人間の内面に切り込んだ、貫井徳郎氏のおすすめの作品20選をご紹介させていただきます。
貫井氏の作品の特徴は後味が悪く、なんとも言えないやるせなさが残りますが、深く考えさせられるものばかりです。
そんな貫井氏が初めて小説を書いたのは高校1年の時で、その後もコンテストや各賞に応募をしますが、芽が出ることはありませんでした。
大学を卒業し、サラリーマンになるのですが、小説家への夢は捨てきれず、サラリーマンを辞めてしまいます。
そして失業中に書いた「慟哭」で一躍、注目を浴びることになります。
その後は作品が直木賞候補になったり、山本周五郎章を受章するなど、秀逸な作品も数多くあるのでお楽しみください。
この記事の目次
イヤミスを超える後味!貫井徳郎おすすめ20作品をご紹介
デビュー当時は新本格ミステリー路線で作品を描いていましたが、最近は社会派ミステリーに入る路線で、作品を発表しています。
作風は暗くて重いのが特徴ですが、決して悲観的に捉えているのではなく、ミステリー的な趣向を凝らしたうえでのテーマで描いています。
また、貫井氏本人は自分の作品のイメージとは裏腹に大変爽やかな人柄であるとのことです。
そんな貫井氏の選りすぐった、20選をご紹介させていただきますので、最後までお楽しみください。
1、『慟哭』
連続幼女誘拐殺人事件を解決できない捜査一課長に対して、警察内部から聞こえる不協和音。
そして、さらに怪しい新興宗教も絡んできて、事件はますます複雑に展開していきます。
警察当局は本当に事件を解決できるのでしょうか。
かの北村薫氏を驚嘆させた、貫井氏の衝撃のデビュー作であり、迫力に圧倒され続けます。
人間のやりきれない悲しみや切なさが描かれていて、読み応えがある作品に間違いありません。
2、『我が心の底の光』
5歳で両親と離れ離れになった幼子が成長していく過程で、遭遇する様々な出来事に視点をあてた作品です。
ひどい環境下の中で育った人間の心の闇を、貫井氏の鋭い感性で描いています。
ネグレクトが子供に与える影響は計り知れないものがあり、大きな問題です。
ラストの2ページで涙があふれてきます。
3、『後悔と真実の色』
若い女性を惨殺する連続殺人犯を追う、捜査一課の西條が主人公の話です。
しかしそれをあざ笑うかのように、犯行は続き、ついには死体から指を切断する癖から、指蒐集家と呼ばれるのです。
猟奇事件の謎を追いつつも、捜査にあたる刑事たちの内面も深く抉りこんでいきます。
出だしは警察小説のようなストーリー展開ですが後半からはイッキに加速して、前半とは全く違う展開になっていきます。
人間の裏表とか醜い部分が事細かに描かれていて、違った意味でも目が離せなくなってしまいます。
続編が気になる読者が多いのも分かります。
4、『宿命と真実の炎』
前作「後悔と真実の色」の続編になります。
ある理由で警察への復讐を誓うカップルが、警察官連続殺人を犯してしまいます。
そして、その事件に立ち向かう元刑事と現役女性刑事の話です。
後半の思いもよらぬストーリー展開に愕然としてしまいます。
自分を信じてくれる人間を裏切ることは卑劣であり、寂しいということを教えてくれる作品です。
貫井氏らしい、先の見えないラストに納得です。
5、『乱反射』
法では裁けない罪によって、地方都市に住む幼児が事故に巻き込まれ、命を落としてしまう話です。
無意識に行っている、モラルに反する、些細な行動がとんでもないことを引き起こしてしまったのです。
身勝手な人間の行動が手に取るように分かり、現代社会の構図をまざまざと見せつけられてしまいます。
いつもながらに重いテーマなのに読みやすく、クセになりそうな作品です。
6、『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』
8編からなる短編集で現代の社会問題である「結婚」をテーマにした作品です。
日常生活の中で男女間に起こる些細な出来事に、疑いが生まれ、嫌悪になり、そしてそれは、やがて恐怖に変わっていくという、ストーリー展開です。
まさに「背筋にゾクッ」とくる表現がシックリくる作品です。
貫井氏にしては大変珍しい短編集であり、読まないと後悔します。
7、『愚行録』
幸せな一家4人が惨殺された事件であり、その事件について様々な人がその一家について、語っていくのです。
人間の二面性が如実に描かれていて、まるで違う生き物のように感じてしまいます。
人間の奥底に潜んでいる計り知れない思惑と、とんでもない真実に背筋が凍ります。
ミステリーを凌駕している作品です。
8、『微笑む人』
エリート銀行員が意外な理由で妻子を殺害する話です。
このような不可解で不条理な犯罪は、どうして起こってしまったのでしょうか。
犯罪を犯す者の心理は第三者には理解できないものなのでしょうか、勝手に自分に都合のいい理由をつけているだけなのでしょうか。
何かにモヤモヤしたまま終わってしまう、そんな作品です。
9、『プリズム』
小学校の女性教師が自宅で死体で発見され、彼女の同僚が犯人として浮かびあがる話です。
しかし、事故の可能性も捨てがたく、操作は難航していきます。
そしてこの事件を4人の視点から描いていく流れになっています。
人間の持つ多面性を描写することによって、様々な色の光を変えるプリズムのように表現しているのだと思います。
じっくりともう一度読みたい作品です。
10、『夜想』
特殊な能力を持った女子大生と交通事故で妻子を亡くした男が出会う話です。
やがて、二人は新興宗教のような活動に参加して奔走していくのです。
本当の悲しみを背負った人の心と、辛さや救いを求める人情が伝わってきます。
貫井氏の作品の中では読後感はいい作品です。
11、『光と影の誘惑』
4編からなる中編ミステリー作品です。
ストーリー的には意表を突く展開が施されていて目が離せません。
意外性に比べて納得感が得られる描写は流石です。
各作品とも最後には驚かされ、読み応えのあるミステリーです。
12、『被害者は誰?』
この作品も4編からなる中編のミステリーですが、〇〇は誰かを当てる構成になっています。
コミカルなストーリー展開で進んでいき、あっさりしていて、テンポよく読めます。
アッと驚くような仕掛けは用意されていませんが、それなりに凝ったミステリーに仕上がっています。
いつもの重いイメージとは少し違った貫井作品です。
13、『迷宮遡行』
愛する妻が手紙一つ残し、失踪してしまい、暴力団にまつわる事件に巻き込まれていく話です。
前半のコミカルな雰囲気から後半はシリアスな展開になっていき、主人公の視点の移り変わりも興味を惹きます。
ハードボイルドっぽく迷宮に嵌まり込んでいく過程がうまく描かれています。
余韻のあるラストは何を語りたかったのだろうと思います。
14、『灰色の虹』
身に覚えのない殺人の罪をきせられた男が復讐する話です。
冤罪がどのようにして捏造されていくのかがよく分かる作品であり、警察の容赦ない取り調べには憤りを感じてしまいます。
実際に無実の罪で裁かれた人たちはどれくらいいたのだろうかと思うと、ゾッとしてしまいます。
感情移入して読める作品です。
15、『殺人症候群』
未成年者が犯す犯罪と被害者の葛藤について書かれた作品です。
正義とは何かを問われているように思いますが、どうしようもない気持ちのやり場をどう解決すればいいのでしょうか。
法律で裁けないのであれば、自分の手で裁くことをしては、いけないのでしょうか。
ラストまで続く正義論は困難な余韻を残します。
16、『さよならの代わりに』
まるでタイムスリップしたかのようなSF青春ミステリー作品です。
軽妙な語り口でぐいぐい引っ張られるように、連れていかれてしまいます。
話のあちこちにトリックを解くカギが散りばめられていて、とても楽しめます。
貫井氏にしては珍しく軽いタッチに見えますが、力強くて、それでいて切ない作品です。
17、『天使の屍』
中学二年の息子がマンションから飛び降り自殺をし、その真相を探るべく父親が調査していく話です。
中学生である息子の気持ちを必死で理解しようとする、父親の行動には本当に感動してしまいます。
子供たちだけにあるルールや価値観を改めて考えさせられてしまいます。
いつもながらの後半の急展開には驚きを隠せません。
18、『壁の男』
下手な壁の絵がSNSで取り上げられ、それをライターが取材する話です。
辛かった人生の事柄に胸が締め付けられるような感覚になってしまいます。
確かに興味を引く不気味さが主人公の半生を物語っています。
言葉にできない衝撃と感動が押し寄せる作品です。
19、『追憶のかけら』
事故で妻を亡くした、うだつの上がらない大学講師の男が一発奮起をして、名声を得ようとする話です。
現在と過去の二つのミステリーが同時に進行しているかのような気分に陥ってしまいます。
ストーリーとしては二転三転するのですが、描き方が秀逸のため惑わされることなく楽しめます。
貫井氏には珍しくスッキリした終わり方の作品です。
20、『転生』
心臓移植を受けた大学生が今までとは違った、自分の感情や記憶に戸惑いを感じながら変化していく話です。
心臓移植に隠された謎を追うことを主軸としてストーリーは展開していきます。
現代の医療のグレーゾーンに触れているようであり、医療ミステリー的要素がタップリと感じられる現実味溢れる作品です。
まとめ
貫井徳郎氏の作品を20選ご紹介させていただきました。
読後感が大変重く感じ、後味が悪い作品が多いのが特徴ですが、それがまたクセになって読んでしまいます。
絶大なるファンが多いのも分かります。
是非、読んでいない作品があれば読んでみてください。