疾走感溢れる作品を描く、渡辺優氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、翻訳家をめざし、専門学校に通うも挫折し、その後、仕事の傍らに小説を執筆していきます。
2015年に「ラメルノエリキサ」という作品で集英社が主催する第28回小説すばる新人賞を受賞します。
そして翌年、同作品が刊行され、作家としてのデビューを果すこととなります。
渡辺優おすすめ作品8選をご紹介~主体的であるのに客観的~
新人賞受賞に際して、「あまりにも賞が大きいので、うれしい気持ちと同じ位、畏れ多い気持ちでいっぱい」と語っています。
その後も意欲的に作品を発表し続け、読者の心を掴み続けています。
そんな渡辺優氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『ラメルノエリキサ』
やられたら、絶対にやり返す、復讐の申し子、小峰りな16歳は、夜道で何者かにナイフで切りつけられた彼女は、犯人が言った謎の言葉である「ラメルノエリキサ」を手がかりに、事件の真相に迫っていく話です。
目には目を歯には歯を、被害を受けた相手には、同等の復讐をしなければならない、幼少の頃、姉に教わったハンムラビ法典の教えなのです。
損害をあたえられた、それによって気分を害された、その分の復讐を相手に対して行う女子高生のりな。
シスコン、マザコン、ナルシストであり、後ろから切りつけられた時、彼女の復讐の芽が動き出したのです。
ここがポイント
納得いくまで、自らを徹底追及し、拘りの強さは揺るがなく、相手がごめんなさいと反省の色を出すまであきらめない。
衝撃的な作品です。
2、『自由なサメと人間たちの夢』
人間が誰しも持つ願望をテーマにした、7編からなる短編集です。
現実感とSF感が混ざり合った不思議な雰囲気を持った話であり、登場人物は言い方が悪いかも知れませんが、底辺を見てきたダメな人間たちが殆んどです。
ここがポイント
しかしそんな人たちの心の動きが描かれるからこそ、夢を見ることの素晴らしさと、恐ろしさがじわーっと伝わってきます。
明るい世界で生きている人には、伝えられない感情の動きがよく見え、何といっても作品の流れが、自殺願望満点な精神病の女性から始まって、最後はサメが生まれてきた意味を考えるという感じが絶妙なのです。
夢と幻想と現実が、入り混じったような作品です。
3、『アイドル地下にうごめく星』
職場のアイドルオタクに誘われて、ライブに行った会社員40代女性の夏美が、地下アイドルにハマリ、プロデューサーになる話です。
アイドルを応援する者、志す者、続けるかどうか迷う者、それぞれの迷いが6話の連作短編形式で描かれています。
輝いている星も、地下にあったら光は届かない、少しでも光を届けられるように、夏美は初めて現場に行ったその日に、プロデューサーになることを決意するのです。
ここがポイント
応援するのも、志すのも全てに息苦しさが伴うアイドルの世界、それでも夢中になってしまう彼らの気持が少しだけわかったような気がする作品です。
4、『悪い姉』
見た目が美しく、勉強もできるが、性格最悪の年子の姉がいて、一緒にいたら破滅させられそうだから、死んでほしいと願う妹の話です。
姉を殺して平和な世界を手に入れたい、しかし、現実的にはそんなことが出来る訳も無く、姉を殺す妄想を繰り返し、クラスメイトに心中を毒づく日々が続くのです。
ここがポイント
好きで好きでたまらなかったクラスメイトに姉の殺意を否定されて、一瞬で冷めてしまいます。
世の中は正論ではどうにもならない事もあり、姉に支配されていた妹は、いつしか周りが、姉を克服していることに気付いていきます。
女子高生の日常にある、思い込みや勘違いもリアルに描かれている作品です。
5、『クラゲ・アイランドの夜明け』
楽園と名付けられた岩手県沖の海上コロニーで起きた親友のミサキの自殺は、楽園管理部に事故死として片づけられ、その真相を親友のナツオが探っていく話です。
コロニーの近海に大量に発生した新種の美しいクラゲを欲しがっていたミサキは、何故自殺をしてしまったのだろうか。
彼女の親友のナツオは、その理由を調べ始めていきます。
一見ミステリのような展開ですが、読み進んでいくうちに、色々な事象が浮かび上がってきます。
ここがポイント
美しい見た目なのに、人を殺してしまうクラゲ、事件も事故もない自殺者ゼロのはずだった楽園は、人間によって編集される命だったのか。
得体の知れぬ、恐ろしい何かを、暗示するような作品です。
6、『きみがいた世界は完璧でした、が』
中学生の時にハマっていたファンタジーゲームに登場するヒロインにそっくりな人が現れ、盲目的に恋してしまう男子大学生の話です。
とある大学のサバゲーサークルに所属する日野は、中学時代に熱中したゲームのヒロインによく似た、サークルの女神であるエマに恋心を寄せ、彼女につきまとうネットストーカーを退治することを決意します。
ここがポイント
日野の一人語りで、自らの過剰な行為にツッコミつつ、ストーカー特定の為に暴走するので、サークルの人間関係や友人関係が次第に険悪になって、孤立していきます。
妄想逞しい語りが楽しく、大学生たちの緩やかな関係も垣間見れる作品です。
7、『カラスは言った』
ある日突然、ベランダに現れたカラスが、「あなたを探していました」と喋り、カラスに流されるまま、旅をする近未来の不思議な話です。
カラスの軽い語り口調が心地よく、カラスとの二人三脚の旅を一緒に楽しむことが出来ます。
テーマとしては、自分の存在意義、価値をどう持つかという話であり、承認欲求も同じ意志の軸を外部に委ねてしまうと、苦しいと感じてしまいます。
ここがポイント
誰かの用意したレールの上を歩くのは、それほど難しくはありませんが、自分で考えられない人は、用意されたものに依存するしかなくなり、借り物の考え方、借り物の言葉に頼るしかなくなってしまうかも知れないのです。
タイトルからは想像できない程、面白く、ほろ苦くて、いろんな示唆に富んだ作品です。
8、『私雨邸の殺人に関する各人の視点』
嵐の私雨邸に居合わせた11人の男女に、密室殺人が起きるという典型的なクローズドサークルものなのですが、事件を解決するべきの探偵が不在の一風変わった話です。
かつて殺人事件が起こった携帯電話も通じない山奥の洋館に、たまたま集まった11人の男女が殺人事件に巻き込まれていきます。
雨による土砂崩れで、唯一の道が塞がれ、外部と連絡を取ることも叶わなくなってしまうのです。
集まったメンバーは、身を守るために、犯人が誰なのか考え始めるのですが、、、、、。
ここがポイント
何人かの視点で出来事を追っていくせいか、クローズドサークルらしい緊迫感はそれほどなく、いろんな人のものの見方や、人物評価が多種多様で、いい意味でキャラも固定できないのです。
意外な犯人も、もっともらしい犯人も見当が全くつかず、探偵もいない状況なのです。
シリアスな展開にも拘わらず、コミカルな会話とテンポの良さが素晴らしく面白い作品です。
まとめ
渡辺優氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみて下さい。
独特な疾走感のある作風を感じて頂けると思います。