歯応えのある作品を描く、佐藤哲也氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきます。
成城大学法学部法律学科卒業後、コンピュータ・ソフトウェア会社に勤務の後、1993年、第5回日本ファンタジーノベル大賞受賞作品の「イラハイ」で、作家デビューを果します。
奥様は1991年に「バルタザールの遍歴」という作品でデビューした佐藤亜紀氏です。
長編小説には「沢蟹まけると意志の力」、「妻の帝国」、「熱帯」など、短編集には「ぬかるんでから」、「異国伝」など、多数執筆しています。
佐藤哲也おすすめ作品7選をご紹介~テキストで何を表現するか~
佐藤氏は、プロット、アイデアがあってストーリーを書き上げるという書き方は殆どしないそうで、テキストの実験台のようなものを山ほど書いては消し、試行錯誤を繰り返し、貫通したから先へ進むといった感じの書き方だったそうです。
なので、執筆サイクルも不安定で、自分でもよく制御できていないと思ったそうです。
まだまだ今後の活躍が期待された、佐藤哲也氏ですが、2023年8月に入院先で、死去したことが妻の亜紀氏のSNSで、明かされました。
ユニークなタイトルと一風変わった作風で、読者を惹きつけた、佐藤哲也氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『イラハイ』
架空の国であるイラハイの運命を描いた、ファンタジーのような話です。
永久運動的にどこまでも空転を続ける屁理屈が、こんもりとした緻密な文体で展開されていく、その見事さが描かれています。
ここがポイント
これでもか、これでもかと畳みかけてくるような思惟は、どうにもナンセンスでどうにも虚ろなのに、何故か一応物語は転がり続けていくので、なんだか騙されているような具合になってしまい、ついて行かなくてはいけないという想いに駆られてしまいます。
バカミスのような雰囲気も味わえる、伊坂幸太郎氏絶賛の作品でもあります。
2、『ぬかるんでから』
バカバカしいとさえ思われる、シュールな世界を強烈な筆力で語る13編からなる短編集です。
春の訪れを告げる巨大ムカデに、大山椒魚の生皮を被った怪人や、ひたすら茶を淹れる有翼の猿に、ヤモリのカバなどが登場します。
ここがポイント
つっこみ不在のまま、シュールかつナンセンス、そして時々下劣なギャグの連続に困惑しながらも、読み進めていると、やがて考える事をやめてみると、いつの間にか病みつきになってしまうのです。
グロテスクホラーな状況なのに、笑えてしまうという奇妙な感じが味わえる作品です。
3、『妻の帝国』
「民衆感覚」なる怪しげな全体主義的感覚を介して、民衆による独裁国家が誕生し、やがてそれ自体が孕む脆弱性により、崩壊するまでの話です。
ここがポイント
最高指導者は一般人である、私の妻であり、その妻がひたすら手紙を書くだけで、民衆が勝手に目覚め、国家が半ば自然に発生してしまう過程は不条理で、滑稽なのですが、結果として出現する状況は、残酷かつ、不気味なまでリアルなのです。
そうした状況は民衆感覚の阿呆らしさ、私と妻の所帯じみた生活と完全に地続きであり、その先は紛れもなく、現代の日本社会があるという皮肉が恐ろしくおもえてしまいます。
上質の物語が楽しめる作品です。
4、『異国伝』
全ての物語が同じ書き出しで始まる、異国に住む異人たちの奇妙な物語が45編綴られています。
その昔、とあるところには小さな国があり、あまりにも小さいので、地図にも載ったことが無かったし、旅行者向けの案内書にも無いという共通の書き出しから語られます。
ここがポイント
その45の物語には、悲劇・喜劇・神話・民話・寓話・教訓話等、ありとあらゆる物語の要素が詰め込まれていて、飽きることなく楽しめます。
童話のようでもあり、ファンタジー・SFでもあるような不思議な世界観が味わえる作品です。
5、『熱帯』
「不明省」という政府機関に勤める主人公の、のほほんとした生活と、その裏にあるIT業界の悲惨な現場、更にテロ組織である大日本快適党を巡るスパイ合戦の三つを柱で繰り広げられる、意味のないコントの壮絶なる羅列の話になります。
恐るべき教養に裏打ちされた、細かいギャグの執拗なまでの連発が、哲学をくだらなくパロディ化し、IT業界の理不尽な労働環境を暴き立て、果てはこの作品のそのものまでを手玉にとって、読者を小気味よく嘲笑しているのです。
ここがポイント
とにかく、意味不明な事象と、パロディの世界を突っ走り続けて、読者の置いてけぼり感を楽しんでいるような作品です。
6、『下りの船』
地球から追われ、新たな星での生活を余儀なくされた人々の話です。
開拓惑星に放り出された人々が、石炭文明まで後退した社会の中で、あがく日々を場所変え、人を変えて記されています。
なんというか、ヴィクトリア王朝期の小説でも読んでいる気分になってしまいます。
ここがポイント
物語は無く、特権的な主人公も居ず、ただ人々が世界中で繰り返してきた愚行や蛮行は、ここにおいても繰り返され、明日のことも分からない今だけが描かれているのです。
背景描写も神の視点の語りも無い中で、それでいて明確に背景が広がっているのが、想像できます。
とにかく想像力が、刺激される作品に間違いありません。
7、『シンドローム』
ある日、謎の物体が山のふもとに落下するのを、ある高校のクラス全員が見ていたところから話は始まります。
ここがポイント
触手が出たり、陥没が始まったりと、SF小説の趣をもちながら、その実しっかりした青春小説であって、自意識の非常に高い屈折した思いを持つ、一男子高校生の理屈のこね回し方がすごいと感じてしまいます。
女子の久保田への想いと現実的な平岩との三角関係、何でもかんでも映像に置き換える頭脳の持ち主である倉石など、登場人物も多彩な顔触れになっています。
そうかんがえると、非日常から日常へは、そんなに距離はないのかもしれません。
文章と一体感のある挿絵が素晴らしい作品です。
まとめ
佐藤哲也氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
一風変わった作風ではありますが、何か惹きつける魅力が満載です。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。