心地良い余韻に浸れる、木下昌輝氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、ハウスメーカーに4年半勤務の後、小説家になる夢を追いかけるため、フリーライターとなります。
文学制作を中心にした学校で、小説を学び、2012年「宇喜多の捨て嫁」という作品で、第92回オール讀物新人賞を受賞し作家デビューを果たします。
その後も同作品で、2015年には直木賞候補になったり、第4回歴史時代作家クラブ賞受賞、舟橋聖一文学賞受賞、高校生直木賞を受賞しています。
木下昌輝おすすめ8選をご紹介~歴史エンターテインメントを描く~
現在は専業作家で、朝8時か9時に起きて洗濯をしてから、ファミレスや喫茶店を転々としながら、草稿を考えているそうです。
また静かな環境よりも、周囲がざわついている方が、仕事が捗るとのことです。
最初は手書きでひたすら書いて、区切りのいいところまできたら、パソコンで自分の書いた字を解読しながら、入力し、それを夜9時位まで続けているそうです。
そんな木下昌輝氏のおすすめの作品を8選ご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『宇喜多の捨て嫁』
戦国三大梟雄(きょうゆう)の一人である、宇喜多直家にまつわる6編からなる連作短編集です。
自分の娘を謀で嫁がせる最初の話から、徐々に真相が明らかになっていきます。
滅ぼす家に娘を嫁がせ、捨て嫁にしただけではなく、母も父も朋友も家臣も、誰も彼も捨てなければ、生き抜けなかったのが、戦国時代だったのです。
主君から才能を恐れられ、虐げられたり、謀られたりして、戦国時代のドロドロした世界と、直家の業病が相まって辛くなってしまいます。
ここがポイント
また、歴史的事実だけでなく、戦国時代の「暗」の部分のような、人間の欲深いところや、苦労するところが生々しく描かれていて、読み応えがあります。
一面だけで人を断じず、行動の背景を想像するということの重要性を改めて感じる作品です。
2、『人魚の肉』
人魚の肉と血に関わる歴史上の人物を綴った8編からなる短編集です。
人魚の肉を食せば、妖を友とする呪いにかかり、血を飲めば、不老不死となる。
3人の土佐の幼子が、浜辺で見つけた美しい人魚、この偶然が、後の歴史を揺るがすことになろうとは、誰が想像できたでしょうか。
ここがポイント
幕末の京都を舞台に新選組、討幕派の志士など、歴史上のお馴染みの面々が登場します。
その肉を食べ、血を飲んだ志士たちはどうなってしまうのか、聞き知った新選組のエピソードに新たな解釈を与えています。
半ばに挟まれた、血の祭りのエピソードもファンタジックな雰囲気を増長しています。
思っていたよりも、ホラーテイストの高い作品です。
3、『天下一の軽口男』
上方落語の始祖である、米沢彦八の生涯を描いた話です。
町人文化の花開く元禄の時代に、大坂難波村の彦八は笑いで身を立てたいと望み、多くの人と関わり、成長していきます。
姉弟愛、親子愛、友情、慕情など思いは密に、そして時には細長く彼らを繋いでいきます。
幼き日慕った少女を笑わせたい、天下の人々を笑いで救いたいと願った彼の想いは、満たされるのでしょうか。
落語、漫才、コント等、種々の笑いは、とても長い間、多くの人を笑わせ、苦しみを和らげたと思います。
ここがポイント
明るくもお笑いに対する情熱に溢れた作品です。
4、『戦国24時 さいごの刻(とき)』
戦国の乱世に生きた男たちを描いた6編からなる短編集です。
豊臣秀頼、伊達輝宗、今川義元、山本勘助、足利義輝、徳川家康の6人の死に至るまでの24時間に視点をあてています。
戦国武将の最後の24時間が刻々と語られ、緊迫感溢れるストーリーとなっています。
ここがポイント
大枠は史実に沿った歴史小説ですが、独創的で意外な結末に目が離せなくなってしまいます。
そこには怨念や亡霊が絡まっていく歴史ファンタジーでもあり、また、ホラーミステリーでもある世界に見事にハマってしまいます。
心地良い読書の余韻に浸れる作品です。
5、『敵の名は、宮本武蔵』
宮本武蔵と一騎打ちした剣豪たちが、それぞれの立場から見た武蔵象を描いた7編からなる連作短編集です。
本書で描かれている宮本武蔵は、既知の小説などの枠を超えた、実に新鮮な視点で表現されています。
父親の無二斎に厳しく育てられながらも、日本画を嗜んだりする高貴な精神性を持つことで、徐々に人間らしさを取り戻していく武蔵の姿が鮮やかに描かれています。
前半は淡白ですが、中盤から後半にかけ、段々とミステリー色も絡み、興奮度も加速していきます。
「宇喜多の捨て嫁」にも通じる血生臭さ、乾いた死生観が伺えます。
ここがポイント
容赦のないリアリティ感に「生きる」、「勝つ」の意味を問いかけられ、宿命に翻弄された武蔵の人生が分かります。
味わったことのない面白さに、静かな興奮を感じてしまう作品です。
6、『秀吉の活』
秀吉の人生の節目を10章に分けて描いた話です。
名字も持たない百姓の息子から、己の才覚だけで、天下人にまでのし上がっていく秀吉の、武功ではなく、活き方の根本を軸に描いています。
織田信長の草履取りの職を得て、木下家から寧々を嫁に迎え、稲葉山城攻めで、名声を勝ち取り、侍大将として各地を転戦し、毛利勢を屈服させた功績の数々。
また、本能寺に斃(たお)れた主君の仇討を成し遂げ、ついに天下人、豊臣秀吉となったのです。
ここがポイント
創意工夫、当意即妙にして、運も相成って、少しずつ地位を高めていく様子が痛快な作品です。
7、『炯眼に候』
織田信長の天下統一までの謎を、7人の視点から解き明かしていく話です。
7つの話はそれぞれ独立していますが、登場人物などは少しずつ重なっていて、全体として、桶狭間から本能寺までの信長の半生を追う内容になっています。
物事を鋭く見抜く力のある信長、確かにこれ程までに世の行く末を見極めた武将はなかなかいないのかもしれません。
ここがポイント
炯眼によって、頂上まで上り詰め、家来からの信望も厚かった信長ですが、一方では、炯眼であった故に、敵も多かったことも事実なのです。
男の嫉妬は表面には出ずらいものなので、知らず知らずのうちに根深くなり、大きく変貌していくものなのです。
木下氏の着眼点が光る作品です。
炯眼(けいがん):物事をはっきり見抜く力。鋭い眼力のこと。
8、『戦国十二刻 始まりのとき』
名高き軍師たちの新たな時代へと繋がる濃密な24時間を描いた、6編からなる連作短編集です。
応仁の乱から大阪夏の陣までの戦国時代のとある出来事が、起きるまでの24時間が描かれています。
時を超え、時を繋ぎ、主役も脇役も、揃いも揃った戦国オールスターに胸も、ときめいてしまいます。
摩訶不思議なテイストで、連作短編が一大戦国絵巻に変貌していき、英雄たちのその時の刹那、そして巧みに描かれる複雑な胸中、かなりの迫力に圧倒されます。
ここがポイント
木下氏の快刀乱麻ぶりが堪能できる作品です。
まとめ
木下昌輝氏の作品のご紹介は、はお楽しみいただけましたでしょうか。
今まで理解していた史実とは違った視点で捉えた話は、興味を持っていただけと思います。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみてください。