登場人物の目線を明確に意識する、額賀澪氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきます。
日本大学芸術学部文芸学科を卒業後、広告代理店に勤務し、会社員として働く傍ら、2015年に「ウインドノーツ」という作品で、第22回松本清張賞、「ヒトリコ」で、第16回小学館文庫小説賞を受賞しています。
2作の受賞作は、2015年6月26日に同時発売されています。
額賀澪おすすめ作品7選をご紹介~現実世界の地続き感を描く~
額賀氏が、初めて小説を書いたのは、10歳のころの小学生時代だったそうです。
高校時代には、第22回全国高等学校文芸コンクールの小説部門で優優秀賞を受賞しています。
小説を書く上でのこだわりの一つとして、人物を描く際は、キャラクターになりすぎないことを意識していて、自分の中で、人間とキャラクターの境目に引いているラインがあるそうです。
そうしないと、自分が大切にしている世界観に影響が出てしまうからだそうです。
そんな額賀澪氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『屋上のウインドノーツ』
茨城の県立高校の吹奏楽部を舞台にした、青春小説です。
中学まで自分の居場所が持てなくて、鬱々としていた給前志音と、中学時代のいさかいを切っ掛けに臆病になっていた吹奏楽部部長の日向寺大志が高校で出会い、吹奏楽の大会を目指すことで、それまでの自分を変えていくという展開で、物語りは進んでいきます。
信頼してくれる人と、繋がったという二人の想いが、大志と志音それぞれの視点から描かれていて、目標にした東日本大会出場という目標には届かなかったけれど、それを受け入れて次に進む強さを持った二人の成長が清々しく輝いています。
ここがポイント
二人の出会いがもたらしたものは、自分たちだけでなく、周囲おも変えていったのです。
爽やかな読後感に浸れる作品です。
2、『風に恋う』
吹奏楽の全日本コンクール出場を目指す高校生たちの話です。
吹奏楽に全力になっていく高校生たちだけでなく、家族の目線、そして何よりも同じ道を少し前に通ってきたOBの目線からも描かれています。
これらの視点による違いは、当人たちも分かっていて、だからこそどのように部活動と向き合えばいいのか、悩みを抱いてしまうところがとてもリアルです。
後悔しないつもりで、全力で打ち込んだつもりでも、時が経つと後悔に漂着してしまうことだってあるのです。
ここがポイント
そんな想いを肯定してくれるのは、世代に関係なく、同じ熱意を持った人の存在なのです。
だからこそ、今に対して全力を注ぐことは、将来の糧になるのです。
素晴らしい青春小説です。
3、『沖晴くんの涙を殺して』
津波で家族を失った沖晴は、生きるために死神と取引をして、命と引き換えに喜び以外の悲しみ、怒り、嫌悪、恐怖を失う話です。
沖晴は喜びしか感情がないため、クラスのものから、避けられるようになっていたのです。
そんな時、小さな町に住む音楽教師の京香と出会い、失われた感情を二人でゆっくり取り戻していこうとするのですが、京香は余命一年の癌を患っていたのです。
人には怒りや悲しみという感情があるからこそ、この世界を生きているという実感がわいてくるのです。
ここがポイント
さまざまな苦しみがある世の中で、「喜び」を感じる時に、この世界でまだ生きていきたいと思えるのです。
人間の複雑な、筆舌に尽くし難い感情を見事に描いている作品です。
4、『世界の美しさを思い知れ』
人気俳優であった双子の弟の自殺により、残された兄が、弟を想いながら、美しい各地を旅しながら、弟の死を受け入れ昇華させていく話です。
残された兄は、弟の自死に至る事情、苦しみに気付いてやれなかったとの自責の念に駆られ、弟の携帯に記録されていた写真などに基づき、弟が生前に足を運んでいた礼文島、マルタ島、台中、ロンドン、ニューヨークに足を運ぶのです。
同一受精卵から生まれた双子であるならば、100パーセント同一遺伝子を持つからと言って、弟が目にし、感じたことを兄が感得できるわけでもないのですが、そうでもしないと事実を受け止めることが出来なかったのかもしれません。
ここがポイント
自殺を考えている人間が、果たして旅行の予約を何故したのだろうか、たくさんの謎を究明しようとする兄の愛情と世界の美しさを思う存分思い知ることができる作品です。
5、『転職の魔王様』
新卒入社の大手広告代理店で、パワハラに遭い、三年とたたずに退職してしまった末谷千晴は、叔母が経営する人材紹介会社で、見習いキャリアアドバイザーとして、働きながら自分を見つめ直す話です。
千晴は「魔王様」こと来栖の下で、見習いCAとして、様々な求職者の転職支援をしながら自身の進路を模索していくのです。
人生は選択の連続ですが、正解が提示されていることは、なく、選ぶのは常に自分なのです。
CAは人生の転機にある求職者の意思決定を支援する伴走者であり、会社の利益なんて貴方の人生の前では、どうだっていいのです。
全ての求職者にその人自身が、全力で考え抜いた最善の選択をして欲しいと言ってのけるCA来栖は、信頼できる人なのです。
ここがポイント
自分の心に従い、自分で決断することの大切さがわかる作品です。
6、『モノクロの夏に帰る』
戦争の傷跡を撮影したモノクロ写真をAI技術により、カラー化した写真集を基軸に戦争の記憶を伝承する意味を問うた4編からなる短編集です。
戦争中のモノクロ写真をカラーに蘇らせ、そんなプロジェクトを軸に、保険室登校の中学生、アメリカから来た少年、ワーカホリックのテレビマン、福島で生まれ育った高校生が、それぞれ見たことのない戦争に思いを馳せるのです。
過去の戦争を知らない、現実に起こっている戦争に何も出来ない彼らが、複雑な思いを吐露しているのです。
ここがポイント
現代に生きる者たちが、戦争を知る、語るということの難しさが随所に感じられる作品です。
7、『青春をクビになって』
古事記を研究する無給のポスト・ドクター瀬川が、先輩ポスト・ドクターの失踪を通して、その実態と悲哀を知る話です。
古事記の研究をするポスドクの瀬川36歳は、来期の講師の契約継続ができなくなり、失業が濃厚になってしまい、好きで研究しているだけでは、食べていけなくなってしまうのです。
そんな時、10歳上の先輩が、貴重な資料をもったまま、失踪してしまうのです。
自分の10年後の姿を見るような姿に悩む瀬川は、友人の会社で、レンタルフレンドのアルバイトを始めるのです。
ここがポイント
現在の日本は学問や文化、芸術に力を入れず、金にならない事には、金を使わず、食べていけない優秀な研究者は、海外へ流れていってしまうのです。
切なくも苦しい、現実を見せられているような作品です。
※ポスト・ドクター:博士課程を修了した研究者のこと。
まとめ
額賀澪氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。