最前衛の作家としての創作を続ける、筒井康隆氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
大学卒業後の1960年に家族で発行した同人誌である「NULL」から短編の「お助け」が江戸川乱歩氏によって、推理小説雑誌の「宝石」に転載され、作家デビューを果します。
1965年には処女作品集の「東海道戦争」を刊行し、SF第一世代として、「48億の妄想」、「霊長類 南へ」等の話題作を書く傍ら、ジュブナイル小説である「時をかける少女」、実験小説「虚人たち」、「残像に口紅を」など純文学分野でも活躍します。
筒井康隆おすすめ作品10選をご紹介~人間の真実の姿を描く~
また筒井康隆氏は、小松左京氏、星新一氏と並んでSF御三家とも称されています。
巷では「ツツイスト」と呼ばれるたくさんのファンを持ち、「富豪刑事」、「パプリカ」等映像化作品も多数あります。
アンソロジスト、劇作家であり、ホリプロ所属の俳優としても活躍しています。
そんな筒井康隆氏のおすすめの作品、10選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『家族八景』
七瀬シリーズ三部作の第一弾であり、人の心が読める主人公の火田七瀬が家政婦となり、さまざまな家族の中で捉えた、家族の心理状態を描いた話です。
家庭という閉ざされた中での登場人物が、何を思い、そしてどんな行動をしているのか、その当事者たちでさえ知らないないのです。
知らないからこそ、家庭が成立したり、或いは崩壊してしまうのです。
ここがポイント
その剥き出しの感情が、軽快かつユーモラスに描かれているという面白さと恐ろしさ、そしてグロテスクさは間違いなく、本作の見どころとなります。
しかし、それだけでなく、七瀬の特殊能力ある存在が、作品に一層の輝きを与えているのです。
異能な存在としての苦悩、万能に思えても人を動かすことの出来ない無力、達観した乾いた視線があるのです。
読みやすいのですが、恐ろしくもあり、滑稽にも思える奥深い作品です。
2、『七瀬ふたたび』
七瀬シリーズ三部作の第二弾であり、七瀬が初めて自分以外の超能力者と出逢い、仲間と共に超能力者を抹殺しようとする組織と戦う話です。
前半は旅に出た七瀬が、同胞である超能力者たち(予知能力者、透視能力者、念動力者、時間遡行者)と次々に出逢います。
後半では、この超能力者集団に脅威を感じた謎の組織が、彼らを抹殺するために攻撃を仕掛けてくる展開になります。
ここがポイント
読心能力しか持たない七瀬が、他の超能力者との連携により、ピンチを切り抜ける様は、現代の異能バトルと比しても遜色のない出来に仕上がっています。
第一弾よりもさらに、スケールアップしている作品です。
3、『エディプスの恋人』
七瀬シリーズ三部作の第三弾であり、ある不思議な力で、完璧にガードされた人物の謎を追う話です。
超能力というには超絶すぎるその力は、あまりにも凄まじすぎたのです。
やがてその謎は解明するのですが、その時になって初めて前作との関わりが、判明するのです。
そしてその内容がかなり衝撃的であり、その全貌が明かされるのです。
主人公の成熟した精神や論理的思考、合理的で行動力のある部分が、間口の広さとなり、感情移入を容易にさせてくれます。
ここがポイント
恋愛時の心の機微、まるで運命のようだと思える出来事など、恋愛あるあるの要素が強く、共感できる作品です。
4、『富豪刑事』
高級車を乗り回し、最高の葉巻をくゆらせた富豪刑事こと、神戸大助が次々と事件を解決に導く4編からなる短編集です。
金にものを言わせ、通常ではあり得ないぶっ飛んだ解決策を取る刑事が、主人公であるエキセントリックな話です。
ここがポイント
日々起きる難解な事件を富豪ならではの切り口で、捜査をしていくのですが、ミステリーとしての基本もしっかりと押さえています。
突然の読者への語りかけ、同時進行性の表現の試み、ホテルの富豪刑事で頻出する割愛など、新鮮に感じてしまいます。
話の展開、語り口などが、いい意味で昭和を感じてしまう作品です。
5、『旅のラゴス』
主人公のラゴスが、文明が未発達な世界で、先の文明の地の遺産を求めて旅をする話です。
ラゴスは旅の途中で困難に遭いながらも、様々な人々と出会い、その困難を乗り越えていくのです。
その行動は理知的で、それ故多くの人に信頼され愛されるのです。
目的を達した後は、故郷に帰還しますが、また旅に出るのです。
ここがポイント
旅立つ勇気に加え、今まで関わった人たちが、最後まで登場するこの物語は人との深い絆の大切さを教えてくれます。
人生を振り返ると同時に、これからの人生も豊かにしてくれそうな作品です。
6、『残像に口紅を』
世界から少しずつ文字が消えていき、その文字が使われる言葉やものも、消えていく話です。
ストーリーに合わせて小説の文章でも使える文字が、少しずつ減っていくという、なかなか挑戦的な展開になっています。
前半は設定の理解に少々戸惑い、後半に至っては知らない単語がたくさん出てくるので、読み進めるのに結構時間がかかりますが、制限された文字で、あのように文章を書き続けることができるのは、本当に凄いの一言に尽きます。
ここがポイント
ストーリーもさることながら、文字がどこまで消えていき、そこでどんな文章が生まれるのか、とても楽しめる作品です。
7、『文学部唯野教授』
唯野教授によるコミカルで少し下品なお話と、教授らしい大学での真面目な講義の2つのストーリーが、展開される話です。
俗悪な学内の権力抗争、唯野教授の文藝批評論の講義、そして彼の学者ならではのスキャンダルによって、話が組立られていて、筒井氏自らも講義の中で文学史における一人の作家として登場しています。
ここがポイント
登場人物の私的な感情の描写や、講義で触れられる文藝批評の歴史など、視点が目まぐるしくズームアップやズームバックを繰り返しているように感じられます。
大学のシステムを物語りで語り、文学理論を講義で語るという、ハイブリッドな作品です。
7、『ロートレック荘事件』
郊外の瀟洒な洋館であるロートレック荘で、3人の娘の恋愛のもつれから始まる殺人事件の話です。
ロートレックの作品が多く点在する豪邸で、青年たちと美女たちの会合が行われるのですが、2発の銃弾で連続殺人の幕が上がるのです。
犯人の予想はつきそうなのに、犯行の動機とその殺人方法が解らない。
ここがポイント
そしてそれらを可能にしているのが、この作品の内容紹介にもある「推理小説史上初のトリック」なのです。
仕掛けは最初から始まっていて、その後も妙な違和感を感じてしまう描写を感じます。
巧妙な叙述に関心しつつも、最後まで楽しめる作品です。
8、『パプリカ』
総合失調症を分裂病と読んでいた時代に、人の夢に侵入して、精神療法(サイコセラピー)を行う科学者が主人公の話です。
ノーベル賞級の研究者で、サイコセラピストの千葉敦子は、他人の夢とシンクロしてケアを行う夢探偵なのです。
ここがポイント
夢の描写が覚醒しているのに、夢の中にいるような不思議な感覚に陥ってしまい、活字でしか出すことの出来ない疾走感と、荒唐無稽っぷりが感動を誘います。
段々と夢と現実が交錯して、何が現実で何が夢なのか、何が意識で何が無意識なのか、自分の心理の中にある恐怖や観念が、異変を引き起こしてしまいそうなことが、現実世界でも起こり得るかもしれないと思ってしまう作品です。
9、『時をかける少女』
表題作を含む3編からなる短編集であり、SFものが綴られています。
「時をかける少女」では、ミステリーと謎解き、さらに恋愛の要素が詰め込まれていて、無駄がなく、タイムリープの混乱と戸惑い、急に恋に気が付く気持ちなども丁寧に描かれています。
「悪夢の真相」は日常の謎を解いていく、探偵小説のようでもあり、深層心理の謎が解けてスッキリした気分にしてくれます。
また「果てしなき多元宇宙」の話はかなり怖く、こんなことがもし、自分に起きたらと考えると夜も眠れなくなってしまいそうです。
ここがポイント
ジュブナイル特有の文体が懐かしく感じられる作品です。
10、『笑うな』
ほどよい、グロさと、シュールさが味わえる、ショートショート集、34編です。
ここがポイント
深く考えながら読むよりも、突拍子のなさを楽しむべき内容であり、全体的に見れば落語のオチのようなものを楽しむと言った方が適切だと思います。
星新一氏とはまた違った味わいがあり、2~5ページものから、ショートショートというには少し長い15ページ超えのものまで様々です。
全体的にブラックでドタバタしたものが多く、筒井氏らしいところが特徴です。
分かり易いものから、難解なものまで、バラエティーに富んだ作品です。
まとめ
筒井康隆氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非とも、この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。