奥深い人間ドラマを描く、馳星周氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、出版社勤務を経て、フリーライターになり、「本の雑誌」などに書評を書いています。
1996年に「不夜城」という作品で作家デビューを果し、第15回日本冒険小説大賞(国内部門)及び第18回吉川英治文学新人賞を受賞しています。
1998年には「鎮魂歌~不夜城Ⅱ」で第51回日本推理作家協会賞、1999年には「漂流街」で第1回大藪春彦賞を受賞しています。
馳星周おすすめ作品11選をご紹介~ノワールの旗手が魅了する~
原稿を書く時間帯は、基本的には昼の12時過ぎくらいから、夕方の4時位までだそうですが、締め切りが迫った時はその限りではないそうです。
朝は7時に起床し、7時半に犬と散歩し、8時半に犬の朝ご飯を作り、次に人間のご飯を作るそうです。
過去に何度も直木賞にノミネートされ、7度目となる、ノミネートでついに2020年、第163回の直木賞を「少年と犬」という作品で受賞します。
そんな馳星周氏のおすすめの作品11選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『不夜城』
新宿、歌舞伎町を舞台に中国、台湾マフィアの抗争に巻き込まれる、日本人と台湾人のハーフである、劉健一が主人公のハードボイルドです。
歌舞伎町では日本ヤクザは鳴りを潜め、中華系のマフィアが縄張り争いを繰り返していたのです。
劉は役立つ出自をうまく利用して生き抜いていたのですが、過去に問題を起こし、姿を晦ませていた元相棒の呉富春が歌舞伎町に舞い戻ったことにより、再び抗争が勃発してしまうのです。
ここがポイント
裏の社会の力関係、腹の探り合いによる裏切り、暴力と謀略など複雑に絡まった中、主人公の劉がどうなってしまうのかが、ハラハラドキドキの連続です。
これぞノワールそのものであり、誰も信じられない世界とはどんな世界なのだろうと思ってしまいます。
2、『鎮魂歌 不夜城Ⅱ』
「不夜城」の続編であり、あれから2年後の歌舞伎町は、崔虎率いる北京マフィアと、朱宏率いる上海マフィアが縄張りを分け合い、その間で台湾の楊偉民が睨みをきかせていたのです。
上海マフィアの四天王の一人が射殺され、保たれていたはずの均衡が徐々に崩れていったのです。
この事件で暗躍したのは果たして誰なのか、「やられたら、やり返す」というのが復讐でもなんでもなく、彼らの流儀だったのです。
前作の主人公である劉は今回は主人公ではないため、登場する機会こそ少ないのですが、陰から主人公たちの裏で暗躍をしていて、その存在感を放っています。
ここがポイント
全員悪人であり、皆救いがたく、生々しいまでの悪の息遣いに圧倒される作品です。
3、『夜光虫』
元プロ野球選手だった男が台湾へ渡り、八百長に手を染めたのをきっかけに、徐々に暗黒の裏社会へと墜ちていく話です。
神宮でのヒーローであった加倉は、プロ野球界でもヒーローになれるはずであったが、肩の故障で引退してしまうのです。
事業の失敗などで多額の借金を背負い、そんな時、台湾プロ野球から契約を貰うのであるが、しかしそこに待っていたのは、黒社会がしきる八百長だったのです。
彼は何処から道を誤ったのだろうか、己の過ちを認め、闇に進むのをやめていれば、もう少し幸福な道もあったのではないかと思ってしまいます。
ここがポイント
強欲な世界観が見事に描かれている作品です。
4、『漂流街』
日本に出稼ぎにきた日系3世のブラジル人のマーリオが、ヤクザから大金と覚醒剤を奪い取る話です。
登場人物たちも悪人ばかりで、まさに暴力と狂気の塊という表現がピッタリと当てはまります。
とにかく、全員が欲望のまま行動をして、破滅に突き進んでいってしまうのです。
主人公であるマーリオの内に秘めている狂気が、あるきっかけによって、壊れるように畳みかけられる終盤の展開には思わず圧倒されてしまいます。
ここがポイント
もはやマーリオを含めて誰も救われず、何一つも残らない結末は嫌でも心に残ってしまいます。
まさに馳ワールド全開の作品に間違いありません。
5、『M』
日常に潜む背徳の姿を、残酷なまでに描いた4編からなる短編集です。
些細なことがきっかけで、異常な性の世界に嵌った者たちが、苦悩と快楽、そして絶望の果てに見るものを、的確に描いています。
ここがポイント
性的に奔放で官能的な物語では全くなく、どうしようもない閉塞感や堕落への過程を見せられるように圧倒されてしまいます。
歪んだ妄想や欲望、うまくいかない家庭などを切っ掛けにして、異常な性や欲望の闇に墜ちていく登場人物の闇に共感しながらも背筋が凍り付いてしまう作品です。
6、『マンゴーレイン』
タイ生まれの日本人の十河が幼馴染から、メイという中国人の女をタイからシンガポールへ連れ出す手助けを頼まれ、引き受けた途端に四方八方から命を狙われ始める話です。
メイが持ち逃げした仏像の中には、宝の地図らしきものが隠されていたのです。
十河はその宝を得て、今の境遇から抜け出そうと考え、メイも自らの人生を切り開こうと考えるのです。
人生の落後者と貧困の犠牲者である男女2人が、日本軍が残した宝を捜し求めていくのです。
ここがポイント
主人公たちの欲望と護身を根拠とした絶え間ない探り合いであり、絶えず疑い、人を信じまいとすることが生きるすべなのです。
人間の欲の深さや愚かさがわかる作品です。
7、『生誕祭』上・下
バブル崩壊直前、地上げで巨額の金を生み出そうとするもの、それを横からかすめ取ろうとする男女の話です。
金の魔力に憑りつかれ、金に溺れる人々の虚構のダンスが繰り広げられていきます。
一癖も二癖もある人物たちの関係が複雑に絡み合い、欺瞞と憎悪と裏切りの黒いゲームが繰り広げられていったのです。
東西のヤクザ、心酔していたボス、幼馴染、婚約者、多くの人の間に板挟みになって、どんどん深みに嵌っていく主人公の姿に心がヒリヒリと痛んでしまいます。
ここがポイント
金融パニックの現実を分かり易く、強く伝えてくれる作品です。
8、『約束の地で』
北海道を舞台に哀しく切ない5編からなる連作短編集です。
5話はそれぞれに独立はしていますが、前の話の脇役が、次の話の主人公になるという構成になっています。
ごく普通に生活している平凡と思える人々が、登場人物なのですが、北国の重く暗い季節と環境の中で、少し歯車が狂うだけで、非日常の世界に転落していってしまうのです。
そんな怖さをひしひしと感じさせられてしまいます。
ここがポイント
良いことなど何もなく、運に見放された人間の哀しさに触れて、何とも言えない感情を抱いてしまいます。
幸せと不幸を分ける境界線は何処にあるのでしょうか。
9、『ソウルメイト』
犬と人の魂の繋がりを描いた7編からなる短編集です。
どの話も犬に接する人たちの優しさが溢れるように描かれていて、7つの違った犬種のそれぞれの特性が表現されています。
虐待にあっていたコーギー、震災で野生化してしまった柴犬、小さな飼い主を助けたボルゾイ等、愛情のこもった素敵な話が綴られています。
ここがポイント
犬とは言葉を交わすことはできないけれど、こんな風に犬と気持ちが通じ合うことにより、人間同士の繋がりも整えてくれて、解してくれる大切な家族なのです。
犬との心温まるやり取りに胸が熱くなる作品です。
10、『神の涙』
道東を舞台に、アイヌの木彫り作家の老人、その孫娘、そして、そこに訪ねて来て弟子入りをする青年の話です。
アイヌ民族に誇りを持つ木彫り職人の敬蔵と、アイヌであることを消し去り、都会生活に憧れる孫娘の悠。
自分のルーツ探しに北海道に来た雅比古は敬蔵と悠に出逢い、弟子入りをし、いろんなことを教わり感化されていきます。
ここがポイント
アイヌの差別と自然をテーマにしていますが、その陰にはまだ終わらない3.11の問題も包含しているのです。
許すという事は容易ではないですが、今生きることの喜びを分かち合える幸せに浸れる作品です。
11、『少年と犬』
東北震災後の岩手を彷徨っていた一匹の犬、多聞、その多聞と出会った男、泥棒、夫婦、娼婦、老人そして少年と織りなす6つの物語です。
理想と現実の間で苦しむ人たちの前に現れる一匹の犬。
ここがポイント
束の間の共同生活の中で、彼(多聞)は力強く、優しく人を見守り、癒してくれたのです。
守り神とまで言われた彼の行き先と結末は果たしてどこで、どうなってしまうのでしょうか。
犬の無償の愛が、人々の孤独と寂しさを和らげてくれたのです。
もの言わぬ犬が、それぞれの人の人生の輪郭を浮かびあがらせる作品です。
まとめ
馳星周氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
馳ワールドにハマってしまうと思います。