多彩な作風で魅了する、宮部みゆき氏の作品25選をご紹介させていただきます。
高校卒業後、2年間のOL生活をしていた時に、速記検定1級を取得し、その後、法律事務所に5年間勤務し、和文タイプライターのタイピストとして、仕事をこなしていきます。
しかしその後、どうしても小説家になりたくて、雑誌広告で見つけた、小説作法教室に通い、本格的に小説家への道を目指していくのです。
宮部みゆきおすすめ25選をご紹介~その幅広い作風で魅了する~
そしてついに、努力が実り、1987年、宮部氏27歳の時に、第26回オール讀物推理小説新人賞を「我らが隣人の犯罪」という短編作品で受賞し、憧れの小説家デビューを果たします。
その後の活躍は目覚ましく、数多くの文学賞も受賞し、また各文学賞の審査員なども勤めています。
宮部氏の作品に対する心情は「人が書いていないものを書く」ことであり、その結果は、運任せの厳しい世界であると語っています。
そんな宮部みゆき氏のおすすめの作品25選をご紹介させていただきますので、どうぞお楽しみください。
1、『理由』
ドキュメンタリータッチで描かれた、直木賞受賞作品であり、物語の構成が、雑誌記者から当事者たちへの取材形式で語られていくので、あたかも本当に起きた事件をノンフィクション作品として、読んでいる気持ちにしてくれます。
タワーマンションで、殺人事件が起こるも、殺された人たちは、そこの住人でも家族でもなかった、というところから、それぞれの人となりがドキュメンタリー風に細かく描写されて、全ての人間関係が明らかになっていきます。
ここがポイント
事件を中心に膨大な数の関係者の証言をまとめた形で、表現されるルポルタージュ風の構成は、社会に潜む落とし穴を見事に浮かび上がらせています。
殺人事件にならざるを得なかった背景が、人間模様と共に浮かび上がり、そして最後にはその謎全てが、まとまって展開していくという流れになっていきます。
圧倒的な解像度で、関係者間の関係性を活写する、極上のリアリティで綴られた作品です。
2、『火車』
休職中の刑事が、甥っ子から頼まれた失踪した婚約者を探すうちに、、サラ金地獄に陥った女性二人の人生が交錯していく姿が見えてくる話です。
その探し求めていた失踪者の関根彰子の行方を追ううちに、彼女の隠された秘密が明かされていくのです。
ほぼ全ての展開は刑事、本間の視点からであり、最後に結実させるのですが、その中にカードローン破産だとかのその時代の問題も提起されています。
少しずつ見えてくるのは、安住の地を求めても得られずに、暗い道へとますます入り込んで行く彼女の後姿だったのです。
ここがポイント
彼女のことを知る人に会い、彼女が語ったという言葉を聞き、彼女が見せたという表情を想い浮かべるうちに、本間は彼女に一歩ずつ近づき、同時に無意識のうちにシンパシーを抱き始めてしまうのです。
終始淡々とした筆致ながらも、ラストはまるで恋人と邂逅したかのような作品です。
3、『龍は眠る』
超能力を持つ少年二人の苦悩や、生きていくことの難しさが、事件を通して描かれている話です。
豪雨の中、何者かが蓋を開けたマンホールに、子供が落ちた事件から、物語りは始まります。
その犯人を超能力で予言した慎司、更に慎司の能力を否定する直也も現れ、その能力は本物なのか、大人たちも振り回されてしまうのです。
その一方で脅迫事件も発生し、マンホール事件の犯人の自殺、更には誘拐事件と、物語は広がりを見せていきます。
誰とも繋がることは出来ないと諦め、密かに生きるべきだと考える直也と、その力を世の中の為に役立てるべきだと考える慎司、この二人の違いは、幼い時から、支えてくれる人がいたかどうかで、決まってしまっていたのかもしれません。
普通の人間とは違う能力があるがゆえに、様々な障害が降りかかってくるのです。
ここがポイント
作品の内容は地味に思える展開ですが、切れ目のない繊細な表現により、妙に心に残ってしまう作品です。
4、『あかんべえ』上・下
宮部みゆき氏の時代怪談物の一つであり、ファンタジー性があり少し異質な物語です。
主人公のおりんちゃんは、料理屋「ふね屋」を営む店のお嬢さんであり、まだまだ年端のいかない十二歳の少女なのです。
病によって三途の川から、すんでのところで生還し、それによってお化けさんが見えるという能力を得てしまったのです。
おりんの父の太一郎は独立して、料理屋のふな屋を立ち上げるのですが、その建物にはお化けさんが住み着いていて、店は段々と傾いていくのです。
そのお化けさんを唯一見ることができるのが、おりんちゃんであり、賢くて愛らしいのです。
お化けさん達を成仏させようと、同じお化けさんの玄之助もおりんちゃんの指南役になって手伝ってくれるのです。
ここがポイント
生きていれば、どうしても嫉妬したり、人を羨んだりしてしまうのが常であり、それが人間の本性なのです。
人間の煩悩を一冊に閉じ込めたような作品です。
5、『かまいたち』
またまた時代物ミステリーであり、「かまいたち」「師走の客」「迷い鳩」「騒ぐ刀」を収録した、4編からなる短編集です。
表題作の「かまいたち」は、江戸中を騒がす正体不明の辻斬りのかまいたちを偶然目撃した町医者の娘おようが、かまいたちを追い詰めるサスペンスです。
「師走の客」も純朴な夫婦が欲に溺れ、人間の悪意を知ってしまうのですが、最後には、救われるのです。
「迷い鳩」、「騒ぐ刀」は、宮部氏の初期の作品であり、霊能力を持つ、お初を主人公に据えた、時代小説です。
ここがポイント
宮部ワールドの原点が分かる、短編集です。
6、『模倣犯』1~5巻
連続誘拐殺人事件が、被害者と加害者の双方の視点で描かれた話です。
登場人物ひとり一人に至るまで、経歴が仔細に語られていて、犯人や手口を突き止めるサスペンス要素よりも、事件関係者たちの心のあり様を描き出すことに、焦点を当てた意味で、従来の推理小説とは少し趣が異なっています。
その描写の幅広さ(被害者、加害者、マスコミ、遺族など)と、綿密さが本作の読みどころであり、時間軸については、行きつ戻りつで,膨大なページ数で展開は遅く感じてしまいますが、飽きることなく、読み手を惹きつける筆致は流石です。
孫を殺された豆腐屋の主人、有馬義男の生き様は凛としていて読み応えがあります。
ここがポイント
テレビ局での前畑とピースの対談のシーンは、タイトルそのものの比喩であったかのように思います。
かなりの長編ですが、読みだすと止まらなくなる位、熱中してしまう作品です。
7、『誰かーSomebody』
杉村三郎シリーズの第一弾であり、自転車事故で亡くなった父親の本を書きたいとの相談をその娘から受けるところから、話は始まります。
そしてその亡くなった父親の人生をたどり始める杉村だったのですが、人々の心の中に潜む悪意とかを目の当たりにしてしまい、徐々に明かされていく事実が彼の印象を大きく変えていくのが分かります。
派手な展開はありませんが、流石のリーダビリティは健在です。
ここがポイント
少しイヤミスさが残る作品であり、ガツンと衝撃が襲ってくる作品です。
8、『魔術はささやく』
3人の女性は、何かから逃げるような形の謎の死であり、相互の関連性が分からぬままに、4人目の女性に魔の手が伸びていく中、3人目の女性の死に関係したタクシー運転手の甥の守は、ふとしたきっかけで、事件の真相を探ることになってしまう話です。
彼は4人目の犠牲者を出さないことに奔走する中で、一連の事件の犯人に巡り合い、その真相を知ると共に、失踪した父親に関わる真実も知ることになるのです。
最後まで気の抜けない、質の高い文章、生き生きとした会話、そして心を揺さぶる描写、あらゆる伏線が徐々に集まり、大きな流れとなって、ラストへ向かう様は圧巻です。
ここがポイント
相変わらずの巧みな展開と、人間描写に引き込まれてしまう作品です。
9、『とり残されて』
巧みな伏線と鮮やかな舞台設定からなる、7編を収録した短編集です。
現代を舞台にした数々の物語であり、お化けだったり、人間の怨念だったり、タイムスリップの話だったりとかなり楽しませてくれます。
ここがポイント
作品すべてが不思議であり、ちょっぴり怖さもあり、登場人物の想いが切なくも悲しく描かれています。
短編ミステリーの名作です。
10、『今夜は眠れない』
ごく平凡な家庭にある日突然、5億円が遺贈される話です。
マスコミに騒がれたり、近所に騒がれたりと平凡だった生活が一変してしまうのです。
伝説の相場師が、何故自分の母親にそんな大金を残してくれたのかが、分からない。
その秘密を探るために中学生の主人公と友人が、真相究明に乗り出していきます。
ここがポイント
まるで冒険もののような感覚で読み進んでいけるので、ドキドキ感が満載で楽しめます。
いつも通りに、期待を裏切らない面白さが味わえる作品です。
11、『我らが隣人の犯罪』
宮部みゆき氏のデビュー作を含む、5編からなる短編集です。
ここがポイント
宮部氏のユーモアあふれる描写にクスッとしてしまいますが、ミステリー小説としての読み応えはしっかりとあります。
様々なアイデアが各作品に取り入れられていて、飽きることなく楽しめます。
スキマ時間に読むには最高の作品です。
12、『ソロモンの偽証』第Ⅰ部、事件上・下 第Ⅱ部、決意上・下 第Ⅲ部法廷 上・下
ここがポイント
男子中学生が校舎からの転落死した事件をめぐり、生徒たちが空前絶後の学校内裁判を開く話です。
警察は自殺と断定しますが、殺害されたという告発状が届けられることにより、様々な憶測や疑惑が飛び交うことになります。
序盤での事件の疑惑に憶測が飛び交い、謎が深まり、終盤ではその伏線を回収していく流れになっています。
「模倣犯」と並び称されるほど、人気がある作品を堪能してください。
13、『夢にも思わない』
親友「島崎君」シリーズの第二弾で、虫聞きの会で殺された、同級生クドウさんの従妹についての噂の真相究明を私、緒方と親友の島崎君で解明していく話です。
ここがポイント
小さな罪から生まれた大きな罪が、取り返しのつかない、出来事にまで発展していってしまうのです。
恐怖から逃れたい一心で、周りを見失ってしまい、自分自身も失ってしまうのです。
事件の謎解きと共に、人物描写に凝った面白い作品です。
14、『パーフェクト・ブルー』
元警察犬の「マサ」シリーズで、マサの視点で描かれている話です。
高校野球界のスーパースターが焼き殺される衝撃的な事件が発生、事件はほどなく解決へと向かって行くと思われたのですが、二転三転の展開が待ち受けていたのです。
事件を掘り下げていくにつれ、製薬会社の人を人とも思わないような倫理に反する陰謀が明らかになっていきます。
ここがポイント
人を見る視点の優しさや温かさが、伝わってくる作品です。
15、『名もなき毒』
杉村三郎シリーズの第二弾であり、勤務態度に問題がある女性アルバイトの原田いづみを解雇したところから話は始まります。
人に毒をまき散らし、自らの存在を誇示するクレイマーの原田の対処と、連続青酸カリ毒殺事件に巻きこまれていく杉村。
ここがポイント
様々な毒が重なり合い、その裏側にいる、人間の姿が大きなテーマとして描かれています。
このシリーズは確かに中毒になってしまいそうなほど、面白い作品です。
16、『返事はいらない』
宮部みゆき氏の魅力のすべてが凝縮された、6編からなる短編集です。
共通しているモチーフは大都会、東京であり、人情の機微を描いています。
大都会であるが故の虚像と、日常の生活とのギャップを捉えた話が多く取り入れられています。
ここがポイント
どの話も長編に値するような価値があり、あえて短編にすることで、読後の余韻を残しているようです。
忘れかけていた人間味がとても味わえる作品です。
17、『長い長い殺人』
10個の財布が語る、込み入った連続保険金殺人事件の話です。
一つの事件を様々な視点から辿っていくのですが、その視点というのが、登場人物が持っている財布なのです。
ここがポイント
持ち物はその人の性格を表すと言いますが、一つひとつ違う財布が、その人の個性をよく表して語ってくれるのです。
自分の持ち物が、自分のことをどう思っているのか、聞いてみたくなってしまいます。
18、『あやし』
宮部みゆき氏、渾身の時代物ホラーを綴った9編からなる短編集です。
ものすごく、おどろおどろしくて、怖いわけではありませんが、何かじわーっと湧き上がってくる恐ろしさがあります。
ここがポイント
昔も今も人間を悩ませたり、疑念や恐怖を抱かせたりするものは、人そのものであることを教えてくれているようです。
人の怖さを念押しするような作品です。
19、『堪忍箱』
人の苦しさが沁みる、ミステリー仕立ての時代小説8編を綴った短編集です。
江戸に生きる貧しい庶民の日常から浮かびあがってくる、何気ない謎や、怖れや苦しみなどが描かれています。
文章に不自然さがなく、あたかも自分が江戸時代の町中に存在しているなような、感覚になってしまいます。
ここがポイント
小さな喜びを守るという事が、とても幸せにしてくれるように思える作品です。
20、『鳩笛草―燔祭/朽ちてゆくまで』
超能力を持った、三人の女性を描いた三つの話です。
それぞれ、予知夢、パイロキネシス(火を発生させることができる力)、サイコメトリー(物体に触れることにより、そこに残された人の記憶を読み取る力)といった特別な能力を持った女性が登場します。
ここがポイント
他人とは違う超能力を持つが故の苦悩や葛藤、生きづらさを見事に描いています。
現実の人間社会を抉るような作品です。
21、『この世の春』上・中・下
乱心の為に若くして、君主の座を降ろされた北見藩藩主の北見重興と、彼に仕えることとなった女性、多紀を中心に描かれた話です。
重興の乱心とは現代における、多重人格障害による不可解な言動のことですが、周囲の人々に支えられて、少しずつですが、症状が緩和していくのです。
多紀や元家老の石野織部、主治医の白田、北見家の別邸、五香苑の使用人たちの真直ぐな想いが、随所に織り込まれていて、五香苑の美しい情景と人々の生活に穏やかな日々を感じてしまいます。
ここがポイント
そして重興の身に起きた忌まわしい過去の真相が一つひとつ暴かれていくにつれ、それは単なる謎明かしではなく、複雑極まりないものが幾重にも重なっていたのです。
予想だにしない展開が待ち受けている、時代小説のサイコ&ミステリー作品です。
22、『昨日がなければ明日もない』
杉村三郎シリーズの第五弾であり、ちょっと困った女たちを題材にした3編からなる中編集です。
自殺未遂後、行方不明の主婦と最低最悪な男たち、訳あり新婦たちと最低な新郎たち、自己中心のシングルマザーとその娘など、どれも絶対に関わりたくない人間たちが描かれています。
人格者の杉村探偵が、問題のある女性たちの依頼を完璧な手腕で、こなしていきます。
天の配剤により自分で自分を不幸にしてきた女性は、因果応報を受けることで現在苦しんでいるのです。
ここがポイント
昨日のあなたがあるからこそ、今のあなたがあり、明日のあなたがあるのです。
何もかも受け入れて、前向きに進まなければ、幸福な未来はないと思わせてくれる作品です。
23、『さよならの儀式』
多種多様な話が詰まった8編からなるリアルに思えてしまうSF短編集です。
ロボットや人造人間、屍者などに関する、現実にはあり得ないものが描かれています。
ここがポイント
それらは一見全く別の話ですが、その根底にはいろいろな「さよなら」があり、さよならの前と後には必ず何らかの事象があって、感情の変化が伴っているのです。
普段通りに随所に散りばめられた言語表現の豊富さに改めて驚きを感じつつ、安心感も覚えながらワクワク感がいっぱいになってしまいます。
最後まで余すことなく楽しめる、迫力のある作品です。
24、『黒武御神火御殿 三島屋変調百物語六之続』
三島屋変調百物語シリーズの第六弾であり、恐ろしくも愛おしい極めつきの怪異と不思議が詰まった、3編からなる短編と表題作の中編が一編綴られています。
百物語の聞き手が、おちかから、富次郎に変わり、雰囲気が一新します。
素直に語られる内容を怖ろしがったり、語り手から漏れてくる苦悩の受け止め方に苦心したりと、おちかとは、また違う形で面白味が味わえます。
怪異からすると因果応報であったとしても、巻き込まれた人たちにとっては、理不尽この上ない出来事であり、人生を狂わせてしまうものだったのです。
表題作の今までになかった、圧し掛かってくるような重たい恐怖には思わず、おののいてしまいます。
ここがポイント
やはり安定の面白さが味わえるシリーズ作品です。
25、『きたきた捕物帖』
ちょっと気弱な岡っ引きの見習いの北一が、後に相棒となる喜多次と出会い、周りの人たちの協力を得て、事件や不思議な出来事を解決しながら成長していく話です。
人望が厚くて有能な千吉親分が急死した後、親分の手下は散り散りになってしまいます。
そんな中、親分の生業であった文庫(本や小間物を入れる箱)売りを引き継いだのは、一番下っ端で頼りないけど、ひた向きで真面目な北一だったのです。
また「初ものがたり」に登場した謎の稲荷寿司屋の正体も明らかになるなど、堪らない仕掛けが用意されていてかなり楽しめます。
ここがポイント
謎解き・怪異・人情が味わえる痛快で読み応えのある、新シリーズの時代ミステリー作品です。
まとめ
宮部みゆき氏の作品は実に多彩で時代物あり、SFあり、ファンタジーありといろいろと楽しませてくれます。
ファンの方は勿論、これからファンになる人には是非読んでいただきたい25作品になります。
ご紹介した作品の他にもまだまだ素晴らしいものがたくさんあります。
あなたも、宮部みゆきワールドへ探検にでかけてみてはいかがでしょうか。