今までにないタイプのホラーを描く、鈴木光司氏のおすすめ作品10選をご照会させていただきます。
大学卒業後は専業主夫の傍ら、自宅で学習塾を開き、全教科を教えながら、小説を執筆していたそうです。
1990年に「楽園」という作品が日本ファンタジーノベル大賞優秀賞を受賞して、作家デビューを果します。
鈴木光司おすすめ作品10選をご紹介~根源的なテーマは善と悪~
1991年に刊行された「リング」という作品が、大きな話題を呼び、映像化もされてホラーブームの火付け役となります。
またその続編である「らせん」は1995年に吉川英治文学新人賞を受賞します。
2013年には「エッジ」でアメリカの文学賞であるシャーリイ・ジャクスン賞の長編賞を日本人で初めて受賞します。
主夫として子育てを行っていたことで、エッセイは子育てを扱ったものが多くあります。
そんな鈴木光司氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『楽園』
はるか昔、古代に引き離された男女が、時代を超えて、再び巡り合うという壮大な話です。
赤い鹿をキーポイントとして物語は展開していき、全ての部を通して、砂漠の荒涼さや積雪地の極寒さ、そして物語の転機となる地震や津波など、自然に関する描写がありとあらゆる手法で描かれています。
また遠い未来の子孫同士が巡り合う形は、転生という東洋的な概念を想起させ、作中の人物にしても遊牧民や褐色の島民など、全体を通してアジア的な色合いを濃厚に感じさせてくれます。
ここがポイント
最後の舞台の鍾乳洞では、自然の厳しさに翻弄されながらも、それに敢然と立ち向かう人間の強さが美しく表現されています。
真直ぐで純粋な意気込みに溢れた、鈴木氏渾身の作品に間違いないと思います。
2、『リング』
一本のビデオテープを観た四人の少年少女が、同日同時刻に苦悶と驚愕の表情を残して、死亡してしまうという話です。
雑誌記者の浅川は、その死の謎に魅入られるように調査を始めるのですが、そのことが死のタイムリミット付きの恐怖へ招かれることになってしまうのです。
果たして浅川の運命はどうなってしまうのでしょうか。
かの有名な映画の原作であり、映画の恐ろしいシーンを想像してしまいますが、原作は全く別物といった感じです。
ここがポイント
貞子も実に人間らしく、彼女の境遇には同情さえも覚えてしまうほどです。
ビデオテープによる呪いの拡散は、現在振り返ってみても、秀逸な手立てであると思います。
まさしくホラー小説の金字塔作品です。
3、『光射す海』
入水自殺を図った妊娠中の女性と、その女性に関わる精神科医、彼女に好意を持った男性、そしてお腹の子の父親を中心に展開していく話です。
ここがポイント
妊婦の正体を探っていくところから、物語は始まり、やがてその家系の持つ特殊な遺伝性疾患に行き当たってしまいます。
愛するが故に本当のことが言えず、不安になっていく、さゆりと、その理由が分からないために理解できず投げやりになっていく洋一。
過酷な運命に翻弄されてしまった、さゆりと洋一は、ある宿命を背負っていかなければならないのです。
絶望的だと思える運命にも光明が射すことがあり、たとえそれが皮肉なものであったとしても、運命が切り開かれることに間違いないのです。
4、『らせん』
前作「リング」の続編であり、呪いのビデオによって死んだ高山竜司の司法解剖を、同級生だった同じ大学の医学部の安藤満男が担当するところから話は始まります。
高山が残したメッセージとウイルスの謎に迫っていき、前作「リング」での主人公で浅川和行が事件の顛末を記した「リング」が作中作として登場します。
ここがポイント
ホラーという言葉では括りきれないのが本シリーズの魅力であり、追い込まれていく人類と、閉塞感漂う社会情勢が上手くマッチングしていて、古さを感じさせません。
自らの物語を注釈することで、新しい物語を生成しつつ、前作を変質させるしくみを取っているシリーズ作品です。
5、『仄暗い水の底から』
東京湾の水(海)が共通のテーマとなっている7つのホラー短編集です。
背すじがゾクゾクするような怖い話から、なるほどと納得できるうならせる話などが綴られています。
そして主人公と同じように暗闇の恐怖を味わった後の、心に染み入ってくる感動の話もあったりして楽しめます。
怪奇現象というよりは、主人公自らの妄想による恐怖であることが発端で、それぞれが不吉な存在を信じ、それらと自信が置かれた状況とを結びつけることで、単なる想像でしかなくても、その想像が主人公と支配し、戦慄させてしまうと感じてしまいます。
ここがポイント
ダイレクトな水(海)の怖さというよりも、じとっとした気味の悪さが味わえる作品です。
6、『ループ』
「らせん」の続編であり、コンピュータ内の仮想空間に”生命″を誕生させ、生命の進化を模した、もう一つの世界を創ろうとした話です。
本作の主人公の二見馨は、ループ界のタカヤマが蘇った人物であり、蘇りの過程で、リングウイルスから変異した転移性ヒトガンウイルスがまき散らされてしまうのです。
ここがポイント
リング、らせんにおけるSFホラーの世界観をそのまま基盤において、更に異質なハードSFの世界に飛躍させてしまう技量には驚きを隠せません。
貞子をある意味切り捨てるというか、あれほど猛威を振るった貞子がもはや、脇役以下の存在に定義されない潔さも感じてしまいます。
癌細胞に侵されていく世界を、救おうとする主人公、馨の奮闘ぶりや、遺伝子、DNA、情報工学などのSFをどっぷりと堪能することができる作品です。
7、『バースデイ』
「リング」、「らせん」、「ループ」の空白の部分を埋める3編からなる短編集です。
高野舞という人間について振り返りながら、山村貞子が生まれる過程を描いた話や、劇団で山村貞子と恋人関係にあった人間から見た山村貞子の話など、ホラーの一遍というよりも、話の補完になります。
特に礼子のその後であるハッピーバースデーによって、シリーズで一貫されてきた男の欲望、特に性欲による罪と混乱というテーマが、それの代償と共に、新たな生命を生み出す希望の行為であることを描くハッピーエンドなのです。
ここがポイント
リングシリーズの世界の辻褄が合い、全貌が明らかになる作品です。
8、『エッジ』上・下
日本各地で発生する大量失踪事件について、18年前に失踪した父を持つルポライターの栗山冴子とテレビ局のディレクターである羽柴たちが真相に迫っていく話です。
上巻では、人間の失踪を軸に何か大きな、宇宙規模の出来事が、起ころうとしていることを匂わせてくれています。
また随所でぬめっとした怖さを感じる描写もあります。
下巻に至っては、謎の失踪事件が一気に遥か銀河の星々が消滅する話に拡大し、終盤に至っては天使と悪魔の話まで変化していきます。
ここがポイント
世界の起源、物理学、宗教などが見事に融合された作品の雰囲気に圧倒されてしまいます。
9、『エス』
映像制作会社に勤める安藤孝則が、自殺動画の分析を依頼され、動画の作成者を探していく話です。
映像を分析するため、何度も動画を再生していると、動画の中の男が少しずつ不気味に変化していることに気付いてしまうのです。
そして途中で、安藤のフィアンセである高校教師の丸山茜が、何かに導かれるように、その動画を見てしまうのです。
動画に写っていたのは、連続少女殺人犯の柏田誠二という男であり、茜もこの柏田に殺されそうになった過去があったのです。
ここがポイント
今までのリングシリーズの面々が複雑に絡み合って、新しいリングミステリーを紡いでいくハラハラする楽しさが味わえる作品です。
10、『ブルーアウト』
日本とトルコの友好の原点である、エルトゥールル号の沈没事故と並行して、その関係者の子孫らの運命的な交流を描いた話です。
かって和歌山県串本沖で1890年に遭難したエルトゥールル号の事故の様子と、現代の串本でダイビングインストラクターとして暮らす高畑水輝の家族たちの様子が、交互に描かれていて、それによってかって生まれた繋がりが現在にも脈々と続いていることを感じます。
ここがポイント
絶望と希望を繰り返しながらも、5世代を超えて繋がった奇跡のような結末にたどり着ける作品です。
まとめ
鈴木光司氏のおすすめ作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
鈴木氏と言えば、ホラーが有名ですが、その他にも感動ものも執筆しています。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。