医療問題に取り組んだ、久坂部羊氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、医師として各病院に勤務した後に2003年に「廃用身」という作品で作家デビューを果します。
その後も医療小説を次々に発表し、2014年「悪医」で第3回日本医療小説大賞を受賞します。
久坂部羊おすすめ作品8選をご紹介~生々しい人間模様を描く~
医療をテーマにした話題作を次々に世に送り出してきた久坂部氏は、高齢者医療に関わる現役の医師でもあり、高齢者と死に関しても、作品や自らの発言を通して、鋭い問題提起を行ってきています。
高齢者医療の現場に長くいた、久坂部氏の実感からすると、長生きは決して良いものではなく、多くの人が長生きを望むのは、今のままで長生きができるというイメージを持っているからなのだそうです。
医師であるからこそ、久坂部氏の作品には絶対的なリアリティさと絶妙な説得力を感じてしまいます。
そんな久坂部羊氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『廃用身』
麻痺で動かなくなった手足の切断手術を行った漆原医師と、それを追った記者の話です。
回復見込みのない高齢者の四肢を、切断するというAケアを開発した医師、漆原の遺稿と、それを出版した担当編集者の手記からなる、まるでノンフィクションのような話からストーリーは展開していきます。
その療法に介護者の負担減、何よりも本人からの感謝の声があるのですが、マスコミからの非人道的な扱いの非難が向けられます。
ここがポイント
おぞましいまでのリアル感があり、介護問題に一石を投じる作品です。
『破裂 上・下』
医療ミスの裁判を中心に、医療から介護そして、高齢化社会問題などが絡んだ話です。
手術のミスで患者が亡くなったかもしれないという疑惑の裁判と、医療が発達し長寿の人が増えたため、高齢化社会となった日本の抱える問題が描かれています。
安楽死をめぐる問題とか、延命治療の行く末などの問題を訴えているのが、ひしひしと伝わってきます。
加えて医療事故をめぐる訴訟からも何が真相なのかを追求していかなくては、医療の改革が望めないことが分かります。
ここがポイント
切実な問題を先送りにしている日本社会に警鐘を鳴らしている作品です。
『無痛』
刑法第39条(心身喪失者の行為は、罰しない。心身耗弱者の行為は、その刑を軽減する。)の理不尽さを問う話です。
閑静な住宅街で一家四人が殺害され、凄惨な殺害現場の様子から犯人は人格障害を持った人間との疑いがかかります。
そして病気の特徴を外見の特徴から読み取ることができる医師、為頼が事件に関わっていくのです。
現在の医療制度の不備、標準治療限界後の選択肢や死生観、人間の尊厳等が登場人物の言葉を借りて問いかけてきます。
ここがポイント
凶悪な犯罪を犯すものは、きっと心の痛みを感じない無痛な人間なのです。
『神の手 上・下』
患者が末期ガンの激痛に苦しむ姿を見かねて、安楽死という形で終わらせた外科医、白川が、安楽死推進派と反対派の抗争に巻き込まれていく話です。
医療界におけるタブーとも言える「安楽死」がテーマだけにこの問題について、いかに重要なのかが伝わってきます。
ここがポイント
めざましい医学の進歩によって死にきれずに、苦痛の中でも生き続ける患者が出てくるのです。
そのための安楽死法なのですが、人の死にさえ利権と欲望が絡み、本来の趣旨から離れて、利権抗争が行われているのです。
果たして安楽死法は人間を幸せにできるのか、それとも不幸にしてしまうのかが問われる作品です。
『悪医』
有効な治療がなくなった末期ガンの患者とその担当医のそれぞれの視点からガンへの関わり方が描かれる話です。
進行していくガンの苦しみを和らげるために、必死に治療に挑む患者と、緩和ケアに関わる医師や看護師の姿などがリアル感タップリに描かれています。
担当医師は残された短い時間を安らかに暮らすように説得しますが、患者は治療を諦めきれずに転院を繰り返して、病状がどんどん悪化していくのです。
ここがポイント
両者が理にかなうことを言っていて、それでも相容れないところが生々しくて、苦しくなってしまいます。
生きる意味と人生の価値をあらためて考えてしまう作品です。
『嗤う名医』
医療現場を舞台にしたバラエティに富んだ6編からなるブラック短編集です。
医療現場の裏側を皮肉タップリに描いていて、気持ちの悪いのやらグロいのやら、醜いのや気の毒になるのやら、いろいろな個性を持った名医が登場します。
ここがポイント
シリアスな話とユーモラスな話のバランスが絶妙であり、かなり楽しめます。
人間の持つ嫌な部分も見たくなくても見えてきてしまう、そのリアルさにゾクッとしてしまう作品です。
『老乱』
現在の認知症問題と介護の現実を真正面から捉えた話です。
ここがポイント
認知症を患っている幸造とその息子夫婦の両方の視点からストーリーは展開していきます。
幸造の日記には苦悩や本音がギッシリと書かれていて、出来なくなること、分からなくなることへの恐怖が伺えます。
世話をする家族と本人双方の心情が実にうまく描かれていて、終盤まで淀みがなく、認知症の世話の難しさが数々のエピソードを折込みながら、語られていきます。
介護する側とされる側の両方の気持ちがわかる作品です。
『院長選挙』
亡くなった病院長の座を巡って、循環器内科・消化器外科・眼科・整形外科の四人の副院長が争う話です。
大学病院院長選挙をテーマにした、候補者同士の足の引っ張り合いが描かれていて、よくもまぁこれだけの罵詈雑言で支離滅裂な自分勝手なセリフが出てくるものだと思います。
ここがポイント
医師に聖人のような完璧な人間性を求めるのは、そもそも患者の勝手ではあるけれど、大学病院の医師たちが他の診療科をバカにしているというのが、本当であるのなら、笑い事ではすまされなくなります。
まあ小説ということで、フィクションなのですから、現実はそんなことはないと思いますが、これで腕も悪ければ、もう救いようはないということになります。
最後にちょっぴりミステリー要素がある作品です。
まとめ
久坂部羊氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
現役の医師が医療界に切り込んだ作品は、リアリティ感がタップリと味わえると思います。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
人生観が変わるかもしれません。