こだわりをもった作風で描く、楡周平氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきます。
大学院修了後、米国企業の日本法人に入り、在職中の1996年に、犯罪小説である「Cの福音」を発表し、30万部を売り上げます。
その後は小説執筆に専念するために、米国企業を退社し、前作の続編となる「猛禽の宴」という作品を発表します。
以後は悪のヒーローである、朝倉恭介を主人公としたシリーズ小説を刊行し、また正義のヒーローとして川瀬雅彦も登場させています。
楡周平おすすめ作品11選をご紹介~無駄を恐れない気概で描写~
スリルとハードボイルドとアクションを取り入れた作品群が特徴ですが、2005年に「再生巨流」という作品を発表してからは、経済小説をメインに執筆するようになったようです。
人生の中でいろいろな後悔や挫折、失敗があったけど、作家というこの仕事に就くためであったと思うと、人生ってなんて不思議で面白いものだと思うそうです。
そんな楡周平氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『Cの福音』
朝倉恭介シリーズの第一弾であり、両親を事故で亡くした天才の朝倉恭介が、亡き友人の父でマフィアのボスという裏の顔を持つファルージオに師事し、日本への完璧なコカイン密輸ルートと、販売ルートを確立する話です。
海外小説風な出だしなので、少し面食らってしまいますが、クールな書きっぷりと、それとない情景描写にハマってしまいます。
コカインの特徴として、身体的依存症はなくて、むしろ精神的依存症の方が強いというのには驚きました。
ここがポイント
そのコカインによって身を崩していく様が、淡々と描かれていて、薬物中毒の怖さを再認識してしまいます。
戦闘能力にも長けた、悪のヒーロー朝倉恭介の誕生作品です。
2、『クーデター』
朝倉恭介シリーズの第二弾であり、ある日、能登半島で軍事兵器を持った一団によって開始された攻撃の話です。
今作は報道カメラマンである善のヒーロー川瀬雅彦が登場し、宗教団体のクーデターにより、金沢と東京で未曽有のテロ事件が勃発します。
戦争であれば国家対法人など勝負にもなりませんが、相手が見えないという状況が、いかに恐ろしいことかが分かります。
平和と混乱は紙一重という、恐ろしい絵図が透けて見えるのです。
ここがポイント
場面の展開がかなり多いのに分かり易く、最後までスピード感が溢れて楽しめます。
日本の危機管理に警鐘を鳴らす作品です。
3、『猛禽の宴』
朝倉恭介シリーズの第三弾であり、恭介が父と慕うNYのマフィアのボスである、ファルージオが新興組織に襲撃され、その復讐に恭介が立ち上がる話です。
今回の舞台は専らアメリカであり、砲撃戦やマフィアの抗争など、日本ではまず起こり得ない事態が頻発します。
隙の無い完璧な悪人には魅力を感じざるを得ませんが、そんな彼でも力の差に阻まれて、自由に動くことができないのです。
ここがポイント
力には力なのか、それとも知恵なのか、偶然出会った新規ビジネスの種を今後どう生かしていくのか楽しみになります。
更にハラハラ感が増して、ますますアクションも派手になり、今後の展開が楽しみな作品です。
4、『クラッシュ』
朝倉恭介シリーズの第四弾であり、サイバーテロにより、飛行中の旅客機が、操縦不能に陥る話です。
自信の痴態をネットでばらまかれた敏腕女性エンジニア、キャサリンの社会への復讐劇だったのです。
ここがポイント
ただ単に悪への復讐だったのですが、ちょっとしたことから恐ろしいテロへと変貌を遂げていくのです。
上空と地上で繰り広げられる大パニックの展開、飛行機制御システムのクラッシュ、全PCのHDクラッシュ、恐ろしいほどに計算された手口と、それを阻止するための攻防に緊迫感が溢れていて、目が離せません。
暴走するネット社会への警告のような作品です。
5、『無限連鎖』
巨大タンカー、一隻で日本経済に大打撃を与えることができることを、納得させられる現実感が溢れる話です。
東京湾で原油を満載したタンカーが、テロリストにジャックされ、犯人たちの要求を呑まなければ、タンカーは爆破され、東京は文字通り火の海になってしまうのです。
ストーリーのタッチに外国小説っぽい空気があり、犯人らの要望に対して、日本政府とアメリカ政府が苦渋の決断を下すまでの緊迫した張りつめた凄い空気感が伝わってきます。
ここがポイント
テロに対する報復的措置は新たなテロを生んでしまい、それこそ無限連鎖してしまうのです。
6、『フェイク』
大学を卒業し、銀座のクラブのボーイとして働く岩崎陽一が、雇われママである摩耶の巧みな導きで、詐欺の道へ引き込まれていく話です。
銀座のクラブや競輪のシステムを解説しながら、騙し騙されの物語が展開していきます。
ここがポイント
本作はコンゲームというジャンルであり、それぞれの思惑が錯綜するなか、最後に笑うのは誰なのかと興味津々になります。
華やかな世界の裏にある、男と女、そして女同士、お金のバチバチのバトルに次の展開が待ちきれません。
ギャンブルみたいな人生はお断りしたいですが、読む分にはたいそう楽しく、ドロドロ感もない娯楽作品です。
7、『再生巨流』
物流企業で抜群の営業成績を残していた吉野だったのですが、組織内の不和で実質的な左遷人事を受けてしまう話です。
左遷先は新規事業開発部門であり、吉野は年間4憶もの新規事業をノルマとして課せられてしまうのです。
しかし、それに屈することなく、他社の文具通販からヒントを得て、新しい流通システムを思いつき奔走してきます。
ここがポイント
熾烈な競争を繰り広げる物流業界に、画期的な物流システムを立ち上げるため、奮闘する登場人物たちの姿が熱く描かれています。
新しいビジネスの創出現場に、立ち会っているような感覚にさせてくれる作品です。
8、『プラチナタウン』
山崎鉄郎シリーズの第一弾であり、商社で出世ルートを絶たれた主人公の山崎鉄郎が、町長として田舎の町の財政再建のため、町の命運を懸けた一大ビジネスに乗り出す話です。
箱物行政の成れの果てである、利用者が誰もいない数々の施設に借金150億円をかかえた町を復興させるべく、奔走していきます。
ここがポイント
これからの日本が抱える団塊世代の高齢化、介護問題に鋭く切り込み、解決の兆しが見えてきそうな展開でストーリーは展開していきます。
ビジネスとしても、現実味を帯びてきそうな雰囲気を感じてしまう作品です。
9、『国士』
山崎鉄郎シリーズの第ニ弾であり、夫婦で始めたカレー屋を一代で、全国チェーンに育て上げた「イカリ屋」の篠崎が、アメリカ進出を決断する話です。
人とのつながりを重んじ、一代で事業を拡大させた創始者も、自信の高齢とノウハウの不足から、外部から社長を招きいれることとなります。
フランチャイズの闇が語られるくだりでは、その現実に唖然とさせられてしまいます。
コンビニなどは良く経営者が変わりますが、そういう事だったのかと納得してしまいます。
ここがポイント
経済優先思考が行き着き、地域との共存や人の育成など、公の理念を蔑ろにして、私の部分を競い合う醜い国となってしまうのでしょうか。
多店舗展開のフランチャイズ制度の裏側が良く分かる作品です。
10、『サリエルの命題』
新型インフルエンザによるパンデミックが危惧される事態が発生し、日本の社会保障制度が問われる話です。
悪魔のウィルスの名は「サリエル」であり、日本海に浮かぶ孤島で強毒性の新型インフルエンザが発生し、瞬く間に島民全員が死亡してしまったのです。
オリンピックを翌年に控える日本に、新型インフルエンザによるパンデミックの危機が、訪れたのです。
ワクチンもなく、頼みの綱はウィルス増殖を抑える特効薬の「トレドール」だけなのです。
ここがポイント
国は特効薬の配分優先順位に苦悩し、少子高齢化、国民皆保険制度の矛盾があらわになっていきます。
まさしくコロナ禍の今、この作品は予言書のように思えます。
11、『ヘルメースの審判』
大手総合電器メーカーである「ニシハマ」の粉飾決算や政界とのつながり、そして投資ファンドによる株式買い占めまでを絡めた話です。
実在の大手総合電器メーカーの〇芝の話であるのは、一目瞭然であり、学閥人事で長期的な経営陣の失敗が繰り返され、ニシハマは衰退していくのです。
出世したい下層社員による忖度から、増収増益を達成するために粉飾決算が行われ、原発で失敗してしまうのです。
ここがポイント
日本の企業自体、古い体質のままでいたら、世界からどんどん遅れを取り、商人の守護神、ヘルメースから見放されてしまうのではと思います。
これからの企業の在り方を考えさせられる作品です。
まとめ
楡周平氏の作品のご紹介はお楽しみ頂けましたでしょうか。
こだわりを持った作風を感じて頂けたと思います。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみがひろがりますよ。