読者の心を揺さぶる、一穂ミチ氏のおすすめの作品9選をご紹介させていただきます。
関西大学卒業後、同人誌で二次創作の小説を書く中で、編集者から声がかかり、2007年「雪よ林檎の香りのごとく」という作品で、作家デビューを果します。
ボーイズラブ小説を中心に活動を続け、2021年に初の一般文芸単行本である「スモールワールズ」を講談社より刊行します。
同作で、第43回吉川英治文学新人賞、第9回静岡書店大賞を受賞したほか、第165回直木賞候補、山田風太郎賞候補にも、選ばれています。
一穂ミチおすすめ作品9選をご紹介~主張や信念を伝える~
一穂氏はボーイズラブの分野で、数多くの書籍を著し、人気を集めてきたのですが、近年は一般の文芸作品でも、注目され、ジャンルを越えた活躍を見せています。
繊細な言葉選びで、人間関係を巧みに描く確かな筆力と、構成力が素晴らしく、近年は各文学賞の候補にも立て続けに選ばれる等、将来性の高い注目の作家であり、今後、さらなる飛躍が期待されています。
そんな一穂ミチ氏のおすすめの作品9選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『イエスかノーか半分か』
王子と称される完璧な外面と、内面では、強烈すぎる悪態をつくアナウンサーの計と、大らかで世話好きのアニメーション作家の潮の話です。
二面性のある計が、表の顔を知られずに、潮に裏の顔を知られてしまってからの不思議な関係が、徐々に計の心境に変化をもたらしていきます。
ここがポイント
そのことと同時に、普段表でやっている仕事と噛み合う瞬間の描写が、かなりカルタシス効果が、得られたように思います。
別に表の顔を作るのが、嫌なのではなくて、裏の自分がないものになるのが、嫌なんだという感覚だったのです。
ストーリーのテンポ感も良く、BL抜きにしても、登場人物のキャラが、反映される言動の細かな描写や仕事についての情報量の多さに、驚かされる作品です。
2、『雪よ林檎の香のごとく』
高校1年生の志緒が、早朝の図書室で遭遇したのは、担任である桂の泣き顔であり、いつも飄々とした教師と感じていたのに、それから桂がみせる様々な顔に翻弄され、恋に落ちていく話です。
言葉選びとか、比喩とか、文章表現とにかく上手く、臨場感タップリに楽しめます。
中学受験も高校受験も失敗し、父の母校に進学する約束を果たせなかった志緒と、苦い過去を抱えたまま、人を拒絶して大人になってしまった担任の桂。
ここがポイント
教師と生徒という許されない関係の中、桂の過去の過ちごと受け入れる志緒の包容力に圧倒されてしまいます。
満を持しての絡みの、締め付けられるような幸福感が漂ってくる凄まじい作品です。
3、『スモールワールズ』
儘ならない現実を抱えて、生きる人たちを綴った6編からなる連作短編集です。
本当に同じ作者が書いたのかと思える程、作風にバリエーションがあり、面白く楽しめます。
それぞれの話がうっすらと繋がっているのも、より想像が膨らんで、次の物語への興味がいっそう大きくなります。
ここがポイント
どれも生きることの辛さや、上手くいかない人生へのもどかしさがあって、心がキュッと締め付けられてしまいます。
難しいことは百も承知ですが、誰かの悲しみに寄り添えるような人間になりたいと、強く思わされてしまいます。
どこかにホッとする部分もあり、また、人間の恐ろしさに怖れを感じながらも、何故か共感してしまう作品です。
4、『パラソルでパラシュート』
雇用契約が切られる30歳直前の崖っぷち受付嬢の美雨は、ひょんなことから売れない漫才コンビの一人、亨と知り合い、芸人たちが暮らすシェアハウスに転がり込むという話です。
ここがポイント
登場人物たちのハッキリしない性格や、意味不明の言動が、実に魅力的に描かれていて、少しずつ本音が見えてくる過程が、見事なのです。
コントや漫才のシーンの掛け合いが、驚くほど物悲しく、しかも笑えるので、彼らの本音がやがて露わになるのが、おそろしい位に感じてしまいます。
男性芸人二人の大阪漫才的な会話体が、だんだんと照れ隠しに見えてくるところにも、絶妙な味が仕込まれた作品です。
5、『光のとこにいてね』
性格も家庭環境も違う二人の女性が、小学二年で出会ってから、高校生の一時期と、大人の一時期までを描いた話です。
幼い頃の記憶や友人関係は、人生のいつ頃まで、大切にされるものなのでしょうか。
小学生の頃に出逢った果遠(かのん)と結珠(ゆず)は、お互いに強烈な個性を持つ母親との葛藤を抱えつつも、逃げられない自分に苦しんでいたのです。
経済的にも環境も違いながらも、自分の育ちや感覚の中に、無いものにお互いが惹かれ合っていったのです。
7歳、高校生、大人になってからと3度の再会を重ね、その根本には果遠の自分の気持に真直ぐな行動力に心が温まる感覚があったのです。
ここがポイント
規律や規定に沿うことが、本当に自分の人生で、成し遂げたいことなのか、数奇な別れと出会いの物語から、人生で何を大切にするかを問われているような作品です。
6、『砂嵐に星屑』
大阪にあるTV局を舞台に、そこで働く人たちの悲哀が描かれている4編からなる連作短編集です。
マスコミはとかく悪く言われがちですが、その中でもしっかりと向き合っている人達はいて、誰か一人がダメだからと言って、その世界を全部悪く言うのは、違うのではと思います。
其々に個人の世界があり、ドラマがあり、結局個人の問題であったり、公私が混同しすぎたりすると、火種になるのですが、それは一部のことなのです。
ここがポイント
叩かれやすい業種ほど、慣習が重く変化しづらい場所であり、簡単に波に飲み込まれてしまうのです。
そんな中での絡み合いながらの短編は、とても面白く、個性の時代はこういったストーリーも生み出していくのだと思ってしまいます。
人間の心の機微が、感じ取れる作品です。
7、『うたかたモザイク』
モザイクように違う色を寄せ集めて作ったような、13編からなる短編集です。
同じ人物が書いているとは思えないくらいに、バラエティー豊かであり、かなり楽しむことができます。
13の物語は、恋愛ものやサスペンス、BL、妖怪が出てきたり、百合、人間以外のものが、心を持つ物語まで、ハッピーエンドもバッドエンドもあります。
すべて違うテイストなのに、どの物語にも共通して言えるのは、ハートフルであるということ、うまく名付けられない心情を絶妙な言葉で、表現してくれるところに唸らされてしまいます。
ここがポイント
人の想いというものは、儚く消えやすいのものですが、味わい深くて面白いのです。
様々な形をしたうたかたな物語が、ギュッと凝縮されているような作品です。
8、『青を抱く』
海難事故に遭い、眠り続ける弟の靖野を看病する泉が、長期休暇で、泉の地元にやって来た弟そっくりな宗清と出会う話です。
いつ目覚めるかも不安な日常になった泉のもとに、弟に似た宗清が現れ、海辺の街、家族の葛藤、眠り続ける靖野、周囲の視線など、そんな日常に突然入り込んだ宗清の存在。
最初はグイグイとくる宗清に、苦手意識を隠せなかったのですが、次第に彼に対して居心地の良さを感じるようになり、惹かれていくのです。
ここがポイント
宗清が泉の頑なになった心を丁寧に解していくところが、見所であり、まるで映画を観ているような描写に、うっとりしてしまいます。
前半は泉の心の戸惑いに不安がちになりますが、後半から明かされる展開に、一気に引き込まれてしまいます。
情景や心情描写が素晴らしい作品です。
9、『ツミデミック』
渦中の人間の有様を描き取った、全6話からなる心震える短編集です。
6話とも、内容がとてもディープであり、その世界観に引きずり込まれてしまいそうで、どれも読みごたえがあり、充実感で満たされます。
コロナ禍を背景に、それでも止まらない犯罪の数々を描き出していて、そこにはまさしく「ツミデミック」な物語が描かれているのです。
コロナ禍の始まりから終わりまでをこの一冊に描いていて、そんな中にメジャーどころの犯罪が重なっていくのも伺えます。
心の奥底にある、人の温かな感情や、切ない想いを感じ取れる作品です。
まとめ
一穂ミチ氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみてください。
読書の楽しさが味わえますよ。