多彩な彩を持った、多島斗志之氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
大学卒業後、広告代理店に勤務した後、フリーの広告制作ディレクターを経て作家となります。
処女作は1982年に創刊された、「あなたは不屈のハンコ・ハンター」という作品ですが、多島健名義での発表であり、第39回小説現代新人賞を受賞しています。
多島斗志之おすすめ10選をご紹介~寡作で多様な彩を放つ描写~
読者には、海洋冒険小説や本格ミステリー小説、純愛小説など、幅広い作風で知られていました。
そんな人気を博していた61歳の頃、2009年12月19日に滞在していた京都市内のホテルを出たのを最後に、消息を絶ってしまいます。
遡ること1989年頃には右目を失明していて、消息を絶つ前日には一か月前から左目も見えにくいことを弟や娘に打ち明けていたようです。
そんな多島斗志之氏の残した素晴らしい作品を10選ご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、《金塊船消ゆ》
戦後四十余年経ったある日、鳥居甚一の元へ届いた手紙は、フィリピンで沈没した旧日本海軍の金塊船のありかを示す内容だった。
そして、真相を求めてフィリピンへ旅立った鳥居の前に、巨大な敵が待ち構えていたのです。
今から30年以上も前の作品であり、第二次世界大戦を扱った日本のミステリーであり、冒険小説の草分けともいえるものです。
ここがポイント
古い記述ですが、味わいのある作品です。
2、《密約幻書》
神戸の異人館に住む、若い女の元に、英国の大富豪の使いが、女の祖母で亡命ロシア人の残した古い黒カバンを法外な価格で買い取りたいと言ってきた話です。
しかし女はその申し出を断ってしまいます。
ここがポイント
この黒カバンに秘められた謎と、真相を中心にして、いくつもの国が絡み合う国際謀略的な展開となっていきます。
ジャンル分けができない作風が現れている、多島氏独特の作品です。
3、《クリスマス黙示録》
アメリカで日本人留学生の女性が、誤って車で現地の女性警察官の子供をひき殺してしまう話です。
告発は免れたのですが、死亡した少年の母親の女性警官は、復讐を宣言して失踪してしまいます。
ここがポイント
復讐の鬼となった母親と、女性FBI捜査官の攻防戦が手に汗握る展開で楽しめます。
現在ではあまりお目にかかれない、スリル満点の隠れた名作です。
4、《不思議島》
瀬戸内海に浮かぶ、村上水軍が活躍した島々が舞台の話です。
昔、誘拐された過去を持つ、島の女性教師と、島に赴任してきた青年医師の恋愛を描きながらも、青年医師が女性に近づいた動機や、誘拐事件の真相を探っていきます。
ほんの数日間の話に過ぎないのですが、テンポよく展開していき、その中で人もどんどん変化していくのです。
単なる謎解きの面白さだけではなく、秀逸なトリックも楽しむことが出来ます。
ここがポイント
そして、最後に驚愕の真実が浮かびあがってくるのです。
5、《少年たちのおだやかな日々》
中学生の日常に潜む「闇」がテーマとなっている7編からなる短編集です。
読んでいて、ハラハラ、ドキドキの連続であり、後味が悪かったり、この後どうなってしまうのだろうというものばかりです。
ここがポイント
平穏な日々が崩れ去ってしまう恐怖と、予想が外れる面白さが堪能できます。
今風に言えばイヤミス作品なのです。
6、《症例A》
解離性同一障害をテーマにした奥深い話で、精神疾患を巡る医師と患者とのやり取りをリアルに描いています。
ここがポイント
医療従事者の辛さや本音も、謎解き仕掛けの展開に無理なく盛り込まれていて、読み応えがあります。
また、精神疾患と美術品の贋作疑惑の二つの事象が交互に語られていて、どう繋がるのだろうかと楽しみながら読み進んでいけます。
衝撃的であり、重厚な作品です。
7、《離愁》
いつも無関心で物憂げで孤独だった、今は亡き、叔母の過去を探る話です。
質素で簡素な暮らしを送り、何を楽しみにして生きているのだろうと思っていた叔母が51歳で亡くなったのです。
ここがポイント
そんな暮らしでありながらの決して、卑屈にはならず、凛として生きていた叔母、そしてその真相を探っていくうちに熱いものが胸にこみ上げてきます。
情熱的な静けさを味わえる作品です。
8、《海賊モア船長の憂鬱》
インド洋の覇権を英、仏、蘭で争う18世紀の話です。
ダイヤと共に消えた、イギリスの東インド会社の職員、そしてその行方を追うために派遣された本社の秘書官。
知略に長けたモア船長率いる海賊集団や現地の長官は、果たしてそれに関係しているのだろうか。
ここがポイント
ミステリー仕立てになっていて、モア船長の奇策が冴えわたる作品です。
9、《感傷コンパス》
三重県の過疎地帯の分校に赴任した新任教師の明子が、子供たちと馴染んでいく話です。
子供たちの素朴な感情と、それを取り巻く大人たちの人間関係がうまく描かれています。
山里での光景が静かに染み入ってくるような感覚になってしまいます。
ここがポイント
遠い日の子どもの頃を思い出してしまう、切なくて、いとおしくなる作品です。
10、《黒百合》
父親の友人の別荘に招かれた14歳の進が、そこで出会う一彦少年と香という少女と夏休みを過ごす話です。
またその夏休みを描く章をはさんで、淡い感じの話が続く中、父親たちの昔の話と混ざりながら、段々と一つに繋がっていきます。
ここがポイント
ラストで明らかにされる叙述トリックとミスリードさせるレッドへリングの仕掛けが本当に鮮やかです。
不思議な読後感に浸れる作品です。
まとめ
多島斗志之氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
古き良き本格ミステリーの面白さがきっと味わえると思います。