イヤミスの女王、湊かなえ氏のおすすめの作品16選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、アパレルメーカーに就職し、1年半の勤務の後、青年海外協力隊の隊員として2年間トンガに赴任して、家庭科の教師として栄養指導に携わります。
帰国後、27歳の時に結婚をして、翌年第一子を授かり、形に残せるものに挑戦したいという意向から,、創作活動を始めていきます。
湊かなえおすすめ作品16選をご紹介~負の連鎖を呼び起こす展開~
他人が書いた作品を読むと、自分の欠点が見えてくるそうで、スラスラ読めない小説を読んでいる時でも、なんで途中でしんどくなるのだろうと考えてしまうそうです。
そして、改めて自分が書いたものを見直すとき、この辺で退屈するだろうということが、分るそうなのです。
また、本を読むときは、似たジャンルの小説を読んでしまうと、自分の創作に影響を受けてしまいそうなので、あえて違ったものを選ぶようにしているとのことです。
創作の時間帯は、家族が寝てからの10時から朝の4時までが、ベストだとのことです。
そんな湊かなえ氏の最新刊まで交えた、おすすめの作品16選をご紹介いたしますので、どうぞお楽しみください。
1、『告白』
我が子を校内で殺された女性教師が、犯人に対し、彼女なりの復讐をする話です。
普段通りに日常を生きる中学生、教師、子供、家族がちょっとした偶然から、殺人事件に巻き込まれてしまうのです。
他人から見たら違和感のある、家族の反応が、当事者ともなれば、想像もつかない結末になってしまうのです。
ここがポイント
恨み、嫉妬、憎しみや集団心理の怖さなどの、人間の負の感情が、これでもかというほどに盛り込まれています。
極限状態に追い込まれた、人間の心理や感情を的確に表現している作品です。
2、『少女』
「人が死ぬ瞬間を見たい」と思う女子高生の由紀と敦子の話です。
それぞれの少女は自分の好奇心を叶える為に、夏休みを利用して、由紀は病院へボランティアに行き、重病の少年の死を、敦子は老人ホームで手伝いをし、入居者の死を目撃しようとしていきます。
二人の少女の視点で交互にストーリーは展開していき、悩みながらも、お互いの友情を信じる少女たちの純真さと、同居する残酷さが恐ろしいほどに描かれています。
ここがポイント
因果応報をテーマにした、伏線回収が秀逸な作品です。
3、『贖罪』
田舎町で起きた殺人事件の犯人を目撃した、四人の少女たちの話です。
娘を喪った哀しさと憎しみを、犯人が捕まらない苛立ちから、当時、娘と遊んでいた少女たちに向けてしまった被害者の母親。
そしてその母親の言動により、その後の人生が狂ってしまった少女たちの心理状態が巧く描かれています。
ここがポイント
そうです、我が子を喪った母親の深い悲しみから投げつけられた言葉は、四人の少女たちを呪縛してしまったのです。
感情的な言動が、他人に与える影響の恐ろしさを痛感できる作品です。
4、『花の鎖』
一章の中で三話三人の女性のことが、別々に進行して語られる話です。
元英語教師の梨花、子宝に恵まれない美雪、絵画教室の講師をしながら、和菓子屋でバイトする紗月の三人それぞれの女性の視点で、物語は展開していきます。
三人それぞれの話かと思いきや、読んでいくうちに、置かれた時代が違うことに気付いてしまいます。
ここがポイント
一見何の関係もなかった三つの物語が、タイトルの如く「花」と密接に繋がりながら、深みのある結末へと進んでいくのです。
場面ごとに印象的な花束、もしくは花が描かれていて、視覚的にそのシーンが臨場感たっぷりに味わえます。
イヤミスっぽくないラストですが、でもやっぱり、イヤミス作品なのです。
5、『境遇』
同じ境遇の二人の女性を主人公にして、進んでいく話です。
ひとりは女性新聞記者の晴美、そしてもう一人は県会議員の妻であり、人気絵本作家の陽子、二人の共通項は幼い頃共に親に捨てられて、児童養護施設で育ったという事実なのです。
ある日、陽子の子である裕太が誘拐され、「息子を返してほしければ、真実を公表しろ」という脅迫状が届きます。
親から捨てられた者同士の友情は同じ境遇だからこそ、お互いを妬んだりせずに、友情が始まったのです。
ここがポイント
しかし境遇を突き詰めたからこそ、現在の立場を妬む心が、生まれてしまったのです。
最後の最後に、驚愕の事実が分かる作品です。
6、『夜行観覧車』
高級住宅街に住むエリート一家で起きた、殺人事件の話です。
高級住宅街で妻が夫を撲殺する事件が発生し、その手がかりを握るのは、向かいに住む遠藤一家とその隣に住む、放送局と噂される小島さと子なのです。
近所だから見えてしまう家族の情報は、羨ましく思えるものだけが強く記憶に残ってしまうものであり、自分の家のことは必死に隠しているものなのです。
ここがポイント
一番解決しなければいけない、自分の家族の歪みに、目をつぶっている姿が描かれています。
自分の行動や言動は、他の誰かにとっては自分が思い描いているものとは、全く違うものに見えているかもしれないということに、気付かなくてはいけないのです。
自分の身の丈を改めて見直せる作品です。
7、『母性』
母親になりきれず、娘の心を持ち続ける母親と、母親の愛情を切望する娘の話です。
他の家族間の関係と比べると、確かに母と娘の関係は複雑であり、娘として、こうならなければならないと思っているうちは、本当の母親になり得ないのかもしれません。
いつも通り、登場人物たちに異常な人が多く、通常の感覚も持ち合わせてはいるのですが、屈折するに至った過去を持つが故に、奇妙な特性を持つ人ばかりなのです。
ここがポイント
母親の立場にありながらも、未だ自分も愛されたいと切望しながら、娘を愛し育てていく部分も興味深く描かれています。
母親の愛情の形を考えさせられる作品です。
8、『望郷』
島という閉ざされた世界を舞台に、複雑な心模様を鮮やかに描いた6編からなる短編集です。
ここがポイント
綺麗な海に囲まれた、のどかな田舎町という良い面と、保守的で閉塞感が漂う悪い面とが巧妙に描かれています。
後味の悪い話があり、気持ちが救われる話もあり、それでも懐かしくもあり、恨めしくもあるのが、故郷というものなのです。
島を嫌って出て行く者、島に嫌悪感を抱えながらも、残る選択肢しかない者、それぞれの事情は異なっても時が経って各々が島に纏わるわだかまりを解いて、出発していく姿に救われます。
故郷の島に対する、湊氏の想いが伝わってくる作品です。
9、『山女日記』
山に登る女性たちの気持ちを綴った、7編からなる連作短編集です。
いろんな悩みを抱えた7人の女性が、山に登ることで、それぞれの人生に思いをはせ、前を向いて再出発していく姿が描かれています。
自分の内面を見つめ直す者、今までの人生を振り返る者、同じ体験をしたことで、嫌いだと思っていた友人を見直す者等、山に登ることで、自分を感じることができるのです。
ここがポイント
山の風景を感じながら、織りなす人間模様が楽しめる作品です。
10、『物語のおわり』
1編の物語を読み手がつないでいく、8編からなる連作短編集です。
未完成の物語が、北海道を旅する人から人へと受け継がれ、一緒に旅をしていき、夢を追いかける人生、夢を諦める人生、どちらかを選ばないといけないのですが、自由に選べる訳でもなく、無理に押し付けられる場合もあるのです。
登場人物達は、夢や理想や希望について思い悩み、旅をして、そして、旅先での出会いによって、気持ちが晴れていくのです。
ここがポイント
晴れた人は曇った人に原稿を渡していく、この連鎖が素敵に描かれています。
心が穏やかになる作品です。
11、『絶唱』
楽園、約束、太陽、絶唱の4編が阪神・淡路大震災を経験した4人の女性の視点から描かれている連作短編集です。
ここがポイント
震災が人々に与えた傷の深さや大きさ、傷ついた人を支える人間の優しさ、そして立ち直っていく人たちの強さが描かれています。
震災によって人生が変わってしまった主人公たちは、仕方ないと受け入りつつも、身動きが取れなくなり、自分の人生を取り戻そうと何かに導かれるように、トンガへ旅立つのです。
眩しいほど明るいトンガと、秘密や葛藤を抱えた人たちの対比に引き込まれてしまいます。
再生への希望を見出せそうな作品です。
12、『リバース』
平凡なサラリーマンの深瀬に、ようやく美穂子という彼女ができたのですが、その矢先に「深瀬和久は人殺しだ」と書いた告発文が彼女に送られてきたことから話は始まります。
大学時代にゼミ仲間たちとの小旅行で起きた友人の交通事故死、真相は藪の中だったのですが、事故を防ぐことはできたはずだったと思い始めていくのです。
そして同じような告発文が、ゼミの友だちにも届いていたのです。
真相を探るべく、深瀬は亡くなった友人を調べ始め、次第にその背景が解明され、人間関係の軋轢や亡くなった友人の想いが分ってくるのです。
ここがポイント
ようやく解明の光が見えてきたと思ったら、やっぱり最後の最後で叩き落されました。
13、『ポイズンドーター・ホーリーマザー』
感情を揺さぶられる、極上のイヤミスを綴った6編からなる短編集です。
どの話も母親に逆らえなくて、母親を恐れている女性が主人公であり、女同士の難しさが描かれています。
ここがポイント
共通しているのは、ある人の主観は、他の人の客観でしかないということであり、同じ事柄が違った角度から語られていて、誤解もあり、思い込みもありで、とにかく僅かな悪意を持って事実が捻じ曲げられていくのです。
良かれと思ってしたことが、毒親と呼ばれるのは辛いかもしれないけど、一方的に押し付けたり、やりすぎる事への戒めなのです。
これぞ正しく、至高のイヤミス作品です。
14、『未来』
20年後の未来の自分から、届いた手紙の話です。
ここがポイント
未来の自分から手紙が届いた章子は、今が辛くても将来の自分がいることに気付き、今の辛さを将来の自分自身への手紙という形で、吐き出していきます。
そこに未来の希望を見出そうとしていたのです。
色々な登場人物の視点で、エピソードが描かれて、それぞれが繋がっているという手の込んだ仕掛けがあります。
自分の未来に希望を持ち続けることは、簡単ではないけれども、それでも一筋の光をゆっくり辿って、先にある温かな未来へ行けたらいいと思ってしまいます。
子どもたちにとって、少しでも希望の持てる未来が来ることを祈るばかりです。
15、『落日』
新人脚本家の甲斐千尋と、新進気鋭の映画監督の長谷部香の二人の視点で語られる、「笹塚町一家殺害事件」の真実の話です。
引きこもりの長男が、妹を刺殺した後に家にも火を放ち、両親も焼死してしまった「笹塚町一家殺害事件」を題材にして、映画を撮りたいという話が、甲斐千尋の元に舞い込んできます。
過去に千尋と香が住んでいた町で事件を振り返ることで、浮き彫りになっていく事実がやがて、本人たちの心の奥にある苦しみと重なり、判決も確定している単純と思われていた事件の真相へと繋がっていってしまうのです。
一つの出来事に対して真実は一つではなく、人それぞれの思い込みや感じ方で、真実と思われたものが真実でなかったりするのです。
ここがポイント
伝えられたことを鵜呑みにして、理解した気持ちになってしまうことが、あるかもしれないのです。
やはり湊氏の作品には、安定の面白さが必ず隠れているのです。
16、『カケラ』
美容整形がテーマであり、章ごとに違う人物の対話形式で進められていき、一人の女性の自殺の経緯が、解き明かされていく話です。
ここがポイント
各章ごとに語り手を変えていく独自の話は、自殺をした女性とその母親の人生を炙り出していったのです。
女性の死は、女性自身を含めた全員の価値観の押し付け合い、言葉足らずが生んだ哀しいすれ違いだと感じてしまいます。
もし、外見が人の性格を形成する要素になり得るとしても、この話に出てくる登場人物たちは、それが過剰であり、異様な執着心を見せつけるのです。
誰もが持つ、心の醜い部分が凝縮されたような作品です。
まとめ
湊かなえ氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
そして湊ワールドにハマってください。