法律の面白さを伝える、五十嵐律人氏のおすすめの作品6選をご紹介させていただきます。
法科大学院終了後に司法試験に合格するのですが、法曹とはならずに、裁判所事務官や裁判所書記官として勤務しています。
しかし、そこで出会った法律上のトラブルに遭遇した人に、寄り添いたいと思い、弁護士へ転身します。
五十嵐律人おすすめ6選をご紹介~驚きの仕掛と緻密な語り~
大学生の頃からの小説の執筆は継続していて、2020年に「法廷遊戯」という作品が、第62回のメフィスト賞を受賞し、作家デビューを果します。
法律を主軸に置くと、社会派感が、どうしても強くなるとのことですが、書きたいのはエンタメ小説だそうです。
小説の前半に魅力的な謎や設定を置いて、とにかく読者に最後まで読んでもらうことを心掛けているとのことです。
そんな五十嵐律人氏のおすすめの作品7選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『法廷遊戯』
ロースクールを舞台に繰り広げられる、無辜(むこ)ゲームと呼ばれる、疑似裁判の話です。
ここがポイント
実際の裁判を模してはいるのですが、決定的に異なるのは、同害報復を前提としている事です。
そんな中、主人公の過去を知る何者かによって嫌がらせが、相次いでいき、時を経て久しぶりに開催された無辜ゲームで事件が起きてしまうのです。
その後の実際の法廷でのやり取りは、まさに遊戯というに相応しい内容であり、問われるのは正義の基準なのかが分かる作品です。
※無辜:罪のないこと、或いは罪のない人の事。
※同害報復:「目には目を、歯には歯を」という語で表されるような、同一の加害によって報復を行う刑罰のこと。
2、『不可逆少年』
若き家庭裁判所調査官である、瀬良真昼と被害者家族である、雨田茉莉の二人の視点から、ある凄惨な少年犯罪のその後と、隠された真実を描いた話です。
家裁調査官の瀬良は赴任先の主任調査官から、教育的手段による更生が不可能である「不可逆少年」の存在を示唆されます。
ここがポイント
そして13歳の少女による凄惨な殺人事件の詳細を聞くうちに、彼がもっていた理念がぐらついてしまうのです。
そんな折、少女の被害者の息子が、ある事件の犯人として、自首してくるのですが、瀬良が彼の担当となるのです。
この流れと、同級生である被害者の娘視点からの殺人事件後の過酷な環境や、加害者の姉も加わった特殊な友情風景、さらには全ての事件の真相が過不足なくきちんと収まって、少年法の限界の問題定義もされていくのです。
絶望は簡単に手に入るが、希望を掴むのは難しいと思えた作品です。
※不可逆:ある状態に変化した事物が、再びもとの状態にもどることが出来ないこと。
3、『原因において自由な物語』
顔面偏差値を客観的に測れるアプリ(故意恋)は、理想的なカップルを生み出す一方で、即イジメに結びつくのも必然であり、そんな流行りのアプリによる高校でのイジメのプロットを恋人である弁護士の遊佐想護から貰って、小説を書き続ける二階堂紡季の心情が絡み合う話です。
その小説の結末の前に、想護は小説の舞台となった廃病院から転落してしまうのです。
ここがポイント
フィクションだと思われたプロットは、1年前に起きた高校生転落事件、そのものだったのです。
スクールロイヤーだった想護は、イジメにあっていた高校生を救おうとしていたのです。
フィクションですが、かなりリアリティ感に富んだ作品です。
※スクールロイヤー:学校で発生する様々な問題について、子どもの利益を念頭に置き、法律の見地から学校に助言する弁護士。
4、『六法推理』
霞山大学の片隅に「無料法律相談所」通称、無法律を一人で運営する法学部四年の古城行成と、経済学部三年の戸賀夏倫が助手役となり、法律の知識と推理で事件を解決していく5編からなる連作短編集です。
法律面からアプローチする古城と、心理面から突き崩す戸賀のコンビが噛み合っていないようで、噛み合ってくるのがイイ感じで伝わってきます。
ここがポイント
学生からの法律相談ですが、放火とかリベンジポルノとか、毒親との縁切りなど、結構重い内容であり、法律の限界も見せつけられるし、闇に葬られるラストもあります。
法律について、いろいろ考えさせられる作品です。
5、『幻告』
裁判所書記官の宇久井傑が、タイムリープを繰り返して、5年前に義理の娘への性犯罪で有罪となった、父親の冤罪を晴らしていく話です。
裁判所書記官の傑は、母親に育てられ、父の記憶はなかったのですが、ある事件をきっかけに、有罪判決を受ける父を知ることになるのです。
ここがポイント
そしてある日、過去にタイムリープした傑は、そこで父が冤罪の可能性があることに気付き、タイムリープを繰り返して事件を追うことになるのですが、過去の行動が現在に影響を及ぼしてしまうのです。
単なる謎解きだけではなく、時間軸が複数存在するギミックが特殊であり、先の読めなさ加減が大きく、ハラハラドキドキ感満載の作品です。
6、『魔女の原罪』
新旧住民が憎み合う街にある高校は、校則はないのですが、法に触れると罰せられてしまうのです。
異様な空気に戸惑いながら、普通に生きているつもりだった少年が、同級生の不審死を切っ掛けに、隠されていた真実を知ってしまい、それに関わるドラマが強烈な迫力で展開していく話です。
周囲から白眼視され、苦しむ犯罪加害者の家族が、身を守ろと自分たちだけの居場所を作るのは理解できるのですが、加害者の血を引くものが、犯罪に走らないかとの不安に怯え、血の恐怖に囚われていた人が、精神のバランスを崩しただけで、爆発してしまったのです。
犯罪者の子どもは、犯罪を犯す遺伝子を引き継いでいるのだろうか、そんなことはないと思っていても、加害者の家族が社会で生きていくのは困難が伴うのです。
ここがポイント
本作は前半と後半で話がガラッと変わり、二極の話が楽しめる作品です。
まとめ
現役弁護士である、五十嵐律人氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
奥深い法律のことが、少し分かるかもしれません。