細やかな人間心理を描く、志水辰夫氏のおすすめ作品7選をご紹介させていただきます。
高校卒業後、公務員等を経て、出版社に勤務し、その後フリーライターとなり、40代で本格的に小説を書き始めます。
1981年に「飢えて狼」という作品で作家デビューを果します。
自他ともに認める、永久初版作家であった志水氏ですが、1990年に刊行した「行きずりの街」という作品が日本冒険小説協会の大賞を受賞し、さらに「このミステリーがすごい!」の1992年度の第1位に選ばれ、ベストセラーとなります。
志水辰夫おすすめ作品8選をご紹介~巧みなプロットと濃密な文体~
叙情的な文体で、冒険アクション小説から恋愛小説や時代小説までを手掛けていて、その手腕は高く評価されています。
また、ドタバタに徹したコメディ調の作品も手掛けるなど、その作風は幅広く親しまれています。
そんな志水辰夫氏のおすすめの作品7選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『飢えて狼』
ここがポイント
克己心の塊のような男が、ひたすらに自らの想いを抑制しながらも、強くあろうと生きていく話です。
過去を捨てて、平穏に暮らしていた男が妖しげな男たちと出合うことにより、国家規模の陰謀に巻き込まれていく第一部。
そして択捉島の潜入から脱出までの手に汗握る活劇の第二部とクライマックスの第三部で構成されています。
心情はセンチメンタルなくせに、そうでないように振る舞い、クールであろうとしながら、抑えきれない熱い思いが伝わってきます。
国産冒険小説の傑作と呼ばれる作品です。
『背いて故郷』
スパイ船の船長であった柏木が、船を降り、一人で親友の死の真相を解明するために挑む話です。
真相を追っていたはずが、中盤から逆に追われる立場になってしまい、緊迫の展開になっていきます。
情景描写が素晴らしく、まるで映画でも見ているかのように、光景が浮かんできて、息おもつかせない場面に酔いしれてしまいます。
特に主人公、柏木の絶望感を体言止めで描ききったラストシーンは秀逸です。
ここがポイント
ハードボイルドの金字塔とも言うべき作品に間違いないと思います。
『行きずりの街』
行方不明となった教え子を捜す塾講師が、闇の謎に深入りするうちに、予想外の陰謀に巻き込まれていく話です。
失踪した元塾生を捜すうちに、かって自身も所属していた学園内部の抗争に巻き込まれていきます。
十数年前の悪夢が蘇り、過去を清算すべき時が来たことを悟った男は、孤独な闘いに挑んでいくのです。
ここがポイント
ミステリーとハードボイルドの合間に純愛を混ぜ込んだ世界が堪能できます。
心情の描写の細やかさが伝わってくる作品です。
『いまひとたびの』
人生の光芒を切ないほどに鮮やかに描き上げた、9編からなる短編集です。
全ての物語に共通する主題は、死によって呼び覚まされる、過ぎ去ったことなのです。
描かれているのは、迫りくる自分自身の死であったり、老親の覚悟していた死であったりします。
それぞれの死がもたらすものは、人生の終わりだけでなく、その死を受け入れて、納得しながらも、人はやっぱり、明日も生きていくのです。
ここがポイント
ゆっくりと穏やかに流れていく時間の中に、一つひとつ大切なものを掬い上げる、そんな印象を受ける作品です。
『負け犬』
余韻を楽しむ、緊張感のある文章が綴られた8編からなる短編集です。
ここがポイント
生き急ぎ、駆け抜けてきた人生を振り返って時に、確かめずにはいられない過去が浮かびあがってくるのです。
人には言えないかたく閉ざしたい過去、しかし一生逃れることのできない過去、そのようなしがらみを背負った者たちが、過去のしがらみを訪れた時、胸に去来するものは一体何だろうか。
死んだ友、別れた女、振り切るように捨ててきた故郷、貧しくて、切なくて、哀しくて、やるせない読後感の作品です。
『ラストドリーム』
妻をガンで失った衝撃で記憶を失ってしまった男の話です。
妻に対する罪悪感を描き、幸せにしてやれなかった後悔と悲哀、そしてビジネスマンとしての頂点を極めた男の回想と悔恨が描かれています。
ここがポイント
場面ごとの情景描写が素晴らしく、失われたものへの郷愁と人生の儚さが見事なまでに迫ってきます。
男と生まれたからには、誰もが見る見果てぬ夢を、果たして主人公は見ることができるのだろうか。
男の生き様を情緒豊かに描いた作品です。
『うしろ姿』
ハードボイルドの残り香も漂う7編からなる短編集です。
各話のほとんどの主人公が、貧困やみじめな境遇という過去を引きずって、生きているのです。
しかしその過去があったこその、現在の自分があるのであり、誰も自分の過去を否定して捨て去る人物はいないのです。
ごく一部の成功者を除けば、誰もが忘れたいような過去なのですが、逆転を望まず、ひっそりと生きていく、うしろ姿がよく、描かれています。
ここがポイント
その人の人生が詰まっている作品です。
まとめ
志水辰夫氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んんでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。