東北の風土に根ざした、独特の作風の熊谷達也氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、数学教諭を8年間勤め、その後出身地の宮城県に帰り、保険代理店業を経て、1997年に「ウエンカムイの爪」という作品で、作家デビューを果します。
そして2004年の「相剋の森」という作品から始まり、「氷結の森」で終わるマタギ3部作の2作目の作品である「邂逅の森」が、山本周五郎賞と直木賞のダブル受賞を果たします。
熊谷達也おすすめ8選をご紹介~民俗・文化・風土に根ざした作風~
熊谷氏が実際にものを書きたいなと思ったのは、中学2年生くらいの時で、ものを書いて食べることができればいいなと、漠然と考えていたそうです。
また浪人中、仙台で予備校に通っていた頃、小説を書いてデビューできれば、この苦しい生活から逃れられると、誇大妄想的な考えもあったそうです。
そして卒業後、教員になるのですが、やはり小説家になる夢を諦めきれずに、5年間挑戦してダメだったら、真面目に働こうという覚悟を決めたそうです。
そんな熊谷達也氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『ウエンカムイの爪』
北海道の山中で巨大なヒグマに襲われた動物写真家の吉本が、クマを自在に操れる不思議な力を持った、謎の女性に助けられる話です。
ここがポイント
アイヌの人々は、人間を食ってしまったヒグマのことを真の悪神「ウエンカムイ」と呼んでいるのです。
そんなヒグマに襲われる恐怖を綴った話であり、ヒグマに襲われた時の恐怖感が臨場感タップリに描かれています。
しかしそれだけでなく、ヒグマの生態や北海道の自然破壊、駆除か放逐かを分ける基準など、ヒグマに関するあらゆる情報が記されているのです。
雄大な自然の中の、人間のちっぽけな身勝手さを感じてしまう作品です。
2、『漂泊の牙』
オオカミと思しき獣に、妻を食い殺された男の命を賭けた復習追跡劇の話です。
獣との対峙シーンの臨場感が凄まじく、獣が迫ってくる姿や雪山の情景が鮮烈に浮かんできます。
血に飢えた動物の迫力が凄すぎて、クライマックスの謎解きまでが、霞んでしまいそうです。
雄大な自然と野生動物の描写が特に圧巻であり、震えること間違いありません。
ここがポイント
生き物たちの息遣いや自然の息吹をリアルに感じることができる作品です。
3、『まほろばの疾風』
八世紀末の蝦夷(えみし)の地に生まれたアテルイと大和朝廷との戦いの話です。
大自然と共生しながら暮らす山の民の誇りを賭け、侵略者である大和へ敢然と立ち向かう大首長のアテルイの姿には惚れ惚れしてしまいます。
征夷大将軍の坂上田村麻呂との頭脳戦や駆引きはかなり、読み応えがあります。
稲作で食べ物を貯蔵することを覚え、支配する側と搾取する側が、生まれて、国が形成されていくのです。
ここがポイント
実在した人物と歴史にフィクションを織り交ぜた雄大な作品です。
4、『山背郷』
豊かなれど、厳しい自然に対峙する人々の姿を描いた9編からなる珠玉の短編集です。
昭和初期の東北を舞台にしていて、時代の荒波と過酷な自然を相手に懸命に生き抜いた人々。
ここがポイント
終戦前後の混乱と貧困の中、命を賭けた生業に全力を注ぎ、家族への愛を胸に誇り高く生きた男たちの矜持に、心が揺さぶられます。
圧倒的な情景描写と緊迫感の溢れる場面展開に、目を離すことができず、没頭してしまいます。
また、心地よく引き込まれる東北弁のリズムと深い余情に浸れる結末に感動と興奮を覚える作品です。
5、『相剋の森』
マタギ3部作の第1弾であり、狩りをするマタギに焦点をあてた、人間と自然の関りを考えさせられる話です。
自然保護と現代に細々と生き残ったマタギたちのまさに相剋の物語であり、他にも都市と田舎、人間と動物、男と女といった相剋関係が折り重なって、惹きつけられてしまいます。
日本の野生動物の生態の現状について、考察が深まることは有意義ですが、立場の異なる登場人物の自然環境に対する考え方の方に興味がそそられます。
ここがポイント
人間の本能を感じさせる、マタギの生き様に震えてしまいそうになる作品です。
6、『邂逅の森』
マタギ3部作の第2弾であり、マタギの半生を介して、人間界での性と自然界での生を描いた話です。
大正から昭和にかけての奥羽、出羽山系を舞台に、マタギとして生きた一人の男の波乱万丈の生涯。
東北の冬山の厳しさと美しさ、野生動物のリアルな描写なども印象的ですが、なんといっても、自然と一体化して、獲物を追いかけるマタギたちの仕事ぶりが圧巻です。
農耕社会である日本において、これ程、狩猟文化が存在していたことに、ただ驚くばかりです。
ここがポイント
山の神を敬い、自然と生きるマタギ、まさしく男の世界が堪能できる作品です。
7、『氷結の森』
マタギ3部作の第3弾であり、時代は大正、ロシア革命でおこった尼港事件が舞台になっている話です。
ここがポイント
日露戦争に従軍した矢一郎のその後の転々とする人生を通して、戦前の樺太・シベリア出兵の背景である尼港事件などが詳しく描かれています。
時代に翻弄されながらも、過酷な状況で生きる元マタギである主人公、矢一郎の生き様に惚れ惚れしてしまいます。
ハードボイルドでもあり、ヒューマンドラマも兼ね備えた作品です。
8、『オヤジ・エイジ・ロックンロール』
五十歳を目前にした男が、ふとしたことから、学生時代以来、手にしていなかったギターを手に取り、バンドを結成する話です。
一人のおじさんがエレキギターを再び手に取った時から、失われた青春のやり直しがはじまるのです。
ギターを通して始まる新しい出会いと、かっての仲間たちとの再会に懐かしさがこみ上げて感無量になります。
ここがポイント
男はいつでも、どこでも、熱くなった時が青春時代に戻れるのです。
楽しかった、あの時代にもどれる青春小説のような作品です。
まとめ
熊谷達也氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
もし、まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しさが広がりますよ。