昭和を代表する作詞家であり、直木賞受賞作家でもある、なかにし礼氏のおすすめの作品8選を、ご紹介させていただきます。
満州国(現在の中華人民共和国)生まれで、大学卒業後、シャンソンの訳詞家を経て、作詞家の道を歩んでいきます。
「石狩挽歌」、「時には娼婦のように」他、多くのヒット曲の作詞を手掛け、黛ジュン氏の「天使の誘惑」、菅原洋一氏の「今日でお別れ」、細川たかし氏の「北酒場」の作詞で、日本レコード大賞を3度受賞しています。
なかにし礼おすすめ作品8選をご紹介~不屈の精神で挑み続ける力~
その他にも、日本レコード大賞作詞賞を2回、ゴールデンアロー賞、日本作詞大賞など、たくさんの受賞歴があります。
1998年には兄と自分を描いた小説「兄弟」が、第119回直木賞の候補にあがり、作家デビューも果します。
そしてついに、2000年に「長崎ぶらぶら節」で、第122回の直木賞を受賞します。
まだまだ活躍が期待された、なかにし氏ですが、2020年暮れに持病の心臓病が悪化し、その生涯を閉じてしまいます。
そんな、なかにし礼氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『兄弟』
特攻隊の生き残りの兄の、その破天荒とも破滅願望とも取れる人生観に、振り回される弟(礼氏)を中心に描いた話です。
実兄との長年の確執が描かれていて、8歳で満州から命からがら引き上げてきた、なかにし礼氏の半生記でもあり、戦後昭和史の一面も伺えます。
億単位の借金を弟に肩代わりさせて、当たり前と悪びれもせず、虚勢を張っていた兄。
性格破綻者と言っていい兄に人生のいたる所で、振り回されてきた、なかにし礼氏ではありますが、作詞家としての成功は逆説的に、この兄あっての克己心の賜物ではないかとも思ってしまいます。
ここがポイント
母を含めて三つ巴の共依存の凄まじい物語であり、名曲「石狩挽歌」や「時には娼婦のように」などの歌詞が実体験の深いところに根ざしていたのかも知れません。
「兄さん、死んでくれてありがとう」の言葉が衝撃的な作品です。
2、『長崎ぶらぶら節』
「長崎ぶらぶら節」を発掘した芸者、愛八と郷土史家、古賀十二郎の恋を描いた物語です。
貧農の10歳の娘が、売られて芸者になった愛八には、微塵の暗さもなく、それだけで、気持ちが晴れるような気分になります。
ここがポイント
愛八と十二郎はお互いに認め合い、惹かれ合いながらもプラトニックな関係を続けていくのです。
そして切支丹の村で出会った「長崎ぶらぶら節」との感動的な出会いにより、一人の娘、お雪を救うことになるのです。
献身的に働き、自らの命を賭した愛八の後生に、感動させられる作品です。
3、『赤い月』上・下
第二次世界大戦末期の満州国が舞台となっていて、壮絶な一生を送った森田波子の生涯を綴った話です。
夢と野望を胸に渡った満州の地で、馬賊の襲撃に怯えつつも、森田勇太郎は、森田酒造を満州一の造り酒屋にまで成長させていくのです。
しかし、勇太郎不在の中、ソ連軍の侵攻と満州人の暴動に遭い、儚くも森田酒造は崩壊してしまうのです。
そしてその妻である波子は二人の子供を抱え、明日の命おも知れない逃亡生活を余儀なくされてしまいます。
ここがポイント
波子は自分と一家を守るために、たとえ子供たちの目の前であろうと、人道にはずれたことも、しなければならなかったのです。
なかにし氏自身の経験もかなり盛り込まれていて、人の人生は計り知れないと感じながらも、不思議な気持ちを抱いてしまう作品です。
4、『てるてる坊主の照子さん』上・中・下
戦前から戦後にかけての大阪、池田市が舞台であり、結婚して4人の子供を育てながら、家業のパン屋と喫茶店を経営した石田照子さん一家の明るいながらも、ほろりとする話です。
ここがポイント
このお話は、作者のなかにし氏の奥様である、石田ゆり氏の家族をモデルにしているとのことで、NHKの朝ドラでも放送されていました。
夫婦にはそれぞれ、春子、夏子、秋子、冬子と4人の子供がいて、長女の春子はフィギュアスケート、次女の夏子は歌手、女優で名を成したのです。
照子のペースに家族全員が巻き込まれ、それが功を奏する時もあれば、逆効果の時もあるという展開になっています。
かなりのポジティブ思考が貰える作品です。
5、『夜盗』
現役最後の事件として、外国人宅窃盗犯逮捕に執念を燃やす刑事、柏田が挑んでいく話です。
物的証拠が少なく、捜査が難航を極めていく中、再び外国人宅を狙った窃盗事件が発生するのです。
手掛かりは現場に残された犯人の足跡だけだったのですが、その侵入手口を見た柏田は、30年前のこれに酷似した事件を捜査したことを思い出してしまうのです。
そしてやがて、正体が明らかになる容疑者との間に、生まれる切ない恋愛に、心が揺さぶられてしまうのです。
ここがポイント
犯人を愛するが故に、追い詰めていくことに、苦悩する刑事の姿が切なすぎる作品です。
6、『戦場のニーナ』
戦場で奇跡的に生き残り、ロシア兵によって救出された日本人のロシア残留孤児ニーナの話です。
戦争の被害者は、いつの時も弱い者だと実感させられてしまいます。
ニーナの人生は正に愛の物語であり、幼少期には養母に愛を求め、青春期には恋人との愛に溺れてしまうのです。
そして時代が二人を引き裂き、皮肉にもその愛が原因で、生命の危機にさえ遭遇してしまうのですが、その危機を救ったのもまた養父の愛だったのです。
ここがポイント
一人の女性の人生が、怒涛の勢いで展開していった愛の物語です。
7、『生きる力 心でがんに克つ』
食道癌を患ったなかにし氏が、陽子線治療法というのがあるのをネットで見つけて、その治療をし、完全寛解した過程を綴った話です。
癌という病に対して、医師の言うがままの治療ではなく、セカンドオピニオン、さらには自分自身が納得するまで、治療法を探すなかにし氏が逞しく思えました。
この作品が契機となり、陽子線治療の認知度が、かなり広まったようで、癌患者の方たちにとって、またひとつの治療法が選べるようになったとのことです。
ここがポイント
自分の命は自分で守るしかないという事を、子供の時に満州で学び、正になかにし氏は自身で陽子線による治療方法を見つけ、癌を成敗したのです。
生き方への警鐘を鳴らしている作品です。
8、『夜の歌』上・下
なかにし礼氏の生涯を綴った、渾身の自叙伝です。
満州での悲惨な逃避行と、作詞家として頂点を極めていく昭和の時代との間を、何度も繰り返して、行き来しているかのように思います。
作詞家として生きるには、それまで封印していた辛い満州の記憶を呼び戻し、それに正面から向き合う以外にはなかったのです。
ここがポイント
癌の再発で吐血し、死と向かい合った者にしか描けない世界と、走馬灯のように巡る思い出を書き留めた内容なのです。
癌と戦いながら、後世に自分の足跡を伝え記す、なかにし氏の気概が漲っている作品です。
まとめ
なかにし礼氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
幼い頃からの壮絶な経験が、彼の創作の源になったのかもしれません。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。