幅広い作風で魅了する、雫井脩介氏のおすすめの作品10選をご紹介いたします。
雫井氏は大学を卒業してから出版社や社会保険労務士事務所の勤務を経て、2000年に「栄光一途」という作品で作家デビューを果たします。
その後は本格ミステリーを中心に活動を続けていきますが、2006年に刊行した「クローズド・ノート」以降は恋愛小説や家族小説などにも作風をひろげています。
この記事の目次
雫井脩介おすすめの作品10選をご紹介~魂を揺さぶる描写~
圧倒的なリーダビリティや心理描写で人気のある雫井氏ですが「実人生でなかなか出会えない新しい感情」が、読者の経験になればこそ執筆する意味があると言っています。
また雫井氏は心理描写を描くということを具体的なシーンや台詞で形にすることが、作家の使命だとも考えているようです。
そんな雫井氏の是非おすすめしたい作品を刊行順に、10選ご紹介させていただきます。
《栄光一途》
日本柔道界に潜むドーピング疑惑を、密かに探ることを命じられたコーチの望月篠子。
オリンピック候補の男子選手二人の闇を探ろうとするのだけれども、なかなか一筋縄ではいかない障害に突きあたってしまいます。
スポーツ界で今なお問題視されているドーピングに注目していて、何をもって禁止とするのか、判断基準や線引きの難しさが実感できます。
物語りのラストに意外性が隠されています。
《火の粉》
自分が無罪判決を下した元被告の男が、隣に引っ越してきたと同時に、元裁判官の梶間家に不可解な事件が起こり始めるのです。
普通に幸せな日常がジワジワと浸食されていく恐怖が、丁寧に描かれているので読みやすいけれど何かソクっとしてしまいます。
また家族の絆もこんなに簡単に壊されてしまうのかという怖さも、スリル満点に描かれています。
まさしく驚愕と戦慄の犯罪小説です。
《犯人に告ぐ》
顔の見えない連続殺人犯をテレビの公開捜査を通じて、追い込もうとする警察小説です。
史上初の劇場型捜査の幕が上がり、果たして警察は犯人を舞台に引き上げることができるのでしょうか。
被害者遺族の心情や世論だけでなく、内部の敵とも戦わなければならない刑事の苦労が伝わってきます。
まさしく警察小説の傑作です。
《クローズド・ノート》
自室のクローゼットから、前住人の残したノートを見つけた女子大生の香恵。
そこには教師として、また恋する女性として精一杯生きる姿が書かれてあったのです。
ノートによって大きく変わり始める日常生活、恋愛や友情の悩みを抱えた香恵はノートに励まされていくのです。
ノートを残してくれた先生にエールを送りたくなります。
《ビター・ブラッド》
新米刑事の佐原夏輝は初めての現場で、少年時代に別離した父親で刑事の島尾明村とコンビを組むこととなります。
コミカルなタッチの展開なのに大筋としてはかなりシリアスに描かれています。
軽快な会話の割には結末はズシンとくる重さがあります。
どれだけ離れていても、お互いを思いあっていれば家族は成り立つものだと実感してしまいます。
《犯罪小説家》
日本クライム文学賞を受賞した作家が、映画化の話で監督に翻弄されながら過去の自殺幇助サイトの事件に巻き込まれていく話です。
映画化の件が主流となっていくのかと思いきや、一昔前にニュースで騒がれていた「ネット集団自殺」が主軸となりストーリーは展開していきます。
序盤は疑心暗鬼になり、翻弄されますが、終盤には登場人物たちの歪みに惹き込まれ、仕掛けられたトラップにはまってしまいます。
最後のページがシビレてしまいます。
《殺気!》
女子大生の佐々木ましろは、人の殺気を感じることができる能力があるのです。
二十歳の成人式の日に旧友たちと出会い、記憶のない拉致監禁事件を思い出してしまいます。
そして思い出したくもない過去の事件の真相に迫っていくのです。
要所要所でましろの能力は発揮されていのですが、本当の目的は人それぞれの立場、思考、行動を読者に伝えようとしていることだったのかもしれません。
あたたかいラストの青春ミステリー作品です。
《つばさものがたり》
自分の身体に重い秘密をかかえたまま、東京での修行を終えたパティシエールの小麦は、故郷の北伊豆で念願のケーキ店を開店する運びとなります。
家族愛に包まれて周囲に応援されながら夢を育む小麦、頑張りや空振りもあるけど常に自分の進むべき道を追求していきます。
すごくゆったりと時間が流れていく感じで、ストーリーが進むにつれ目頭が熱くなってしまいます。
家族や大切な人たちのことを、あらためて考えさせてくれる作品です。
《検察側の罪人》上・下
自らの正義を貫くベテラン検事の最上、そして最上に憧れ実直に仕事を遂行する沖野、やがて二人の正義に微妙にズレが生まれズレはさらに深くなっていくのです。
検事、最上の正義と、その下で働く検事、沖野の正義のせめぎ合いが一番の見どころになっています。
法が絡む非常に難解なテーマであるものの、無駄なものは一切なく登場人物も見事に描かれていて、それぞれの信念が伝わってきます。
気持ちのいい余韻が残る作品です。
《望み》
どこにでもあるごく普通の平和な家族の日常から、ある日息子が事件に巻き込まれていなくなってしまうのです。
果たして息子は被害者なのか加害者なのか。
無実を信じその死を覚悟する父と、加害者であっても生きていてほしいと願う母の葛藤が臨場感たっぷりに描かれています。
序盤は真相を追うストーリーで目まぐるしく展開し、終盤に至っては訳の分からない状態が続く怖さがあります。
望みという言葉の意味を、考えさせられる作品です。
まとめ
雫井脩介氏の作品のご紹介はいかがでしたでしょうか。
その幅広い作風を感じていただけたと思います。
ドラマ化や映画化された作品もありますので、この機会に是非読んで楽しんでみて下さい。