心が明るくなる作品を描く、窪美澄氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
家庭の事情で、短期大学中途退学後、広告制作会社の勤務を経て、結婚、出産後、フリーランスの編集ライターとして働きます。
妊娠・出産を主なテーマとし、その他女性の身体や健康、漢方、占星術などについて、書籍、雑誌、WEBの世界で活動の場を広げています。
2009年に刊行された「ミクマリ」という作品で、第8回女による女のためのR-18文学賞を受賞し、作家デビューを果します。
窪美澄おすすめ作品8選をご紹介~明るい光が差すような描写~
2011年には受賞作を収録した「ふがいない僕は空を見た」という作品で、第24回の山本周五郎賞を受賞、第8回本屋大賞2位、また、同作は映画化もされ、第37回トロント国際映画祭に出品されています。
その後も数々の作品が文学賞を受賞したり、候補に挙がったりと、目覚ましい活躍を続けています。
そしてついに、2022年、「夜に星を放つ」という作品で、第167回の直木賞を受賞します。
そんな窪美澄氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『ミクマリ』
主人公が男子高校生で、12歳も年上の主婦のあんずと不倫する様子が、男子高校生の目線で描かれています。
アニメのコスプレ姿でセックスする、高校生と主婦、高校生の母親は助産院をやりながら、女で一つで息子を育ててきたのです。
そんな折、男子はずっと好きだった女の子から告白されるのですが、どうしても主婦のことを忘れることができなかったのです。
そして、偶然、主婦が赤ちゃん用品売り場にいるのを見て、もしかして、、、、と気になるのですが、二人はまた、熱くなってしまうのです。
何故、主婦に惹かれるだろうか、恋心なのか、身体目当てなのか、そんな考えが頭の中をぐるぐる回るのだけれど、どうもしっくりこないのです。
ここがポイント
青春時代にありがちな、欲望をさらけだした作品です。
2、『ふがいない僕は空を見た』
性と生をテーマにした5編からなる、連作短編集です。
不倫をしている男子高校生、妊活中の主婦、恋や家族関係に悩む女子高生、ネグレクトされている男子高校生、助産院を営むシングルマザーなど、それぞれの世界が少しずつ絡み合っています。
性欲と恋愛の狭間で、危なっかしい足取りで歩く人たちの頼りない姿が伺えます。
主人公の高校生と、それを取り巻く様々な事情を抱えた人々もみんな何かを抱え、その何かを落とさないように必死に毎日を生きているのです。
ここがポイント
恋に、愛に、性欲に振り回され、その生々しさに目を逸らしたくなる一方で、でもこれが人間なのだろうと思ってしまいます。
日の当たらない人たちへの賛歌を綴った作品です。
3、『晴天の迷いクジラ』
失恋と激務でうつ病を発症した由人、子どもを捨て、仕事一筋に生き、会社が潰れる寸前の野乃花、過干渉の母親から逃れたい不登校リスカで、女子高生の正子、死を決意した3人が偶然出会い、湾に迷い込んだクジラを見に行く話です。
それぞれの人生の過程で心を壊し、絶望してしまった3人が、ひと時を共に行動することになったのです。
向かう先は湾に迷い込んだクジラを見ることであり、出口を見つけられないクジラにとっても、理不尽な状況なのに、生きようとすることを止めないのです。
絶望の淵に立っている3人にとって、そのことは再生への転機という程、簡単なものではないのでしょうか。
強烈に死に引き寄せられながらも、「生」を選択することは、なんて難しいことなんだろうと思います。
ここがポイント
戻ることも進むこともしない、死を待つしかないような場所に迷い込んだクジラの姿が、彼等に重なってしまいます。
頑張らなくてもいい、離れてもいい、逃げてもいい、ただ生きてくれたらいい、切実にそう思った作品です。
4、『アカガミ』
若者が性と生に興味を失った近未来が舞台のSFのような話です。
主人公で内向的かつ保守的な女性のミツキは、お見合いシステム「アカガミ」が決めた相手のサツキに出会い、変わっていくのです。
そしてアカガミが選んだ相手と恋をして、子どもを授かり、素晴らしい成果のように思われるのですが、、、。
若者の生命力や恋愛が減少していくのは、あながち止められない現実なのかもしれません。
守られた環境で何の心配もなく、生活することに違和感を感じなくなったら、思考が停止してしまうのではないのだろうかと思ってしまいます。
ここがポイント
ホラー的な怖さではなく、近い未来に起こり得るかもしれない倫理的に怖く感じてしまう作品です。
5、『やめるときも、すこやかなるときも』
家具職人で32歳の壱晴と、同じく32歳の会社員である桜子の偶然の出会いから始まる恋愛の話です。
壱晴は過去のことが原因で、毎年、数日間、声が出なくなことがあったのですが、誰にも話さずに生きてきたのです。
一方、桜子は、困窮する実家を支え、恋とは縁遠い生活をしていたのでした。
そんな2人が、知人の結婚式で偶然出会い、後に仕事で再会し、心に何かを抱える両人が、お互いの傷を見せ、受け入れ合うことで、次第に寄り添っていくのです。
他人に対して自分の弱さをさらけ出すことは、大変な事だったのかもしれないのですが、それがあったから、どちらもお互いが必要であるから、寄り添っていったのです。
ここがポイント
葛藤と覚悟が、大人の恋愛だと思わせる作品です。
6、『じっと手を見る』
介護士である日奈と元恋人の海斗、そして職場の同僚である畑中と、東京から来たデザイナーの宮澤のそれぞれが、家庭で何かしらの欠陥を抱えながら生きていく7編からなる連作短編集です。
人間のズルイ部分、決してカッコいいものではない、生きるための仕事、嘘のないそれでいて、あやふやな感情、華やかでない地味な地方での生活を描いています。
章ごとに語り手が変わりますが、どの人物もしっかりと自己分析ができていて、客観的に内面を語っているのが、興味深く感じます。
こんなにも自分が分っているのであれば、上手く世の中を渡っていけそうに思いますが、そうもいかないのです。
ここがポイント
普通と普通でない対比を丸ごと包み込む多様性も感じられ、人間の深層心理を描いた作品です。
7、『トリニティ』
出版業界で出会った女性3人の、昭和から平成にかけての50年の生き様を描いた話です。
ハイセンスなイラストで一世を風靡した妙子、母の血を受け継ぎ、文筆に非凡な才を発揮した登紀子、結婚して専業主婦となった鈴子。
来し方、行く末も違う3人の仕事、男、結婚、子どもそして自由はどうだったのでしょうか。
求めたもの、得られたもの、失ったもの、人はそれぞれなのです。
ここがポイント
三人称で視点が切り替わることによって、その人物の見え方や捉え方が、しっかりと理解できます。
上手くいっているようで、内面には、悩みや葛藤があり、夢を見ずに堅実に生きていても、すこし息苦しかったのです。
しかし、懸命に生きた瞬間があれば、いいのだと背中を押してくれるような作品です。
8、『夜に星を放つ』
星座と人との別れをテーマにした5編からなる短編集です。
誰しも人には様々な別れがあり、全く同じ環境になることはないのだけれど、一つひとつが身近にある別れであり、それらの物語が、自分の中に入り込んできて、辛く感じてしまいます。
救われる話は少なく、完全にハッピーエンドになる話もなく、読後感は晴れることはないのですが、投げかけられた問いを考えるような余韻が残ります。
ここがポイント
しかも、人間の心の脆さや不安定さは、暗く哀しく、もどかしいですが、どこか尊く、読み終える毎に、タイトルのように小さな星の光が、心に灯ったような素敵な気分にしてくれます。
全体を通して透明感がある文章で、すっと心に沁み込んでくるような作品です。
まとめ
窪美澄氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。