤独な、ハニートラップを仕掛ける娼婦の女性が、主人公の話です。
ここがポイント
圧倒的な悪によって、運命のすべてを管理されている状況から、果たして女性はどうやって逃げだせるのでしょうか。
絶対的な力を持った悪から逃げる過程はスリルがあり、手に汗握る展開で楽しませてくれます。
ハラハラ、ドキドキの展開を味わえる作品です。
11、《教団X》
主人公の彼女が行方不明になり、その足跡をたどっていくと、謎のカルト集団「教団X」に突き当たる話です。
二人の宗教団体の教祖が対照的であり、神、宇宙、戦争、国家、経済、人間を基から描いています。
また、性的描写も非常に多いのですが、筆者が何を訴えたいのかが、伝わってくるような感じで捉えることができ、それほど気にはなりません。
ここがポイント
人間の光と闇を捉えようとする、筆致に圧倒される長編作品です。
12、《A》
異次元的でバラエティーに富んだ話が13綴られた短編集です。
ここがポイント
長編にはない旨味があり、味わい深く、意識の開放ができます。
中村氏の内面が少しだけ見れたような気分に陥ってしまいうのですが、理解するのにかなり難解な作品に間違いありません。
13、《あなたが消えた夜に》
通り魔殺人事件を追う二人の刑事の前に、立ちはだかる問題に挑んでいく話です。
中盤までは二人の少し笑えるようなやり取りも挟みながら、王道ミステリーのように展開していくのですが、終盤の手記のところから話は急展開を迎えます。
ここがポイント
人間の性というか、犯人の内面に迫る部分は圧巻であり、人間のこころと神について考えさせられます。
歪んだ愛を持っている男を描いた作品です。
14、《私の消滅》
重度のうつ病の女性を愛してしまった精神科医師の話です。
読み手を狂気の世界へ導く、惑わすような言葉でストーリーは展開していきます。
残酷な世界や人生の歪みに対し、さらに歪んだ抵抗の仕方であり、決して共感などできたものではありません。
ここがポイント
医療問題だけではなく、多くのことに気付かされる作品です。
15、《R帝国》
近未来の島国のR帝国が隣国と戦争をする話です。
近未来で起こる侵略、戦争、その裏で行われているであろう、情報操作の数々。
SNSを使って、個人の意見を容易に発信できるようになり、多数派と異なった意見を述べると、すぐに集中砲火を浴びてしまうのです。
近い将来、自分の意見が言えない世界になってしまうのでしょうか。
ここがポイント
世界の近い将来に、警鐘を鳴らしているような作品です。
まとめ
中村文則氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
そして中村氏の独特な世界にハマってください。