時代小説の名手、辻堂魁氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきます。
辻堂氏は大学卒業後、長い出版社勤務を経て、執筆業に入り、2010年に「風の市兵衛」という作品を発表します。
主人公で渡り用心の唐木市兵衛が、算盤を片手に生計を立てる飄々とした姿と、風の剣で弱き者たちの為に、一途に戦う姿が、読者の圧倒的支持を得て、シリーズ化されます。
辻堂魁おすすめ作品8選をご紹介~潔く生きる様を描写する~
2017年には作家生活10周年を迎え、「風の市兵衛」シリーズも20作を越えています。
翌2018年には、唐木市兵衛の新たな魅力と、今までの作品で明かされていなかった秘話を解き明かすために、「風の市兵衛 弐」が新シリーズとしてスタートしています。
その他、「日暮し同心始末帖」シリーズや、「夜叉萬同心」シリーズ、「仕舞屋侍」シリーズなどを手掛け、どの作品も人気を博しています。
そんな辻堂魁氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『風の市兵衛』
風の市兵衛の第一弾であり、元は武士であった唐木市兵衛が、算盤で武士の財政面を補佐していくという話です。
最初の派遣先は主が亡くなり、残された妻子のいる高松家であり、そこから主の死因の謎や借金の謎などが、浮上し、事態は幕府さえ揺るがすような規模の事件に膨らんでいくのです。
起伏の激しい展開と、算盤侍の痛快な活躍が小気味よく、ページをめくる手が止まらない程、楽しめます。
ここがポイント
次々に起きる事件を紐解いていくミステリーさと、北町奉行所、同心の渋井との駆け引きにも引き込まれてしまいます。
続編が楽しみな作品です。
2、『雷神 風の市兵衛』
風の市兵衛の第二弾であり、今回の派遣先は新宿で呉服などを扱う老舗問屋の磐栄屋であり、理不尽な立ち退きを命じられる話です。
不当な立ち退きを迫られている磐栄屋は、主と跡取り息子が次々に襲われ、残された娘のお絹にも危険が迫っていたのです。
果たして、凄腕の敵を相手に、市兵衛はお絹を守り通すことができるのでしょうか。
ここがポイント
今回は算盤侍としてよりも、用心棒的な役割の方が強めであり、磐栄屋に迫る大手の乗っ取りや、市兵衛の出自に関する兄弟の心の距離感、そして主人の過去の罪から始まる波乱の人生が、物語に勢いをつかせていて楽しむことができます。
今までにない、時代小説の違った楽しさが味わえる作品です。
3、『帰り船 風の市兵衛』
風の市兵衛の第三弾であり、今回は日本橋小網町の醤油酢問屋「広国屋」が古河藩と結託して抜け荷に手を染める話です。
ここがポイント
醤油酢問屋に雇われた市兵衛が、主人と力を持ち過ぎた番頭との間を調整していくのですが、それだけでは当然終わらず、大藩と組んで抜け荷を行っているのをいかに店の暖簾に傷をつけずに、収めていくのかが見所となります。
店を牛耳る番頭の背後には筆頭老中の土井大炊の影もあり、一筋縄ではいかない雰囲気が漂っています。
市兵衛を取り巻く人の輪も静かに少しずつ広がり、深まっていくのが、またいい感じになっている作品です。
4、『月夜行 風の市兵衛』
風の市兵衛の第四弾であり、命を狙われている小藩のお転婆姫様の護衛という、今までとは少し異なる設定の話です。
市兵衛の人柄の良さに加え、その剣の圧倒的な腕前が、印象付けられる本作品であり、聡明で心優しく無鉄砲な姫の護衛では、苦労させられながらも辛抱強く諭し、見守る姿勢が市兵衛の懐の深さを際立たせています。
今回は市兵衛の算盤関連の見せ場はなく、お家騒動の渦中に揺れる若き初々しい姫君の救出劇がメインとなります。
ここがポイント
風のような主人公に憧れる、人々の心象が上手く伝わる構成の作品です。
5、『天空の鷹 風の市兵衛』
風の市兵衛の第五弾であり、藩の不正を訴えた勘定人が殺害され、真実を求めて故郷から出てきた、その老父と孫娘が江戸で、市兵衛と共に真実を探っていく話です。
市兵衛は勘定人の息子を失った老侍に雇われ、藩財政の不正を暴き、息子の死の真相を共に追い求めていきます。
今作は算盤侍らしく、両替や為替の不正を暴き出す場面があり、小気味よく、爽快な気分にしてくれます。
また老侍も良い味を醸し出していて、剣劇シーンも市兵衛に勝るとも劣らない大活躍で楽しませてくれます。
レギュラーメンバーもそれぞれの役割で気持ちよく盛り上げてくれて、特に強面の弥陀ノ介の意外な特技には驚いてしまいます。
ここがポイント
特に藩邸での二人の戦いの様子は迫力満点であり、次作への余韻を残す作品になっています。
6、『風立ちぬ 風の市兵衛』上・下
風の市兵衛の第六弾であり、家庭教師になった市兵衛に迫る二つの影の話です。
ここがポイント
シリーズ初の上下巻の長編であり、音羽町の詳しい地図と江戸中央部の地図があり、読みながら地図を見ると、まるで人々の動きが見えるようで、楽しむことができます。
さて、今回の市兵衛の仕事は、料理茶屋「大清楼」の倅(せがれ)である藤蔵の私塾入門の為の家庭教師なのです。
藤蔵の姉、歌は護国寺門前一の器量よしと評判の娘であり、素敵な市兵衛に、たちまち惚れてしまう、お約束の展開となります。
その後、大清楼が手入れを受け、家は打ち壊され、主人の清蔵は引っ立てられ、歌までも攫われてしまうのです。
果たして市兵衛は歌を救うことができるのでしょうか。
意外な結末と、圧巻の読み応えのある作品です。
7、『暁天の志 風の市兵衛 弐』
風の市兵衛、弐シリーズの第一弾であり、市兵衛が7自ずからのルーツを求める新たな旅への始まりの話です。
市兵衛が童女を助けたことから、浪人親子と親しくなり、そんな折に、吉野山からの修験者が訪ねて来て、祖父の縁で吉野へ行けば、出自が分かると告げられるのです。
ここがポイント
市兵衛は吉野に向かい、自分の出自の詳細を始めて知るのです。
江戸にもどった市兵衛は、酒場で知り合った浪人、信夫平八の裏稼業を暴くのですが、平八の子供たちが知らぬ間に平八をたおしてしまうのです。
それから市兵衛はその浪人の二人の子供である、小弥太と織江を自分の子供のように養育していくのです。
これまで馴染みだった人々も人生の転機を迎えたりなどして、登場する場面が少なくなりますが、新たな次回の展開が楽しみになる作品です。
8、『落暉に燃ゆる 大岡裁き再吟味』
還暦を迎えた大岡越前が、江戸町奉行(南御番所)から寺社奉行になり、昔、死罪を言い渡した裁きが気になり、気鬱を起こしてしまう話です。
その時の事件の真相を掘り起こそうと、大岡は徳川吉宗の鷹狩りに随伴した折に、知り合った鷹匠頭の十一番目の子供である、十一に再調査を命じるのです。
登場人物たちの濃い存在感と、筆者らしい心情、情景、風情をたっぷりと描き、捜査はゆっくりと進んでいきます。
そして、その真相の鍵は、意外なところに隠されていて、徐々に明らかになっていくのです。
ここがポイント
まさしく「天網恢恢疎にして漏らさず」の顛末を迎えるのです。
まとめ
辻堂魁氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に時代小説の醍醐味を味わってください。
読書の楽しさが広がりますよ。