50歳で作家デビューを果した、宇佐美まこと氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
愛媛県松山市生まれで、小学生の頃からホームズやルパンなどが好きだったようで、高学年になると、図書委員で読書クラブに入っていたそうです。
読書好きは変わらず、中学生の時に、井上靖氏作「しろばんば」を読んで感動したそうで、大学に入ってからは、一日一冊のペースで、小説を読んでいたようです。
宇佐美まことおすすめ作品10選をご紹介~人間の怖さや狂気を描く~
宇佐美氏は小説家になるために、小説家養成講座に行ったり、同人誌の活動に参加したこともなく、全部我流であり、書いていく上での指針は自分が読みたいっていう、ただそれだけを拠り所にして執筆しているそうです。
50歳でデビューするまでは、ただ読む側の人間であったので、自分の作品に対しても素直な評価ができるそうです。
そんな宇佐美まこと氏のおすすめの作品を10選ご紹介させていただきますので、どうぞお楽しみ下さい。
1、『子供は怖い夢を見る』
母親の離婚を機に、母子で新興宗教に入信後、妹の死など過酷な境遇にある少年、航が不思議な家族と出会う話と、航が大人になり、ガオというこれまた不思議な男と出会って、仕事のパートナーとなる話が描かれています。
不思議な力を持つ蒼人とその家族、大人になった航の前に現れた青年実業家のガオ、そして過去と現在が交わった時、蒼人たち家族の秘密や、ガオの秘密が明らかになっていきます。
ここがポイント
一つの謎が明かされると、その後の展開は見えてきて、驚きはないものの、孤独の果てに見る家族の絆、仲間との絆に胸が熱くなってしまいます。
コロナ禍の今をモチーフに、壮絶な歴史的過去と、家族の愛憎を描いた作品です。
2、『愚者の毒』
上野の職安で、履歴書を取り違えられたことから知り合った、葉子と希美の二人の話です。
現在老人ホームで暮らす主人公、希美の現在と過去が、交互に描かれ、彼女が過去に犯した罪が、何なのかが、徐々に明らかになっていきます。
意表を突く展開に何度も驚愕し、最後の最後まで読めない結末に、唸らせてしまいます。
ここがポイント
炭鉱労働者の貧困と過酷極まりない生活は、そこから抜け出すために罪を犯し、さりとて安住の地にたどり着くことのない人生はとても切なく感じました。
倫理観を揺さぶられる作品です。
3、『展望塔のラプンツエル』
劣悪な環境で過ごす子供たちを通じて、児童虐待や児童相談所、そんな環境から抜け出せない人たちの社会問題を描いた話です。
展望塔のある多摩川沿いの街で、児童相談所の職員、家族関係に難のある子供たち、不妊治療中の主婦の三つの視点でストーリーが絡み合っていきます。
児童虐待に性暴力、そこに公的機関である児童相談所等の職員が関わるのですが、法律では如何ともし難いことばかりだったのです。
このような問題に対し、色々なことが良くニュースで取り上げられていますが、役所でどうにかなるという問題ではない事の方が、圧倒的に多いのだろうと思ってしまいます。
ここがポイント
血の繋がりや家族という何とも漠然としながらも、圧倒的に強い繋がりにも、疑問符を投げかけている作品です。
4、『入らずの森』
四国山中の集落で、数年ごとに起きる殺人事件と、誰もが持つ負の感情を餌にした「それ」を描いた話です。
事故で陸上選手生命を絶たれた中学教師、家庭崩壊で転校してきた女子高生、仕事が上手くいかずIターンで就農を目指す男の目線で、ストーリーは展開していきます。
それぞれが、上手くいかず蓄積していく負の感情、そしてそれを吸い取るかのように異様な雰囲気を出す深い森と「粘菌」。
ここがポイント
それぞれの場所で、生きている者たちが繋がり、線になった時、それは起こってしまうのです。
太古から存在している粘菌が、こういう使われ方をするのは大変興味深く感じてしまいます。
人の嫌な部分が曝け出されて不快な気分になりますが、不思議な爽やかさに収束していく作品です。
5、『月の光の届く距離』
養子縁組、里親制度、血の繋がり、家族のカタチに焦点を合わせた話です。
17歳で妊娠した女子高生の美優は交際相手の恋人にも逃げられ、家族にも受け入れられず、自死も覚悟したのですが、NPO団体の代表の千紗という女性と出会ったことから、明良と華南子という兄妹が営むゲストハウスに、身を寄せることとなります。
そのゲストハウス(グリーンゲイブルズ)には、名字が違う兄妹や、養子縁組の子供など、血の繋がりよりも深い愛で結ばれた家族が暮していたのです。
ここがポイント
美優に親切に接してくれる人たちの生きてきた人生の壮絶さに、憤りも覚え、不条理も感じますが、それ故、生きる意味や生きがいを見つけ、喜んで他人に手を差し伸べる姿が強烈に素敵に感じてしまいます。
自分の為だけに生きる人生以外も、送ってみたくなる、そんな作品です。
6、『骨を弔う』
幼なじみの5人が、29年前に山の中に埋めた骨格標本が、ほんものの骨だったのではないかと、疑念を抱くことから始まる話です。
堤防から人骨発見?という地元紙の記事を見たアラフォー世代で家具職人の豊は、数十年前の小学生時代、仲間数人で山中に悪戯で骨を埋めたことを思い出してしまいます。
そして疑問を解決するために、音沙汰がなかった幼馴染たちを訪ねる決心をするのです。
数十年以上、音沙汰の無かった過去の友人から、突然の連絡があったら、何も悪いことをしていなくても、少しドキドキしてしまいますよね。
毎日が楽しくて、煌めいたいたあの頃から、何年も経って、中年になった幼馴染たちは、それぞれの悩みを抱え、何か一歩踏みだせないでいたのです。
ここがポイント
章ごとに、それぞれの幼馴染たちが登場し、徐々に紐解かれていく謎が、興味深く楽しめます。
終盤は怒涛の展開で、驚きが連続する作品です。
7、『夜の声を聴く』
目の前でリストカットした女性に惹かれて、彼女の通う定時制高校に入学した引きこもりの隆太は、そこで出会った、大吾が働くリサイクルショップ「月世界」で手伝いを始め、様々な事件を解決していく話です。
誰にも打ち明けられない過去に囚われ続ける隆太が、定時制高校で出会った唯一の友人になった大吾も、想像も出来ない壮絶な過去を背負っていたのです。
やがて隆太のふとした違和感や疑問が、大吾にまつわる未解決事件へと迫っていくのです。
計算され尽くされたいくつかのエピソードに、慄きながらも目が離せなくなってしまいます。
ここがポイント
ミステリーを思わせるような事件と謎解きが重層的に詰まってはいますが、青年の青春の一幕を切り取っているような作品です。
8、『羊は安らかに草を食み』
俳句仲間の益恵の認知症が進み、益恵の夫から頼まれた20年来の友であるアイと富士子は、三人で益恵がかって生活をしていた過去捜しの旅に出る話です。
益恵は満州で終戦を迎え、ソ連の侵攻から逃げる途中で、家族全員を喪い、偶然知り合った孤児の少女、佳代と壮絶な生活をしながら南下して、帰国の船に乗ることが出来たのです。
ここがポイント
思い出に浸るだけの話ではなく、益恵の幼き記憶が、物語の中に差し込まれ、幼き日に何を体験し、大人になってからその体験がどう生きていくのか、周りの人へどう影響するのかが綴られていて、グイグイと引き込まれてしまいます。
戦争によって人生を翻弄された世代が、どう生きてきたかが分かる作品です。
9、『夢伝い』
異界を描いた恐怖と戦慄の11編からなる短編集です。
どの話も現実と虚構の境界が曖昧であり、何というか怪奇世界へと続く道に落差が無いのです。
ここがポイント
ただ歩いいているだけなのに、気が付いたときには、もう狂気の世界に嵌りこんでいるような感じになってしまいます。
どれも鮮やかな切り口で語られ、ふっとロウソクの火を消すように終わってしまうのです。
おびき寄せられては、暗闇の中に何度も何度も残されるような気分になってしまう、そんな作品です。
10、『あなたの涙は蜜の味』
女性作家7人による、鳥肌必至のイヤミス傑作短編を集めたアンソロジーです。
どの作品もホラーやミステリーのテイストを少しずつ散りばめ、絶妙にいや~な後味に仕上がっていて、忘れることのできない印象が残ります。
ここがポイント
人間の欲望と闇の二重奏にあてられた誰かが涙する、そんな不幸を極上の喜びとした、その人の幸せを見たくないけど、見てしまうのです。
怖いもの見たさで、止めることのできない中毒性の高い作品集です。
まとめ
宇佐美まこと氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
様々なテイストが楽しめること間違いないですよ。