人間の再生力を信じて書き続けている、伊集院静氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、広告代理店の電通を経て、コンサートツアーの演出など、ディレクターとして活躍します。
電通時代に、最初の婦人と結婚をし、二児を授かりますが、1980年に離婚しています。
その後、1981年に「皐月」という作品で、作家デビューを果します。
伊集院静おすすめ11選をご紹介~すべてにおいて覚悟と自覚を持つ~
1984年には、女優の夏目雅子氏と7年の不倫交際の後、再婚をしますが、翌年、夏目氏は白血病にて、27歳という若さで死去しています。
伊集院氏はまた、伊達歩(だて あゆみ)という名でも作詞家としても活躍し、近藤真彦氏に提供した「愚か者」で1987年には第29回の日本レコード大賞を受賞しています。
そして1992年に「受け月」という作品で、第107回の直木賞を受賞しています。
伊集院氏の作品は、映像化されたものも多くあり、特に現在の男女の世界を描いたものに定評があります。
そんな伊集院静氏のおすすめの作品11選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『乳房』
独特の情感漂う世界が味わえる、5編からなる短編集です。
病の妻との病室での日々、亡くなった弟への想い、娘との再会など、心に残るシーンが描かれています。
人は皆、過去に消すことのできない悲しみや、過ちを抱えていることがあるのです。
その出来事に自ら向き合うことは、とても辛いことなのです。
ここがポイント
人生の生き死にの、無常さを学んだような気持ちにもなり、また夫婦というか、男と女の間に通い合う思いやりの深さに、温かさを感じることもできます。
ほろ苦く、それでいて、ふわっとしたような、何とも言えない気持ちにしてくれる作品です。
2、『海峡』
海峡三部作の第一弾であり、終戦後の瀬戸内で、海運業から一家をなした家に生まれた、英雄少年の小学生時代を綴った話です。
戦後の埃と汗と怒声に満ちた瀬戸内の小さな町で、荒くれ男たちを束ねる高木家の長男として育つ、主人公の英雄と彼にかかわる人々の様子が、手に取るように分かります。
ここがポイント
理不尽、粗暴、猥雑の中にも人としての矜持と、誠実さ、それにも増して、英雄は強さを手にしていくのです。
多感な頃に様々な哀しみと向き合う、英雄少年に、確かな生きる意志や、創造力を培って生きていくであろうと期待と羨望を抱いてしまいます。
物質的に恵まれている現代では、謂れのない悲哀を経験することも、当時と比較すると極端に少ないですが、それを疑似体験させてくれる作品に間違いありません。
3、『受け月』
何らかの形で野球に関わり続け、野球に夢中になった人々を描いた、味わい深い7編からなる短編集です。
野球との距離感はそれぞれ違うのですが、心に秘めた熱い想いは皆、同じなのです。
ここがポイント
野球をメインテーマとしながらも、その事だけでなく、人間の微妙な心の揺らぎなども、絶妙に描かれていて、生き生きとしたものが、伝わってきます。
全編に漂うそこはかとない喪失感も、優しくて哀しくて、読み手の心をとらえてしまう作品です。
伊集院氏の直木賞受賞作品です。
4、『機関車先生』
瀬戸内の葉名島にある、児童僅か7人の小学校に、病気が原因で、口がきけなくなった大きな身体の先生がやってくる話です。
この先生は話せないこともあり、ものぐさな先生そして、口をきかん先生となり、機関車先生と呼ばれるようになるのです。
ここがポイント
島の人々の心配をよそに、子どもたちは機関車先生から、深くて大きい、人間にとって大切なことを学んでいくのです。
機関車先生は子どもたちを真直ぐに見つめ、言葉でなく心で接していき、本当の強さや生きることを大きな身体で包み込むように語りかけていくのです。
温かい読後感に浸れる作品です。
5、『春雷』
海峡三部作の第二弾であり、英雄が中学生になり、大人に近づくも難しい年ごろであり、理不尽な教師の苛烈な体罰とか差別とか、いろんなことを経験する話です。
友情を重んじて、真直ぐに生きようとする英雄、しかしそれを許さない社会の現実、差別と別離、そして「跡取り」であることを強いるイエという重圧が圧し掛かってくるのです。
ここがポイント
成長と共に生まれる葛藤が嵐のように描かれていて、英雄の真直ぐで一途で、思春期ならではの不器用さは焦燥感さえ感じさせてくれます。
これからの英雄の生き方が、楽しみに思える作品です。
6、『ぼくのボールが君に届けば』
全ての話に野球と、人の切なさと哀しさ、そして失った者への哀切が込められている9編からなる短編集です。
キャッチボールは、相手がいるからこそ、できるものであり、そのボールにはいろいろなものが詰まっているのです。
それは、まごころであったり、想いであったり、夢であったりと。
ここがポイント
自分が投げたボールが相手に届いたとき、生じるさざ波のような出来事が、誰かと一緒に生きてきた証になるのです。
伊集院氏の野球に対する浪漫と、愛情が伝わってくる作品です。
7、『駅までの道をおしえて』
いつまでも余韻に浸れるような、心地良いラストを見せてくれる8編からなる短編集です。
とても優しくて、丁寧な描写で、景色だけでなく、温度や風、そして匂いまで感じ取ることができそうになります。
ここがポイント
ひとの思いは目に見えないものであり、喜びでキラキラ輝いているのか、悲しみでどんよりと曇っているのか、心の中はなかなか窺い知れず、分からないものなのです。
しかし、その人が語るのをじっと待つことで、見えなかったものが、見えてくる事だってあるのです。
誰かをそして、何かを想い続ける人たちの姿は、とても眩しくて印象に残るものなのです。
心に余韻が残る作品です。
8、『大人の流儀』
好き勝手に生きているように見えますが、人生の酸いも甘いも経験した伊集院氏が、大人の流儀について語る話です。
酒や賭け事、野球を通じての交流関係など、付き合いの幅も広く、それでいて、自分をしっかりと持ち、その発言には独特の魅力と説得力を感じてしまいます。
ここがポイント
世の中の理不尽を当たり前と飲み込み、且つ無頼に生きてきた伊集院氏だからこそ、こんな生き方ができ、人生を前向きに進めることが、出来たのではないでしょうか。
二番目の妻の夏目雅子氏については、ペールに包まれていた面もかなりあったのですが、本作により出会いや闘病など明らかにされています。
骨太な生き方をしてきた、大人としての伊集院氏の魅力が味わえる作品です。
9、『いねむり先生』
伊集院氏が、妻に死なれ、自暴自棄になって、しばらく無頼の生活に沈んでいた頃、「いねむり先生」こと色川武大氏と知り合う話です。
雀聖と言われた博打うちで、作家の阿佐田哲也氏(色川武大)への敬慕と愛溢れる話が詰まっています。
勝負の世界に生きる人間の、あくまで自然体で、それでいて、見返りを求めない本当の優しさと、本当に豊かな人との関わり方が何かということを教えてくれます。
ここがポイント
優しさというものは、陽だまりの中で、感じる柔らかいものだけでなく、人の涙や汗、血を拠り所に集う人々の中にも、生まれることがあるのだと、気付かせてくれます。
優しくも痛ましい魂の触れ合いが、じんわりと胸に迫ってくる作品です。
10、『なぎさホテル』
伊集院氏が、神奈川県逗子にある、なぎさホテルで過ごした、7年余りの日々を回想した、15編からなる自伝的回想です。
伊集院氏が世に出る前の、精神的にも経済的にも苦しい時期に、支えてくれた恩人たちへの感謝が伺えます。
人生にはムダなことは、ないと言われています。
ここがポイント
人生を諦めた伊集院氏にとっての、なぎさホテルでの日々は、後の人生の栄養を蓄えた日々であったと思われます。
人の優しさに触れ、過ちを許され、帰るところのある人間は、立ち直れることを、なぎさホテルの支配人は知っていたのです。
何故、彼は浜辺で見かけた見ず知らずの青年に、それを感じたのでしょうか。
人との出会いで、人は変わっていけるのだと思う作品です。
11、『岬へ』
海峡三部作の第三弾であり、故郷を離れ、東京の大学へと進学した英雄に、過酷な運命が待ち受けている話です。
英雄は東京で出会った様々な人々の中で、人生とは何かを学んでいくのです。
三部作全体を通して、大切な人と出会い、哀しい別れを繰り返し、その中で、生きるとは何か、どう生きるべきなのかを教わりながら、自分の道を探し続けていくのです。
ここがポイント
真っ当な青年の成長が、非凡な環境の中で成長していくという姿が、逞しく描かれていて、感動さえ覚えてしまいます。
最後に大陸をめざした英雄は一体、何を掴もうとしていたのでしょうか。
人が懸命に、そして、ひた向きに生きる姿に、胸を突かれる作品です。
まとめ
伊集院静氏の作品のご紹介はお楽しみ頂けましたでしょうか。
人生の酸いも甘いも嚙み分けてきた、伊集院氏の魅力は感じて頂けると思います。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。