緊迫感のある文章を描く、帚木蓬生氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
一旦は大学を卒業し、就職するもその2年後に再び医学部を受けなおし、精神科医の道を歩んでいきます。
医者として、従事する傍ら、執筆活動にも励み、1979年「白い夏の墓標」で注目を集め、作家デビューを果します。
その後、1992年「三たびの海峡」という作品で第14回吉川英治文学新人賞を受賞します。
帚木蓬生おすすめ10選をご紹介~小説は融通無碍なところがいい~
帚木氏は作品を執筆する時に、この作品はこうしようとか、敢えて決めなくて、書いているうちに、この作品はこうしようとか、こういう展開があり得るなという風に思うそうです。
要するに、出たとこ勝負で書いていたのが、たまたまハマったという方が、面白くなるそうなのです。
小説は自由に書けるところがいいし、現代も書けるし、歴史も書ける、ジャーナリズムでも書けない事でも小説だから書けるのだそうです。
そして、単なるエンタメで終わるのではなくて、読み終えた後に、心に残るものを、と心掛けているそうです。
そんな帚木蓬生氏のおすすめの作品10選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
『白い夏の墓標』
パリで開かれた肝炎ウイルス国際会議に出席した佐伯教授が、思いがけず旧友の死の真相を知り、その謎をたどる話です。
自分の青年時代に強い印象を残した旧友の過去や、生き様を辿るだけでも、十分叙情的なのですが、そこにミステリー要素も加わって、面白くなっています。
ここがポイント
緊張感に富んだ、話柄の展開と練り上げられた全体的な構想に圧倒されてしまいます。
不遇の細菌学者が悪魔に魂を売るも、心の片隅に良心をとりとめて、やがて愛の物語に変化していきます。
終始切ない気持ちになってしまいそうになりますが、結末は明るい気持ちにしてくれる作品です。
『三たびの海峡』
第二次世界大戦下、日本に強制連行された朝鮮人男性の半生を描いた話です。
主人公は戦時下に北九州の炭鉱に強制連行された、河時郎で炭鉱労働で辛い毎日を過ごしていきます。
ここがポイント
人は自分がされたことは、いつまでも覚えているけれども、自分がしたことはあまり、覚えていないのかもしれません。
だから、軽く考えて、あたかも、被害者のごとく、加害者側が水に流すとしてしまうことは、全くの間違いなのです。
日本人としては目を背けたくなるような過去の数々の非道な行為が描かれていて、本当に心苦しくなってしまいます。
一人の人間を生涯を通じて、日本と朝鮮の関係を改めて、考えさせられる作品です。
『臓器農場』
病院の特別病棟で密かに進行していた、恐るべき計画の話です。
人の命を預かる病院内の、小児科病棟における臓器移植が描かれていて、無脳症児にたいする尊厳が問われます。
ミステリーの形を借りた、中身はかなりヒューマンドラマであり、医学の狂気と人間の心の底に潜む闇が描かれています。
ここがポイント
命の尊厳がテーマの作品であり、心が揺さぶられます。
※無脳症児:それは2,000件に1件位の割合で生まれてくる、奇形とでもいうか、脳がない子どものことであり、母体で死んでしまうか、生まれても1週間ほどで死んでしまうのです。
『閉鎖病棟』
精神科病棟でおきる殺人事件を患者の視点から描いた話です。
ここがポイント
普段は知ることもない精神科病院の閉鎖病棟を題材にストーリーは展開していきます。
それぞれの患者は、つらい過去や悲しい想いを抱えながら、毎日を送っていて、世間の人や家族に偏見を持たれているのです。
実社会から隔絶された世界であるが故なのか、患者同士としての繋がりは深く温かく、心に沁みてしまいます。
心に響く作品に間違いありません。
『ヒトラーの防具 上・下』
ナチズムの台頭から、ベルリン爆撃、ヒトラーの自決までを日独混血の青年、香田光彦の目で描いた話です。
ナチスドイツの洗脳政策が怖すぎであり、心酔していく人の高揚感、拒絶していく人の激しい心情とかが、熱病に侵されていくような狂気と恐怖の世界に変貌していきます。
年表でしか知り得なかった歴史が、関わった人の数だけあることを思い知らされました。
ここがポイント
戦争は悲惨であり、権力は理性を失わせ、本当の真理は弱者の中にあるかもしれないと思ってしまいます。
ノンフィクションに思えるような作品です。
『逃亡 上・下』
戦争中に憲兵(特高警察)として香港で厳しく治安維持にあたっていた守田が、敗戦後一転して、戦犯に指名される話です。
日本の為、諜報活動に明け暮れた、報いが「戦犯」の二文字だったのです。
大陸から偽名を使い、やっとの思いで日本へ帰ってきたのに、官憲に怯えながら過ごす日々が苦しくも描かれています。
ここがポイント
戦争の罪業を人間の内面から告発し、読む者の魂を揺さぶる、その表現のインパクトは痛烈に心に沁み渡ります。
圧倒的な緊迫感のある作品です。
『エンブリオ 上・下』
不妊夫婦に福音をもたらす産婦人科医、岸川のもう一つの顔の話です。
医療産業の複雑な世界も絡ませて、我々では分からない、深く潜行する医療の世界が展開されていきます。
エンブリオを使った男性妊娠や人工子宮によるエンブリオ及び内臓器官の生育を行う最先端の研究の様子には、感動すら覚えてしまいます。
ここがポイント
しかし、どこまで許されるのが医療なのか、闇から闇へと葬られるより、たとえ一部であっても、生きられる方が幸せなのだろうかと思ってしまいます。
生命の尊厳と人間の未来を揺るがせる作品のように思います。
※エンブリオ:受精後、8週までの赤ん坊のことで、それ以降は胎児と呼ぶ。
『国銅』
奈良の大仏を建立するための銅を採掘する場面から話は始まります。
岩を掘り出し、都に献上する銅を掘り出す奈良登りの工夫や、若き国人の周りにいる人たちとの関わりなどが、描かれています。
国人の眼を通して写し出された、当時の技術の枠を集結した大仏建立は想像を絶することは当たり前であり、それと同時に病気や怪我等自然に打ち負かされる人間の弱さが、対照的だったのです。
ここがポイント
とにかく、生きる力を湧き立たせてくれる作品です。
『千日紅の恋人』
38歳バツ2の宗像時子が、父の遺産の扇荘というアパートの、管理人としての日常を描いた話です。
アパートの住人は多種多様な人物がいて、時子は腹の立つ思いをしながらも、店子や近隣住民と折り合いをつけては生活と続けているのです。
そんな中、新しい店子で、すこし古風な有馬という青年が入居し、時子はその性格に惹かれていくのです。
特に恋敵やら、乗り越えるべき障害などが出てくるわけでもなく、彼女の恋はゆっくりと確実に進展していくのです。
ここがポイント
なんだか幸せな気分を味わえる作品です。
『風化病棟』
診療を通して紡ぐ、心模様を丁寧に描いている10編からなる10人の医師の短編集です。
どの医師も善良で心優しい人たちであり、医療に取り組む真摯な姿勢がいっぱい描かれています。
人間味溢れる主人公の医師たちは、希望が必ずしも治癒に繋がらなくても、惑いながらも希望への道を諦めずに患者と同じ立ち位置で、戦っているのです。
強烈な現実に向き合う、優しい人間愛に満ちた作品です。
まとめ
帚木蓬生氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
心が温まりますよ。