鮮やかな構成で魅了する、深谷忠記氏のおすすめの作品を8選ご紹介させていただきます。
大学卒業後、出版社勤務、学習塾経営などを経て、1982年「ハーメルンの笛を聞け」という作品が第28回江戸川乱歩賞候補に挙がります。
同年、「おちこぼれ探偵塾」(後に、「偏差値殺人事件」に改題)という作品で作家デビューを果たします。
そして1985年の「ウィルスを追え」という作品が第3回サントリーミステリー大賞の佳作を受賞します。
深谷忠記おすすめ8選をご紹介~社会派本格ミステリーを描く~
壮&美緒シリーズに代表されるトラベルミステリーに加え、本格ミステリー、歴史ミステリーにも定評が有ります。
また2000年以降は「目撃」、「毒」、「殺人者」といった単発物の社会派本格ミステリーが中心となっていきます。
趣味は郊外のウォーキングと囲碁だそうです。
そんな深谷忠記氏のおすすめの作品8選を刊行順に、ご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『審判』
8歳の少女を殺害した罪で逮捕され、15年の刑期を終え出所した柏木が、自分は冤罪であると主張し、関係者に接触し証拠集めを始めていく話です。
18年前に起きた、幼女誘拐殺人事件の捜査を担当した元刑事の村上と、被害者である幼女の母親の古畑聖子そして、無実を叫びながらも犯人として、懲役15年の有罪判決を受けた男、柏木の3人を中心として話は進んでいきます。
ここがポイント
一つの刑事事件を通じてその事件に関わった人々の人間としての弱さや冤罪の中に隠された様々な思惑が描かれています。
淡々とした前半に比べ、二転三転する怒涛の後半は目が離せなくなります。
予め織り込まれた伏線が、細部まで行き届いている作品です。
2、『毒』
少年が母親を救う為に、父親殺しを計画する話です。
父の暴力から、母親を救う為に父親を殺害する計画を立てた少年。
病院が舞台になっていて、DVに苦しむ家族が、母親を庇う為に父親と他人を殺害してしまうのです。
ここがポイント
犯人と思しき人間が二転三転して翻弄されてしまい、決め手はタイトルにもあるように毒の使い方が鍵になっています。
看護師目線からストーリーが展開していき、最終局面でしっかりと冒頭の文章とのつながりを見せてくれます。
鮮やかな構成の作品です。
3、『殺人者』
殺人事件と子供虐待が複雑に絡んでいる話です。
子供を虐待した重大な罪を犯した親たちが、連続して殺害されていきます。
犯人がどうして、殺人を犯していったのかを、断片的な過去も折りまぜながら事件は展開していきます。
ここがポイント
犯行はどのように行われたのかというよりも、サスペンス的な見方で読み進んでいくと楽しめます。
子供虐待がメインテーマであるが故に虐待シーンや児童相談所の様子が凄くリアルに描かれています。
憤りと共感を覚えずにはいられない作品です。
4、『無罪』
刑法第39条に護られる人間と苦しめられる人間を描いた話です。
シンナー中毒の通り魔に妻子を殺され、犯人の量刑に納得できない男と、心を病んで実子二人を殺したものの、心身喪失で無罪になった女。
ここがポイント
存在の是非が問われ続けている、刑法第39条を物語の核として、被害者家族と加害者の赤裸々な心を描いています。
自分の意志ではどうにもできない病気のせいなのか、薬物やアルコールを自分の意志で摂取した結果なのかでは、心情的に大きく異なると思いますが、大切な人が戻ってこないという現実は変わらないのです。
現実に迫っている作品であり、人々の葛藤が描かれています。
5、『遺産相続の死角 東京~札幌殺人ライン』
壮&美緒シリーズであり、遺産相続で揉めていた兄弟の弟が殺されて、事件の真相解明に挑む話です。
そしてその兄が殺人の容疑をかけられてしまうのですが、遺産相続のことを相談していた弁護士までもが、殺されてしまうのです。
三年前に東京で起きた事件と二つの殺人の共通点に目を付けた壮と美緒は、凶行に隠された真実を炙り出していきます。
ここがポイント
犯人も意外性があり、確かに人間の心理を突いた死角となっていて、かなり楽しむことができます。
安定感のある展開で楽しめる作品です。
6、『我が子を殺した男』
哀しみや憐れみなどいろいろな感情が濃縮されている、5編からなる短編集です。
ここがポイント
それぞれに視点を変えた内容であり、読む者を飽きさせることのないように凝縮した心理描写が巧みに描かれています。
これと言って、大きな驚きはありませんが、ありがちな事件の中に、思いもよらない結末に静かな驚きを感じてしまいます。
全てにおいて計算し尽された作品です。
7、『Nの悲劇 東京~金沢殺人ライン』
壮&美緒シリーズであり、東京で産婦人科医が刺殺された事件と金沢の兼六園で主婦が絞殺された事件に挑む話です。
ここがポイント
金沢に住む作家、西崎彩からの相談でThe Judgeと名乗る相手からの不振な手紙が事件の糸口を握っていたのです。
東京の殺人現場で「死刑執行!」と書かれ、残されていたカード、そして金沢でも同じカードが残されていたのです。
二つの事件、そして西崎彩との関わりはあるのか、ないのか、またどこで繋がっているのでしょうか。
いつもながらの二人の息の合った行動で、事件の真相を炙りだしていきます。
繊細な描写が楽しめる作品です。
8、『AIには殺せない 東京~出雲殺人ライン』
壮&美緒シリーズであり、寝台特急サンライズ出雲の車中で代議士の妻が絞殺され、さらに数日後、その友人がお台場のホテルで刺殺される事件に挑む話です。
ここがポイント
時刻表を使用した殺人計画にも趣向を凝らしていて、特に絞殺方法についてはトリッキーであり驚きを隠せません。
また、殺された二人に面識のある若い男の影も捜査線上に浮上してきて、捜査をかく乱してしまいます。
息の合ったコンビがアリバイトリックに挑む少しアナログチックな作品です。
まとめ
深谷忠記氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。