不思議な読後感に浸れる、朱川湊人氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
高校時代に放送局の公募文芸賞に応募し、佳作に入選し作家を志し、大学に入学してからも、各文学賞に応募するも芽が出ず、大学卒業後は出版社に就職します。
しかし、作家になる夢をどうしても諦めきれず、出版社を退社し、執筆活動に専念するも、やはり芽が出ませんでした。
そして一念発起して今までの作風を変え、ホラー路線に切り替え、2002年「フクロウ男」という作品でオール讀物推理小説新人賞を受賞し念願の作家デビューを果します。
朱川湊人おすすめ作品8選をご紹介~人情の世界を色濃く描く~
小学生の頃から推理小説が好きで、中学生になると太宰治にはまり、太宰をまねた作品を書き始めたそうです。
2005年に「花まんま」で第133回の直木賞を受賞、2006年には特撮、アニメ好きがキッカケで、「ウルトラマンメビウス」の脚本や小説版の「ウルトラマンメビウスアンデレスホリゾント」の執筆も担当しています。
また、朱川氏にとって、どうしても忘れられない本は、子供のころに読んだ、岩崎ちひろ氏の絵本「戦火のなかの子どもたち」だそうです。
そんな朱川湊人氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『都市伝説セピア』
怖ろしくも切なくそして悲しく、ノスタルジックな雰囲気が漂う5編からなる短編集です。
ここがポイント
全ての話に漂うノスタルジックな雰囲気が、そこはかとない寂しさや悲しさを感じてしまいます。
非日常が日常の中に自然に溶け込んだ不思議さに、惑わされてしまい、独自の世界に引き込まれてしまいます。
5話、すべてが秀逸であり、人間の悲哀や優しさがうまく盛り込まれていて、暗い闇にロウソクの炎が揺らぐような雰囲気を醸しだしています。
奇妙な物語の中にも温かさを感じさせる作品です。
『白い部屋で月の歌を』
ホラー小説大賞の短編賞を受賞した表題作と中編の「鉄柱」の2編が収録されています。
表題作は地縛霊を祓う霊能者の依代となった子供のような真っ白な心を持った私のことを描いていて、「鉄柱」は田舎町に転勤した夫婦が出会った稀な風習の話を描いています。
2話ともどこか幻想的な薄もやの中にいるような心持で、生と死、魂の座といった主題に緩やかに連れていかれるような感覚になってしまいます。
ここがポイント
命の尊厳と幸福が根源のテーマにあり、なかなか心に重く圧し掛かってくる作品です。
『花まんま』
大阪を舞台に、子供時代の少し不思議な回想を綴った6編からなる短編集です。
ちょっと不思議な話やホロリと切なくなる話もあり、多彩な内容だけれど、どれも元気な子供たちが出てきます。
自分の子どもの頃を振り返って語る形式を取っていて、ほとんどの話の中に訪れる死の恐怖、そして何とも言えない怖さが味わえます。
ここがポイント
感動の裏側にぞくりとする怖さが、セピア色に彩られた記憶と共に蘇ってくる作品です。
『かたみ歌』
アカシア商店街に起きる不思議なことを綴った7編からなる連作短編集です。
ここがポイント
7話全てが、この世とあの世が微妙に絡み合いながら、展開していきます。
幽霊奇譚ですが、不思議な世界を受け入れる、人々のゆったりとした時の流れと繊細な優しさに、気持ちが優しくなってしまいます。
この商店街には、いつの時代にも通じるような、人間の営みの喜びと悲しみが、詰まっていて、不思議と心が洗われる感覚に陥ってしまいます。
儚さと優しさが味わえる作品です。
『わくらば日記』
昭和30年代が舞台となっていて、過去が見られる姉の鈴音と妹の和歌子が殺人事件や問題を解決していく5編からなる連作短編集です。
姉、鈴音の過去が見えてしまう能力で、事件の真相が分ってしまうのですが、命を削っているようで何とも、もの悲しく感じてしまいます。
ここがポイント
犯した罪の一つひとつの中には、いろいろな事情が込められていて、切なくなる話が多いですが、全体に流れる穏やかさや綺麗な言葉遣いや品の良さで和らいでしまいます。
レトロな空気感が漂う温かな作品です。
『赤々煉恋』
人間の暗い部分を垣間見るような、奇妙な怖さがある5編からなる短編集です。
自分の意志なのか、他人に知らずと影響されたのか、いつの間にか変化する日常が描かれています。
ここがポイント
禍々しいものだったり、狂気を感じるものであったり、一歩踏み込むか、留まるかの選択で大きな違いが生まれます。
やるせなさも残りますが、見てはいけないものを見てしまったような気持ちにさせる作品です。
『いっぺんさん』
じんわりと心に沁みる、恐怖と感動を描いた8編からなる短編集です。
優しくて切ない話、どこまで行っても救いのない話、ゾクッとする話等ありますが、どの話も情景描写がリアルで伝わりやすく、時代の描写だけではなく、物の質感もよく伝わってきます。
ここがポイント
そしてどの話も昭和の匂いがして、とても懐かしい雰囲気が漂い、ノスタルジックな気持ちにさせてくれます。
不思議な読後感に浸れる作品です。
『本日、サービスデー』
日常生活の中で不思議な体験をする5編からなる短編集です。
やはり表題作が面白く、しがないサラリーマンが出会った天使と悪魔、そして一生に一度だけ、何でも願いが叶うサービスデーが訪れる話。
その他の話もシンプルながら、心温まるものから、嫌な後味がのこるもの、不思議なものとバラエティに富んでいます。
ここがポイント
どの話も結局、情けは人の為ならず的な教訓を含んだ、思いやりの大切さや、挫けない心の大切さを感じる作品です。
まとめ
朱川湊人氏の作品は楽しんでいただけましたでしょうか。
スキマ時間に読むには最適な短編集ばかりです。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。