2023年、最新版のおすすめミステリー小説30選をご紹介させていただきます。
各文学賞受賞作品は勿論のこと、メディアでも話題になった作品を厳選させていただきました。
【2023年最新版】おすすめミステリー小説30選をご紹介
2022年に刊行された、作品を中心にご紹介させていただきますが、作品によりましては、まだまだ人気のある過去に刊行された作品も合わせてご紹介させていただきます。
少し収まったとは言え、まだまだコロナ禍が続き、家にいることが増えた昨今ではありますが、お気に入りのミステリー小説を読むことで、少しでも楽しんでいただけたらと思います。
どうぞ素晴らしい作品をこころゆくまで、お楽しみ下さい。
1、『爆弾』 呉 勝浩
ほぼ警察の取り調べ室の中だけで行われる、容疑者と警察官の頭脳戦の話になります。
突如取り調べ室の中で、告白を始める自称、スズキタゴサクはその間抜けそうな名前とは裏腹に、物騒な爆弾テロを匂わせるのです。
本庁から送り込まれた特殊犯担当の刑事が、推理していくのですが、つかみどころがなく、犯人の思い通りに、東京の街が燃えていくのです。
果たして警察は許し難き事変を、止めることができるのでしょうか。
読む者の深層心理に問いかけてくるようであり、否が応でも人間の本質的なものと、対峙させられてしまいます。
ここがポイント
命の選別、心の闇、差別的思考、誰もが持っている心の中の鬼、集団心理で起きてしまう神になったかのような勘違いがそこにあったのです。
大詰めも二転三転し、最後まで気が抜けないノンストップクライムノベルです。
2、『名探偵のいけにえー人民教会殺人事件ー』 白井 智之
探偵の大塒(おおとや)と彼を上回る推理力を持つ名探偵であるりり子が、とある宗教団体が暮らす集落で、殺人事件に巻き込まれていく話です。
物語はカルト教団が集団自殺する場面から始まりますが、参考文献から同様の事件が実際に起きていたことに驚きを隠せません。
ここがポイント
奇跡があると信じている信者目線でのみ通用するトリックと、奇蹟を信じない非信者目線で解明される真実の二つを対比させて探偵に語らせるという展開に興味津々となります。
カルト教団が移住した村で起きる連続殺人事件の真相に、翻弄されてしまいますが、最後には集団自殺の真相も暴かれることによって、二重に楽しむことが出来る作品です。
3、『捜査線上の夕映え』 有栖川 有栖
コロナ禍を背景に、名探偵、火村と推理作家のアリスが、大阪の場末のマンションで発生した殺人事件の解明に、協力を求められる話です。
監視カメラ付きで、人の出入りが丸見えのマンションで起きた殺人であり、死体が詰め込まれていたスーツケースを持ち込めた人物には犯行の時間がなく、スーツケースに指紋を残した人物は、現場への出入りが不可能だったのです。
捜査が難航する中で、火村とアリスがある場所に赴き、真相に迫っていきます。
前半分の遅々として進まない捜査の話と、後半部分のある場所を舞台とした捜査の話で、色合いがガラッと変わっていきます。
ここがポイント
本格派のトリックに凝ったミステリではなく、エモーショナルなミステリという言葉がピッタリな作品です。
4、『同志少女よ敵を撃て』 逢坂 冬馬
ナチスに家族を村ごと殺されたロシアの少女が、赤軍に拾われ、狙撃兵になって戦う話です。
家族を殺され、故郷を失っても、狙撃兵となることで、かろうじて生きる価値を得た少女たちがいたのです。
冷徹な狙撃兵とあどけなさの残る少女という、両極端な存在を併せ持つ彼女たちの葛藤と成長、そして友情が描かれています。
筆者の筆致は目を覆いたくなるような戦場の悲惨さと共に、登場人物の微かな感情の揺らぎをも、読む者に届けてくれます。
ここがポイント
国家レベルの勝敗の影には、おびただしい数の名もなき犠牲者がいて、そのひとり一人に戦争なかりせばの人生の物語があったのです。
そしてその犠牲を前に、勝者など存在しないという戦争の不条理さを痛感してしまう作品です。
5、『リバー』 奥田 英朗
群馬県桐生市と栃木県足利市を流れる渡良瀬川の河川敷で、若い女性が2人殺され遺棄された事件で、10年前にも同様の未解決事件があったことから、両県警が決死の調査を行う話です。
捜査線上に浮かぶ容疑者は三者三様であり、真相が分るまで、一気読み必至のクライムサスペンスなのです。
両県警の刑事は勿論のこと、容疑者と恋仲になるスナックのチーママや、娘の無念を晴らしたい父親、新米女性記者等、物語を多角的に描き、細部まで拘った筆者の筆致が光ります。
ここがポイント
立場は違えども、事件解決に向かう人々の内面を丁寧に描き、読む側もその混乱の中に投げ込まれたかのように感じてしまいます。
日本の地方都市の問題も提起した、最上級の警察小説としておすすめの作品です。
6、『ペッパーズ・ゴースト』 伊坂 幸太郎
飛沫感染で相手の少し先の未来が見える中学教員の檀先生と、その女子生徒が書く小説に登場して、猫を苦しめた者たちを成敗する「ネゴジゴハンター」のアメショーとロシアンブルーが活躍する話です。
主人公は中学校の国語教師である檀千郷、父親からも引き継いだ少し不思議な能力を持っているのです。
あることで他人の明日を少しだけ見ることができ、この物語の中ではそれを、先行上映と呼んでいます。
檀は女子生徒から自作の変わった小説を渡されるのですが、その小説の話と現実の話が、並行して進んでいき、その二つが巡り合うといった変わったストリーなのです。
軽妙なやり取り、肩に力の入らない絶妙な緊張感、チョット怖い過激なシーンなども、サラッと描かれています。
個性豊かな登場人物が、思いがけないきっかけで絡み合う、筆者ならではの世界観が味わえる作品です。
7、『傲慢と善良』 辻村 深月
坂庭真美が忽然と姿を消し、その居場所を探すため、婚約者の西澤架は彼女の過去と向き合うことになる話です。
2部構成に分かれていて、第1部では、架視点で描かれていて、恋愛・結婚についての価値観について考えさせられます。
第2部では、親や世間の価値観に流されて、生きてきた真美が、自分の意志によって選択・行動できるようになったのか、或いは単に世間の目から逃げたかっただけなのかが、疑問として浮かび上がってきます。
善良な生き方による生きづらさや、そういう生き方をしてきた人は、要領よく生きようとしても、上手くいかない不条理さに共感を覚えてしまいます。
ここがポイント
哀しいかな、嘘の世界でお互いに騙し合いながら、妥協点を見出し、折り合いを付けて生きていくのが、現実なのかと思ってしまう作品です。
8、『変な絵』 雨穴
ダイイングメッセージ的な9枚の絵を手掛かりに、事件の真相に挑んでいくホラー感溢れる連作短編集です。
各章が独立した謎を扱っているのですが、全体では一つの事件を構成するという構造になっていて、前作「変な家」のような妙な因習や不可解な出来事は起こらず、ミステリとしての色合いが濃くなっています。
微かな違和感が積りに積もって、得体の知れない不気味さに変わっていき、正体がつかめないまま視点が切り替わり、また新たな違和感が積みあがっていくのです。
ここがポイント
やがて少しずつですが、それぞれの視点を繋ぐ線が浮かび、真相にたどり着く構成に引き込まれてしまいます。
人間の闇の怖さを感じたい人に、おすすめの作品です。
9、『風待ちの四傑 くらまし屋稼業』 今村 翔吾
くらまし屋シリーズの8作目であり、今回は越後屋の番頭の悪事に気付いてしまった比奈という女性をくらませる話です。
腕におぼえがある者とて、所詮、人であり、斬られれば血を流し、傷が深ければ死んでしまうのです。
横たわる屍は明日の我が身でないとは言い切れず、それでも胸にいだく志の為に、依頼を受けては、くらませているのです。
誰が善で、どいつが悪かなんて、もう決めつけられなくなってきます。
ここがポイント
毎回一定のクオリティで、捻くれた予想と期待を軽々と超えて、面白いのがこのシリーズの凄いところです。
プライドの高いプロたちが互いを認め合い、時に戦いの時に手を組む特殊な関係も見どころの一つです。
今後の展開にも、目が離せない作品です。
10、『わが家は祇園の拝み屋さん』 望月 麻衣
ある日突然、他人の心が読めるようになって、不登校となった16歳の小春が、京都の祖母の元で、様々な人や不思議な出来事に遭遇する話です。
小春は祖母の和雑貨と和菓子屋を営む店で働きながら、ゆったりとした雰囲気の中で、次第に心の緊張も和らいでいくのです。
ここがポイント
祖母が陰陽師の末裔であり、拝み屋であることを知り、小春は不思議なことに巻き込まれながらも、ついに自分の身に起きたことも話そうと決心するのです。
京都の魅力の一つである、「パワースポット」を巡る事件、そしてそれを解決するのがこのシリーズです。
神霊現象を解決するシリーズ作品です。
11、『母性』 湊 かなえ
17歳の女子高生が、事故か自殺か分からないまま、自宅の中庭で倒れているのが発見され、母の手記、娘の回想の二つの視点で同じ出来事が語られる話です。
母性とは何か、愛とは何か、考えさせられる話であり、マザコンの母親と、母親に愛されない娘、妻に無関心の父親、意地悪な姑の視点で、話は展開していきます。
母親の手記と娘の回想で繰り広げられる物語は、どちらも信用し難く、お互い違うことを言っていたり、同じことを言っていても受け取り方が、異なり、こんなにも食い違いがあるのかと思ってしまいます。
ここがポイント
傍から見ると、恵まれているのに、当事者の立場では、到底感じないようなことが、案外身の回りで溢れている事象なのかも知れないと思ってしまう作品です。
12、『ロスト・ケア』 葉真中 顕
高齢化社会、介護問題に主軸を置き、且つその現状に異を唱えながら、ミステリアスに展開していく話です。
大切な人に介護が必要になった時、どうにかしてあげたいと思うのは当然なのですが、介護は容易なものではなく、自身をすり減らし、追い詰め、心も蝕まれていくのです。
42人もの老人を殺害した犯人、しかしその犯罪は本当に悪だったのでしょうか。
ここがポイント
この物語が提示しているのは、ミステリだけではなく、現代社会が抱える歪みも示しているのです。
ワンオペ介護の限界、膨大な介護費用、介護による失職、低賃金で重労働の介護職、何かがおかしいのです。
もし自分が介護される立場で、まだ、自覚があるのなら、ロスト・ケアを望むかも知れません。
今後の人生について、誰もが考えさせられる作品です。
13、『帝都地下迷宮』 中山 七里
廃駅マニアの公務員である、小日向が、趣味が高じ、忍び込んだ地下鉄の廃駅で、エクスプローラーと名乗る地下で生活する人々と出会う話です。
エクスプローラーたちは、事情があって地下でしか生活できない集団であり、そんな中で殺人事件が起きてしまうのです。
小日向は死体遺棄を頼まれ、次第に警察から追われる身になってしまうのです。
ここがポイント
生活保護、原発問題、国家権力に弱者が虐げられるさまも、どこか既視感があるように思ってしまします。
公務員たる定めの矛盾、国の理不尽と社会問題を絡めながら、終盤には先輩公務員の協力と鉄ヲタ仲間の意外な職業、公安VS捜査一課等、多様なエンタメ炸裂で楽しめる作品です。
14、『背中の蜘蛛』 誉田 哲也
とある売人を捕まえたことにより、明るみになった殺人事件、さらには日本及び警察の重大機密を知ることになる刑事たちの戦いを描いた話です。
ここがポイント
地味な事件が続く冒頭で、正体不明と思われた密告が、実は警視庁内の架空のセクションからの発信であることが分かり、事態は混沌を極めていきます。
ただでさえ、個人情報駄々洩れの昨今、あながち、架空ではない可能性も感じてしまいます。
情報通信技術の進歩により、インターネットは日常の中に浸透し、サイバースペースも同じような空間と思いがちな現代なのです。
そんな社会で国家警察が、その捜査能力をサイバースペースに拡大していくのは必然のことなのです。
国家権力の怖さが、浮き彫りにされた作品です。
15、『告解』 薬丸 岳
飲酒運転のうえ、轢き逃げ死亡事故を起こしてしまった大学生の主人公、そしてこの事故で妻を失った老人、その両者の再生を描いた人間ドラマです。
大学生の籬(まがき)は、深夜の彼女からの呼び出しに対して、飲酒運転をしてしまうのです。
籬は確実に人を轢いてしまった感覚を覚えながら、そのまま、その場から逃げ去ってしまうのです。
ここがポイント
そして、あっけなく逮捕されてしまい、裁かれるのですが、刑を終えて復帰してからの、後半部分が見どころとなります。
奥さんを殺されたと思い、その想いを胸にしまい続けた高齢の被害者の夫は、一体何をしようとしているのか。
加害者家族及び、被害者家族のどちらに立つわけでもなく、淡々と描写される作品です。
16、『呪いと殺しは飯のタネ』 烏丸 尚奇
伝記作家の烏丸尚奇の元に、ある企業の創業者である深山波平の伝記を書いて欲しいという依頼があり、多額な報酬と刺激を約束すると書かれた不思議な依頼書に釣られて、その依頼を引き受ける話です。
依頼者の素性を調べていくと自殺したカナダ人妻や、魔女と恐れられた娘の失踪、地下に隠された拷問部屋など、背徳的なニオイがプンプンしてくるのでした。
ここがポイント
息つく暇もなく、後ろ暗い新情報が次々と出てきて、先の展開が気になり、呪いの一家に何があったのか、猟奇的で面白い展開に発展していきます。
かなりスリリングなサイコホラー作品です。
17、『希望の糸』 東野 圭吾
加賀恭一郎シリーズの11作目であり、今回はスピンオフ的な感じで加賀の従兄弟の松宮が主役で、彼の生い立ちと殺人事件の二つの物語が、描かれています。
誰からも好かれていたカフェの経営者が殺害され、ある常連客が目をつけられ、捜査は進んでいくのですが、、、。
ここがポイント
松宮が事件を担当していき、彼自身の父親に関わる出来事と、同時進行という二つの形で物語は展開していきます。
血の繋がりとは何か、生まれた意味とは、など考えさせられる場面が満載です。
子どもを亡くした夫婦、死に瀕した父親の秘密を知ることになった旅館の女将、カフェ経営者の殺人事件を追う刑事など、散りばめられた様々なエピソードが、どういう風にリンクしていくのかが、見どころの作品です。
18、『踏切の幽霊』 高野 和明
下北沢の踏切で撮られた一枚の心霊写真で、亡き妻への後悔と思慕を抱える雑誌記者の松田が、心霊ネタの取材に乗り出す話です。
かつて踏切の傍で起きた殺人事件の被害者女性の身元が、不明なままのことを知り、松田は調査を始めていきます。
そして彼女の死の真相に近づいていくにつれ、彼女の過酷な人生を知ることになるのです。
ここがポイント
彼女は何故、最終電車を見送ったのか、その真実を知った時、悲しみと共に、感動が溢れ出てきます。
主人公、松田の再生物語の側面も感じられる作品です。
19、『栞と嘘の季節』 米澤 穂信
高校の図書委員である、二年生の堀川と松川のコンビが、事件を解決する第二弾であり、返却された本に挟まっていた栞から話ははじまります。
その栞は何と猛毒のトリカブトの花の栞であり、二人はその栞の持ち主を探し始めます。
そのうちトリカブトの中毒者も出る事件も起こり、その栞は自分のものだと嘘をついて近づいてきた同学年の女子、瀬野も加わった三人で、栞に関わる謎に挑んでいきます。
ここがポイント
いつもながらのビターな後味が残りますが、探偵役の三人の会話、伏線の回収などは、米澤テイストであり、さらに短い会話文も多く、楽しめます。
さらに今後の展開を示唆する部分もあり、続編を期待できる作品です。
20、『黒石 新宿鮫Ⅻ』 大沢 在昌
新宿鮫シリーズの第12弾であり、中国残留孤児の謎の組織、金石とそのグループである八石の殺し屋、黒石を追う話です。
徐福と名乗る新リーダーが、黒石という名の暗殺者を使い、「金石」を横型ネットワークから上意下達の組織への変革を試みているのです。
新課長の阿坂、鑑識の藪、前作で裏切られた公安の八坂で新たなチームを組成し、連続殺人鬼と化した黒石を追い、新リーダーを目論む徐福を突き止めていきます。
ここがポイント
周囲から孤立する鮫島をサポートする阿坂と藪、回を重ねる毎に変貌する新宿の裏社会も魅力の一つです。
暗躍する殺し屋による、恐怖感覚が見せ所の作品です。
21、『教誨』 柚木 裕子
自分の娘も含めた、幼女を2名殺害した罪で、死刑に処せられた三原響子の遺骨を引き取ることとなった、遠縁にあたる吉沢香澄と母の静江が、彼女が遺した約束の言葉の意味を探る話です。
死刑執行後の遺骨を引き取った香澄は、響子の収監時の話を聞く中で、死刑執行直前に響子が言った「約束は守ったよ、褒めて」の言葉の意味を解明するために響子の故郷へ出かけるのです。
そしてそこで分かった言葉の意味とは、、、。
日本の田舎で生きる人たちの間に生まれる窮屈さ、それでもその土地で生きていくことしかできない女性の生き様に、息が詰まるような思いになってしまいます。
ここがポイント
教誨師として響子と向き合った下間住職の優しさに、もっと早く触れていれば、彼女の人生も違ったものになっていたかも知れません。
死刑執行について考えさせられ、人間の本質を考えさせられる作品です。
22、『仕掛島』 東川 篤哉
瀬戸内海に浮かぶ奇妙な形の島の別荘で起きる、奇怪な殺人事件の話です。
岡山の名士の遺言状に従って、瀬戸内の斜島の別荘に集められた親族一同、しかし明かされた本筋の遺言状には、不穏な内容が、記されており、翌朝、相続人の一人が殺されてしまうのです。
ここがポイント
折りしも嵐の孤島というクローズドサークルであり、弁護士の矢野と探偵の小早川が、現代と絡んだ23年前の事件解決に挑んでいき、事件の本質を探っていくのです。
ミステリーとしても二重三重の仕掛けが準備されていて、正にタイトルどおりの作品です。
23、『ハヤブサ消防団』 池井戸 潤
亡き父親の故郷に移住したミステリー作家の三馬太郎が、移住先の消防団に所属するのですが、次々に起きる連続火災事件などに巻き込まれる話です。
池井戸氏には珍しいミステリー小説であり、田舎に引っ越してきたミステリー作家が、地元の消防団に入団して、田舎独特の風習や行事に巻き込まれ、飲み込まれつつ、地域に順応していくのです。
消防団の話はあまり多くありませんが、田舎特有のやり取り、価値観、人間関係が丁寧で、リアルに描かれています。
平和な地域で起きる不穏な連続放火事件、次第に判明してくる新興宗教の影。
ここがポイント
あまり切迫感はありませんが、地域が侵食されていく恐怖と、隠された悲しい真実が胸に響いてくる作品です。
2023年7月にドラマ化が決定しています。
24、『この世の果ての殺人』 荒木 あかね
あと二ヶ月で小惑星が衝突することにより、消滅する世界で、連続殺人事件が起き、自動車教習所の教官で元刑事のイサガワと共に小春が事件に挑んでいく話です。
人類は滅亡するのに何故殺人を犯すのか、何故自動車教習所は営業しているのか等、不思議な感覚の間が楽しい感覚になります。
ふとした会話だったり、残された人々の出会いが、伏線にもなるし、悪人になるのも致し方ないと思ってしまいます。
結局最期には何を信じるのか、終わるからこそという心情が、また哀愁を誘ってしまいます。
ここがポイント
絶望の中で精神を保つのは、過去日常だった何かを求めることにあるのかもしれません。
第68回江戸川乱歩賞、選考委員、満場一致の最年少受賞作品です。
25、『アマテラスの暗号』 伊勢谷 武
日ユ同祖論をベースに、日本の神道や古事記に纏わる謎を追う話です。
宮司を務める父親が殺され、息子の賢司は死の謎を突き止める為、動き出していきます。
事件の謎の奥には、日本とユダヤ、イスラエル、中国も絡んでくる展開があり、日本にはユダヤと共通している言葉やもの、行事や祭りなど多くあり、失われた十支族が、日本にたどり着いて土着したと思わせるストーリーになっています。
ここがポイント
ユダヤ教との共通点を辿る旅路はとても興味深く、神が存在したかどうかは分かりませんが、昔の人は神への畏怖と敬意をもって心の拠り所にしていたのだと思います。
一種の学術書のようでもある、日本版ダ・ヴィンチ・コードのような歴史ミステリ作品です。
26、『先祖探偵』 新川 帆立
母と生き別れた邑楽風子が、先祖探偵という仕事をしながら、自分のルーツを探していく5編からなる連作短編集です。
人が自分の先祖を知りたいと思うその事情は様々ですが、本作に登場する依頼人たちも、願いだったり、思惑だったりを抱えているのです。
ここがポイント
今ある自分の存在は当たり前ですが、先祖がいたからであり、過去を遡っていくことは、自分が存在している事への証明を詳らかにすることなのです。
本作は各話が独立していて、そこに風子自身の生い立ちの謎を軸として展開していきます。
一味違う、素材が面白い探偵作品です。
27、『月灯館殺人事件』 北山 猛邦
7人のミステリ作家が悩みをかかえつつ、それを解消するために集まった雪で閉ざされた月灯館で、クローズド・サークルの連続殺人事件に発展する話です。
雪のクローズドサークル、密室トリック、バラバラ屍体など、ミステリ好きには堪らないガジェットの数々にワクワク感が止まりません。
やがて少しずつ明かされていく密室トリック、どんでん返しはあるのか、真犯人は、誰なのか、そして最後の一行、、、。
ここがポイント
動機やトリックについては納得できる上に、真相には驚きがあり、読み返すことにより、伏線も光ります。
ミステリ好きには、もやは聖域の作品です。
28、『顔 FACE』 横山 秀夫
D県警シリーズであり、鑑識で似顔絵担当の婦人警官、平野瑞穂の奮闘を描いた5編からなる連作短編集です。
ここがポイント
小学生の頃から婦警になりたいという夢を実現したのですが、自分の思うところの理想と、周りが作り出す現実との狭間で揺れ動くというか、悪戦苦闘する姿が、5つの話に分けて描かれています。
どの話も無理のない展開の後に、意表を突きながらも、どこか訴えかける情感のある結末が用意されています。
男性主導の厳しい警察世界の中で、奮闘する女性たち、瑞穂もそのうちの一人として描かれています。
怒ったり、泣いたり、時には自分で自分が手に負えなくなるくらい、傷ついてしまったりもするのです。
少し女性目線で描かれている、熱い想いを感じる警察小説です。
29、『さよならの儀式』 宮部 みゆき
宮部氏と言えば、ミステリや時代物のイメージがありますが、本作は初のSF作品集であるとのことで、8編の話が収められています。
短編というものの、宮部節炸裂のボリューム感がタップリとあり、ああそういうことかという謎解きや、視点の面白味もあり、もちろん、心に響く深みも持ち合わせています。
例によって頭脳を明晰にして、取り掛かることを要求される叙述が堪らないほどに美しいです。
ここがポイント
8編それぞれに、様々な切り口の作品であり、ガジェットの面白さとしてではなく、それを通して見る生々しい視座は流石としか言いようのない作品集です。
30、『遠巷説百物語』 京極 夏彦
遠野で起きる不思議な事件について、口伝のような語りの譚、主人公の宇夫方祥五郎が、乙蔵から聞く噂である咄、出来事の当事者から見た噺、仕掛けの種明かしの噺の順に構成された短編集です。
様々な事情で公に出来ないことを、不思議という事で収めていくのですが、話の最後の章で、人々の事情やカラクリが明らかになっていきます。
ここがポイント
呑み込めない事情があっても、妖のせいにして無理に納得するというのは、人が生きていくうえで必要なのかも知れません。
全体に漂う江戸時代の限界間近の雰囲気も、感じられる作品です。
まとめ
2023年、それぞれの作家先生のおすすめミステリの30選のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみて下さい。
あなたの興味を惹く作品が必ずみつかりますよ、