歴史の空気感を伝えてくれる、安部龍太郎氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
福岡県八女市生まれで、工業高等専門学校卒業後、作家を志して上京。
東京都大田区役所に就職し、後に図書館司書を勤め、その間に数々の新人文学賞に応募を重ね、「師直の恋」という作品で作家デビューを果たします。
1987年にそれまでの仕事を辞めて、執筆活動に専念し、週刊新潮に連載した「日本史 血の年表」という作品で注目を集めます。
安部龍太郎おすすめ8選をご紹介~日本古来の世界観の復元と復活~
2004年に「天馬、翔ける」という作品で第11回中山義秀文学賞を受賞し、2013年には「等伯」で第148回の直木賞を受賞します。
安部氏は小説家として長年取り組む最大の課題が日本古来の世界観の復元と復活なのだそうです。
また、小学館の「サライ」で続く連載では、地元の人だけが知る美味しいものを紹介しています。
そんな安部龍太郎氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『風の如く 水の如く』
関ヶ原の戦い前後の徳川家康と黒田如水との虚々実々の駆け引きを様々な親子関係を絡めて描いた話です。
黒田官兵衛(如水)が中心かと思いきや、その息子の長政や本田正信の息子の正純の主観で描かれています。
関ヶ原の戦い自体を徳川家康、石田光成、黒田如水の三つ巴として捉えていて、戦い後の論功行賞までに如水の創った包囲網の真相を正純が暴いていくのです。
ここがポイント
詰問相手の武将の回想の中で、関ヶ原の戦い前後の謀略の模様を描きだしています。
丹念に史実を追いながら、安部氏独自の仮設を堪能できる素晴らしい作品です。
『下天を謀る 上・下』
城作りの名手として名高い藤堂高虎が、戦国の乱世を生き抜く姿を描いた話です。
何度も主君を変えた変節者と言われていますが、仕えるに値しない主君は見限られてしまうのです。
そして秀長に拾われて豊臣側にいた高虎が、関ヶ原の戦いあたりから、徳川家康の配下に加わっていくのです。
関ヶ原の戦い、大坂冬、夏の陣で活躍し、徳川250年体制の礎を築いた影の功労者と言っても過言ではありません。
ここがポイント
時代を見る目、人を見る目、そして志が高く貴くあることが、時代を生き抜くために必用だったのです。
藤堂高虎の違った側面が分かる作品です。
『レオン氏郷』
織田信長の娘婿であり、千利休の七哲の一人でもある蒲生氏郷の生涯を描いた話です。
ここがポイント
その人柄は快活明朗であり、颯爽とした武者ぶりのイメージに違わぬ人物として描かれています。
戦の数々の手柄と明晰な情報力を駆使して信長の連枝衆にまで上り詰めるのですが、その純粋さ故に信長の所業と戦国の世の残虐性に疑問を持ち、高山右近の影響もあって洗礼を受けるのです。
信長が死した後、秀吉に仕えるも松坂12万石に転地させられ、秀吉に疎まれ会津へ行き、伊達正宗に毒を盛られて40歳で死んでしまうのです。
様々な捉え方がある、奥深い作品です。
※利休七哲:茶人、千利休の弟子七人を指す名称
※連枝衆:信長の親族のみで構成されているグループ
『等伯』
武家から絵仏師へと養子に出された長谷川信春(等伯)が天下一の絵師を目指す話です。
常に己の信念に忠実に生きてきた等伯が、戦国の激流に翻弄され続けて不遇な時を過ごすも、その都度自身の描いた絵に窮地を救われるのです。
ここがポイント
圧倒的勢力を誇っていた狩野派に対しても、果敢に立ち向かっていった等伯の気迫が伝わってきます。
また、様々な困難に直面しながらもそれらを跳ね返し、受け止め、甘受し、時には屈しても全てを作品作りの糧としていったのです。
歴史の厳しい空気が伝ってくる作品です。
『冬を待つ城』
僅か3千5百の城兵で、豊臣軍15万を相手に籠城に挑んだ九戸政美の話です。
陸奥、九戸城主の九戸政美が関白秀吉に従わなくてはいけない南部信直への正月参賀を拒否したことで、九戸城は信長の奥州仕置きの標的となってしまうのです。
政美の末弟である久慈四郎正則は昔から繰り返された中央政権による、奥州への理不尽な侵攻と搾取を阻止しようとする政美の真意に賛同し、遅い初陣に臨む決意をするのです。
秀吉の真意は果たして何なのか。
ここがポイント
色々盛りだくさんでありながら、怒涛の展開で迫ってくる作品です。
『平城京』
平城京遷都に向けた一大プロジェクトを描いた話です。
都を追放された阿部船人という人物が遷都事業の中心人物に任命されて、土地を守らんとする者に心を尽くし、遷都を阻まんと暗躍する敵と戦うのです。
壬申の乱から続く朝廷内の派閥争いや、朝鮮や唐との関係も克明に描かれています。
ここがポイント
確かな知識を背景に据えて、小難しい説明は最小限にして、生き生きと動き出す歴史のエンターテインメントです。
かって確かに生きていた人々の息吹を感じる喜びと、過去の時代の歴史の面白さに触れられる作品です。
『宗麟の海』
理想の王国を作ろうと夢に向かって駆け抜けた大友宗麟を描いた話です。
ここがポイント
宗麟はキリスト教に傾倒しつつも、家臣の統制や戦略による覇権を優先する優れた領主として描かれています。
信仰と現実の間で苦悩はしますが、理想的で現実味を帯びた対応を行う中で、宗麟なりの解決を図っていくのです。
ライバルはあくまでも毛井元就であり、その九州侵攻を防ぐ為、知力を尽くす聡明な宗麟像は新鮮に映りました。
中世の豊後の世界がリアルに味わえる作品です。
『婆娑羅太平記 道誉と正成』
婆娑羅、佐々木道誉と悪党、楠正成がこの国の為に仲間として共に戦い、そして敵として戦う話です。
戦国時代に比べ、この鎌倉から室町の時代は、裏切りや寝返りは日常茶飯事であり、忠義というものが希薄な時代だったようです。
佐々木道誉も実はその時々で、寝返りを繰り返していて、それでも不快感を覚えないのは、楠正成との友情が清々しかったからだと思われます。
日本人の天皇に対していだく思いが、その当時の日本の社会を動かしていく事実に驚いてしまいます。
ここがポイント
自由に空想を飛躍させているオリジナリティたっぷりの作品です。
まとめ
安部龍太郎氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
安部氏独特の歴史観による捉え方にハマってしまうかもしれません。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。