等身大の人物描写に定評のある、木原音瀬氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
高知県生まれで、高校時代は漫画研究会に所属していて、小説家になる前には会社勤めの経験があるそうです。
1995年に「眠る兎」という作品で作家デビューを果たします。
不器用でもどかしい恋愛感情を生々しくかつ、鮮やかに描きボーイズラブ小説界で不動の人気を得ています。
木原音瀬おすすめ作品8選をご紹介~等身大の人物描写で魅了~
「箱の中」と続編の「檻の外」という作品は刊行時、ダ・ヴィンチ紙上にてボイーズラブ界の芥川賞作品と評されて、話題になりました。
作風としましては、作中に特殊な人物や環境などが多く登場しますが、等身大の人物描写に定評が有ります。
デビューしてからずっと、自分の小説に絵を付けてもらうことが好きで、フィギュアスケートと漫画と猫とブドウが好きだそうです。
そんな木原音瀬氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『片思い』前・後
「片思い」と「あのひと」を合わせて、さらに書き下ろしも収録された作品です。
どちらのカップルの話も面白く、事あるごとに喧嘩をしてしまう三笠と吉本のカップル。
大人になった彼らのやりとりには苦笑してしまいますが、読んでいくうちに、より深い想いがちゃんと二人を繋いでいることが分かります。
まさしく、良い喧嘩カップルなのです。
また、松下先生と門脇は静寂の中にも強い想いが、ひたひたと満ちていく感じであり、門脇のこうと決めたら真直ぐで誠実なところには好感が持てます。
松下先生は中年呼ばわりされ過ぎの感がありますが、門脇にとっては年齢差なんてどうでもよくて、些細なことなのです。
ここがポイント
それぞれの登場人物のリアルな感情がひしひしと伝わってきて、どの立場から読んでも楽しめる作品です。
2、『リベット』
レイプによるHIV感染という、あまりにも理不尽な不幸を親友だと信じていた男から背負わされた、主人公の受容と再生の話です。
BLというよりも、人の生き方が問われる内容が重く、流れは一見おだやかであり、初芝が自分ではどうしようもない苦しみに耐えるたびに、身体の中に澱が溜まっていくような感覚を覚えてしまいます。
それでも支えてくれる乾がいたおかげで、救われたのです。
ここがポイント
人と人との結ばれ方は恋愛感情だけでなく、いろいろなつながり方があり、それが現実的であるという事を思い知らせてくれる作品です。
3、『箱の中』
痴漢冤罪で収監された普通の会社員の堂野が、刑務所で出会った殺人犯の男、喜多川に愛されてしまう話です。
堂野は多少の正義感と優しさを持った、ごく普通の男なのに、不運として割り切れないほどの酷い目に遭ってしまうのです。
喜多川は何も知らず、なにも持ってなかったからこそ、ここまで堂野だけを求めることができたのです。
喜多川の不気味な執着を愛と呼ぶのはためらってしまいますが、執着を向けられた堂野が、それを愛だと受け入れてしまったら、周りの人は何も言えないのです。
ここがポイント
喜多川が堂野を求めて想った何年もの時が、説得力となり執着を愛と認めて良い方向に向かっていったのです。
愛情表現がとても素敵な作品です。
4、『檻の外』
「箱の中」の続編であり、その他に「雨の日」と「夏休み」が収録されています。
堂野が結婚をし、妻や子どがいるところからのスタートとなり、ようやくの再会に何故か疎外感を感じてしまう喜多川だったのです。
時間が経つと言うのはつまりこういうことで、箱の中とは違う環境だったのです。
そして訪れる最大の不幸に、こんなことを起こしてしまうのかという衝撃で呆然としてしまいます。
やがて二人が一緒にいるようになり、どんどん喜多川が大人になっていくのを見届けて、雨の日、夏休みと穏やかに過ぎていく日々に安堵を覚えてしまいます。
ここがポイント
好きになった人に対する素直な想いが、描かれている作品です。
5、『深呼吸』
リストラされ弁当屋で働く40過ぎの男、谷地と、リストラした年下の元上司、榛野の恋物語です。
好きになった理由が分からない榛野と、好きになられた理由が分からない谷地との微妙な関係が、少しずつ発展していきます。
ものすごい距離感のあるところから始まって、じわりじわりと話が進み、最後の甘い状況まで目が離せなくなります。
ここがポイント
こんな二人が恋人になれるのかと思うくらい、何もかも違う二人だったのですが、見事に納得感のある流れに巻き込まれてしまいます。
感情のゆらぎや高まりが良く分かる後半のロンドン編がとても印象に残ります。
6、『期限切れの初恋 』
人を好きになるという事は、ままならない話なのです。
最底辺のクズまで落ちてしまった村上を掬い上げた宇野も、元はと言えば恋心を終わらせる為であったし、村上も更生できたと思った瞬間に宇野を遠ざけて、元カノの夢を見始めるのです。
しかし、現実はそんなにも、甘くはなく、村上は元カノとは一緒になれないし、自分から手を離したはずの宇野に彼女ができて、精神的にを追い込まれていたことに、やっと気づくのです。
ここがポイント
寂しくて救われたいから、身近な対象にすがり、見放されないために相手の望む形で、傍にいるのです。
ろくでなしに、なるしかなかった男の捨てきれない恋情が切なく描かれている作品です。
7、『美しいこと』上・下
週に一度女装をして、ストレス解消をするサラリーマンの松岡の話です。
そして、ある夜、ナンパ男に散々な目に合わされた彼を救ってくれたのは、同じ会社の冴えない先輩の寛末だったのです。
朴訥で不器用だけど、とても優しい彼に松岡は少しずつ、惹かれていくのです。
女装で出合った男性と偶然恋に落ち、同性との恋は異性との恋より、お互いの本心がつかみにくく、心の葛藤が複雑かもしれないのです。
ここがポイント
自分でも掴めない本心に翻弄される、言動の歯がゆさがあるのです。
二人の人間の性別を超えた愛情の物語です。
8、『秘密』
啓太と充には、出会った時に、それぞれ抱える「秘密」があって、悩み苦しんでいたのです。
それをお互いに打ち明けることさえしなくて、愚鈍な男だと思っていた充の優しく温かい人柄に、どんどん惹かれていく啓太だったのです。
不器用な生き方しかできない二人が、身と心を寄り添わせていく過程で、明らかになっていく啓太の秘密、そして一途で純粋すぎる充の辛い生い立ちが徐々に明かされていくのです。
ここがポイント
人物形成の妙と卓越した心理描写に、引き込まれてしまう作品です。
まとめ
木原音瀬氏の作品は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
等身大の人物描写は感じていただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
あなたの読書の楽しさがひろがりますよ。