イヤミスの新たな担い手との呼び声も高い、まさきとしか氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
1965年東京生まれで、現在は札幌市に在住、1994年「パーティしようよ」という作品が、第28回北海道新聞文学賞佳作に選ばれます。
2007年には「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞(創作・評論部門)を受賞します。
まさきとしかおすすめ作品8選をご紹介~人間の心の闇に迫る描写~
母親の子供への歪んだ愛情を題材にした「完璧な母親」という作品で注目され、その人間の心の闇に迫る緻密な描写が、読書ファンに評価されています。
また「あの日、君は何をした」という作品では、一人の少年の事後死を巡り、15年の時間軸が交錯するミステリーを描いています。
好きなニュースや意見、好きな言葉にだけ意識を向けていては、そこからは何も生まれなく、心に感じたものを常に把握し、自分の内面を見つめていく作業を怠らないように、日々努力しているそうです。
そんな、まさきとしか氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『完璧な母親』
不慮の事故で息子を亡くし、その後に生まれた娘を息子の生まれ変わりだと信じることで、自分を保とうとする母親の話です。
幼い息子を亡くし、生まれ変わりと信じて疑わない子を宿す母の気持も分かります。
過保護、過干渉など度が過ぎてしまう気持ちも、良く分かります。
父親と母親のもういない息子への思いの温度差も、父親が愛人に走る姿も、とてもリアルすぎます。
ここがポイント
亡くなってしまったからと、無かったことにできない母親が痛々しく、兄の生まれ変わりとされる妹も、生まれながらに重たいものを背負わされているのです。
新聞記者がかき乱したことによって、辛いであろう兄の死の真相が分ってしまうのです。
スッキリとは言えない読後感であり、やはり、イヤミスです。
2、『果てる 性愛小説アンソロジー』
7人の実力派女性作家が濃密に描き出す、生と性のアンソロジーです。
入り込んでしまったら、もう逃げだすことのできない深いところを、知ってしまうことは、果たして幸せなのでしょうか。
いや、知らない方が幸せなのかも知れません。
どんな話なのか身構えて読み始めましたが、そこは今を時めく作家陣、性愛と銘打ちながらも、その裏の裏を掘り起こしていくような作品ばかりで、かなり楽しめます。
ここがポイント
性を通してでなければ、知ることが出来ない人間の奥深い感情が、味わえる作品です。
3、『きわこのこと』
きわこという一人の女に関わったが故に、翻弄されて、人生を転落していく、5人の老若男女を主人公とした連作短編集です。
物語は最初に事故或いは事件を起こし、新聞記事になってしまった人物を中心に描かれ、時代は過去に遡り、きわこの人となりが見えてくる設定になっています。
これでもかと不幸が続き、総じて救いを感じることが出来ないのですが、一人の女がどこまで人を落としていくのかが気になります。
深く関わった人間は結果的に不幸になり、もう少し外側にいれば、甘やかな記憶を、もっと浅いなら地味な印象を残していたであろう、きわこ。
人を惑わす魅力があったと思われ、深入りしてはいけない女だったのです。
ここがポイント
油断していたら、迷子になりそうな作品です。
4、『いちばん悲しい』
男性が刺殺された事件を軸に、被害者の妻、娘、愛人、捜査担当の女刑事など、いろいろな人(主に女性)のいろいろな気持ちが描かれている話です。
ある大雨の夜、一人の冴えない中年男性が、雨の路上で殺されてしまうのです
そしてその結果、不倫相手の若い女、死後に不倫&借金を知りボロボロになる家族、逆恨みする人物など、とにかくどの人も自分勝手で自分がいちばん悲しい存在だ思い、周りが見えなくなっているのです。
ここがポイント
女たちの凄まじい自己憐憫を描きながら、殺意の根源を思いもよらぬ方向から、引っ張る展開には驚かされてしまいます。
この物語に出てくる女性たちは皆、ただ平凡な幸せが欲しかっただけなのです。
多くを望んだわけではないのに、何故こんな目に合うのか、身勝手なようでもその嘆きは痛々しく感じてしまいます。
無垢でありすぎる事の、恐ろしさが、強烈な印象を残す作品です。
5、『ゆりかごに聞く』
娘への虐待を理由に離婚し、元夫に娘を奪われてしまった宝子、さらにそんな宝子の元に21年前に亡くなった父親の遺体が見つかったという知らせが届く話です。
21年前に亡くなったはずの父親の死の真相を辿るうちに、宝子自身の出生に秘密があったことが明らかになっていきます。
子供を産んだからといって、すぐに母性が備わるわけでもなく、いう事を聞かない子供を愛せない瞬間って誰にでもほんの少しだけあるのかもしれません。
ここがポイント
血の繋がりよりも、その子が育った環境で、いかに愛されていたかが、大切なのです。
母親と子供の関係性に、胸を締め付けられる作品です。
6、『熊金家のひとり娘』
北海道の孤島で、お祓いを生業とした家に生まれた一子の波乱の人生を描いた話です。
北国のさびれた孤島で、強制される「さだめ」から逃れようとする少女と、その少女がやがて生んだ子供たちに視点をあてて、物語は展開していきます。
彼女達は皆それぞれにもがき苦しみ、どこかもっと楽に過ごせるところを探し求めているのです。
ここがポイント
全編に渡り、その暗さが澱みのように漂うのを味わいつつも、同時に逃げ出したくなるような閉塞感に襲われてしまいます。
さまざまな因縁が絡み合った、母と娘の濃密な作品です。
7、『屑の結晶』
2人の女性を殺害し、逮捕時にカメラに向かって、笑顔でピースサインをした小野宮楠生の話です。
複数の女性のヒモであった彼は、本名をもじって、クズ男と呼ばれていたのです。
そんな楠生の弁護を引き受けた宮原は、隠された過去と人間関係を探るうちに、楠生の哀しくも切ない残酷な事実を突き止めていくのです。
ここがポイント
処世術を学ばずに生きてきた楠生が「女を幸せにするのは、金と、力と、優しさ」という言葉を信じていたのが、悲しすぎます。
章を追うごとに明らかになっていく真実と共に、切なさと救われない暗さが最後までまとわりついてくる作品です。
8、『あの日、君は何をした』
2004年に起きた男子中学生の死亡事故から、15年の時を経た2019年に若い女性が殺害され、その不倫相手の男性が行方不明になるという、何のつながりもないような2つの事件が絡み合っていく話です。
傍目に見れば、狂気を纏って尋常でないと思える母親たちの言動も、当事者にしか分からない苦しみを思うと、責めることはできなくなってしまうのです。
遺された人たちは、大事な人が何故、死ななければ、ならなかったのかを知りたいと願うのです。
しかし「あの日、君は何をした」かが分かったからといって、決して救われるわけではないのです。
ここがポイント
人を想うことも、間違えた方向に進むと、ここまで狂気を纏うのかと思える作品です。
まとめ
まさきとしか氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
人間の心の闇に迫る緻密な描写は、感じて頂けましたでしょうか。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみて下さい。
そして、イヤミスの醍醐味を味わって下さい。