細やかな女性の心理を描く、藤堂志津子氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
札幌生まれで、地元の短期大学在学中の19歳の時に、詩集「砂の憧憬」を刊行し、その後、北海道新聞社《北海道新鋭小説集》に作品が収録されます。
1987年、札幌市の広告代理店、在籍中に「マドンナのごとく」という作品が、第21回北海道新聞文学賞を受賞します。
藤堂志津子おすすめ8選をご紹介~女性の内面と恋愛模様を描く~
1988年には「マドンナのごとく」が直木賞候補となるも受賞ならず、しかし同年に発表した「熟れゆく夏」で第100回の直木賞をめでたく受賞します。
以後、女性の内部を突く恋愛小説を多く発表し、エッセイストとしても活躍の場を広げています。
そんな藤堂志津子氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『熟れていく夏』
表題作「熟れていく夏」を含む、女の狂気がひしひしと伝わってくる3編からなる短編集です。
全て女性が主人公となっていて、彼女たちはみんな日頃の生活に躓いて、ちょっと違う場所へ緊急避難的に逃げてきているように思えます。
どの女性も性格に尖ったところを持っていて、そのことが原因で、上手くいかなくなったことも共通しています。
やや人生への執念というものが、物語に微妙な影を落としていて、表題作はその中でも、粘着感を強く感じてしまいます。
ここがポイント
女性の心の底に蠢く情念と、むき出しの欲望を赤裸々に描いている作品です。
2、『昔の恋人』
ほろ苦い再びの恋を描いた、4編からなる短編集です。
ここがポイント
若かりし頃、心も身体も一緒に過ごした昔の恋人と、偶然再会してしまったら、どうなるのでしょうか。
殆んどの人は懐かしい思い出として、または、思い出したくない過去として、封印した扉を開けることはしないと思います。
今は、あの頃と違う自分がいて、家族がいるのですから。
どの話も味があって、正に大人のビターなラブストーリーであり、女性の表と裏の心が織りなすドラマを観ているような作品です。
3、『夫の彼女』
唐突に夫から、バイセクシャルと打ち明けられ、離婚を迫られる妻の葛藤を描いた話です。
ある日突然、離婚を提案された妻は、その理由が全く分からず、ひとまず別居することとなるのですが、月日が経っても夫との離婚に踏み切ることが、出来ないのです。
夫の優柔不断、そのことに傷付けられながらも、相手を嫌いになれない、惚れた弱みをもっている妻。
ここがポイント
夫として描かれるダメ男が、自分勝手極まりなく、かなりイライラさせられますが、どこか頓馬に思えて、可愛げを感じてしまいます。
妻は一見イイ女っぽいのですが、少し難あり物件という構成で、全体として厭味の無い作品にまとまっています。
4、『秋の猫』
動物との交流を通して、癒されていく女性たちを描いた、5編からなる短編集です。
どの話にも、犬や猫が、大切な役割を担って登場し、5話とも趣が異なり、楽しめます。
人間の関係性と同じように、人間と犬猫にも出会いと別れがあります。
ドロドロで身勝手な人間の関係に、憤りと、いたたまれない気持ちになりながらも、そんな気持ちも犬と猫の健気さとふてぶてしさと、愛らしさが緩和してくれて、さらには多くの幸せも、もたらしてくれて、新たなる一歩を踏み出す勇気を与えてくれるのです。
ここがポイント
覚悟を決めた女性は、皆、怖い位に強くなれると感じた作品です。
5、『桜ハウス』
シェアハウスに10年前、一緒に暮らしていた4人の女性が、7年ぶりに再び顔をそろえることになる話です。
ここがポイント
年齢も仕事も性格も、そして男性の好みも、まったく違う4人の女たちは、それぞれの人生を懸命に生き、本音を言い合いながら、家族やパートナーとは違った、居心地のいい不思議な絆で結ばれていたのです。
そして、最期に元色男らしき初老の男が現れ、最年長の女性が、結構惑わされてしまいそうになるのですが、仲間との調和は乱れないのです。
若者にはない、熟年の理想の姿を見たように感じてしまう作品です。
6、『きままな娘 わがままな母』
母と娘という、難しい関係や日常風景を飾らずに、そのまま切り取ったような話が綴られています。
30代の娘の沙良と、60代の母、駒子はお互い言いたいことを言い合う関係なのですが、でも、少しだけ思惑が違うのです。
母にとってみれば、沙良に早く結婚して欲しいのですが、側にも置いておきたい気持ちの揺れが、何となく分かるのです。
ここがポイント
時に鬱陶しく、敵にもなり得るのだけれども、自分を一番に愛してくれて、最終的に絶対的な信頼を寄せてしまう相手こそ、母なのです。
母と娘という、親子である以前に、女同士であるが故の面倒くささや、共感し、支え合える複雑で微妙な関係が、丁寧に描かれている作品です。
7、『つまらない男に恋をして』
一人の男性を一途に、10年間思い続ける女性、郁子が主人公の物語です。
郁子は一人の男である勇介を想うあまり、他の男性とは刹那的な関係しか持つことができず、荒んだ生活を送っていたのです。
そんな彼女にジゴロと称する青年、圭哉が現れることで、郁子の気持は一気に彼の方へ傾いていくのです。
ここがポイント
愛と性は必ずしもイコールで繋がらず、愛のない関係は、スキマを埋めるようでいて、より荒んだ気持ちにしてしまうものなのです。
切なくて胸が痛くなるような場面ばかりであり、愛と性の相剋についても考えさせられる作品です。
8、『独女日記』
女の心をサバサバと、表現しまくる、藤堂志津子氏の日常という感じのエッセイです。
パートナーである愛犬の”はな″との関わりは、やはり若い世代では見えない心の絆、老いの暮らしというものも含んでいるような気がします。
ここがポイント
病や介護を経て、今、いろんな物事を受け入れ、はなと二人で慎ましく暮らしている、日常があるのです。
彼女が周囲を描きながら、自分の持っていないものについて語る時、何故か、いいかもしれないと、思わせてくれるのです。
自由気ままで、不自由な老後の生活が楽しみに思える日記です。
まとめ
藤堂志津子氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
細やかな女性の心理に共感いただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみて下さい。