社会派ミステリーの名手として知られる、小杉健治氏のおすすめの作品を8選ご紹介させていただきます。
コンピュータ専門学校卒業後、プログラマーとなり18年間、会社勤めをしています。
1983年に「原島弁護士の処置」という作品で、第22回オール讀物推理小説新人賞を受賞し、小説家デビューを果します。
以降1987年に「絆」で第41回日本推理作家協会賞の長編部門を、1990年には「土俵を走る殺意」で第11回吉川英治文学新人賞を受賞するなど、社会派推理を中心に執筆しています。
小杉健治おすすめ作品8選をご紹介~人の微妙な心の機微を描く~
小杉氏はいつかは時代小説を書いてみたいという気持ちがあったようで、その思いが叶うことになるのが、2000年前後に時代小説執筆のオファーきてから、本格的な執筆に至ったようです。
そして、いくつか時代短編を書いたのちに、本格的に長編を書くことになったようです。
当時は時代小説を書きたかったのですが、家族の物語も書いてみたいと思う気持ちもあったようで、それなら、いっその事、与力の家族物語を書いてみようと思ったそうです。
今回は小杉健治氏の時代小説以外のおすすめの作品8選を、ご紹介させていただきたいと思いますので、お楽しみください。
1、『二重裁判』
殺人容疑の無実を叫びながら、公判中に自殺した兄、古沢克彦の無実と名誉を取り戻そうとする妹、秀美の話です。
法律上、公判中に被告人が死亡した場合、無実の状態のままでの死亡とみなされるとのことだそうです。
ここがポイント
ところが、本当に無罪だった場合でも、逮捕されて、マスコミで報道された時点で、世間は有罪の印象を持ってしまうものなのです。
そしてその汚名を晴らそうにも、有罪判決が下されていないために、再審請求もできなくなってしまうのです。
果たして兄の潔白を信じて止まない、妹、秀美のとった策とは一体・・・。
先の読めない展開に驚かされ、引き込まれてしまう作品です。
2、『絆』
夫殺しの起訴事実を全て認めた妻である被告人の弓丘奈緒子と、あくまで無実を主張する弁護人の原島保の話です。
裁判が進むにつれ、二転三転する真実、そして被告人が考える利益と弁護人が考える利益の違いが明確になっていきます。
頑なに被告人が隠そうとしたことは何なのか、たった一人で法廷で闘う原島弁護人が、真相を解明していくことで、悲しい絆が浮かび上がってくるのです。
ここがポイント
裁判とは真実とは一体何なのでしょうか、明らかにすることで誰かの人生を破壊してしまう事だってあると思います。
それでも法廷で、明らかにしなくてはいけない理由があるのです。
3、『それぞれの断崖』
不登校で、家庭内暴力をふるう中学生の息子が刺殺され、犯人扱いされた父親の話です。
犯人が息子の同級生だと分かっても、世間やマスコミからバッシングされ、崩壊していく過程が描かれています。
少年というただそれだけで、守られる加害者ですが、法律は誰のためのものなのだろうかと思ってしまいます。
少年を担当する弁護士の態度や言動、人格者と謳われている人々の発言、マスコミ、そして世間一般の部外者など、それぞれの無責任な意見を聞いて、胸が苦しくなってしまいます。
ここがポイント
人間の感情とは理性や倫理に打ち勝つことが、できないものなんだとつくづく思います。
感情移入しながら、入り込むことができる作品です。
4、『家族』
認知症の老女が殺害され、ホームレスが容疑者となる話です。
裁判員制度の裁判であり、量刑を決めるだけだったはずが、ホームレスが何故殺害を犯し、何故重い刑を望むのかが焦点となっていきます。
同じような痴呆症の母親を抱える女性が、その真相を裁判員として明らかにしていきます。
歳を取り、家族に迷惑をかけずに逝きたいと思う心、相反して、介護に自身の人生を翻弄される子供の気持ちが描かれています。
ここがポイント
実際の法廷では、このような積極的な裁判員の発言は難しいと思いますが、家族の在り方を考えさせられる作品です。
5、『父と子の旅路』
ここがポイント
自分の両親と祖父を惨殺された弁護士が、皮肉にも犯人である確定死刑囚の弁護をする話です。
現実ではあり得ない設定ですが、弁護士の出生の秘密や動機が絡み、そして本当は無実なのに自ら死刑を望み、頑なに真実を語ろうとしない死刑囚なのです。
弁護士は何とか真相に近づいていくのですが、もう少しのところで、死刑執行命令が下ってしまうのです。
しかし、ある人物の告白で、一気に事態が動き出し、一刻一秒を争う展開になっていきます。
様々な親子の愛が凝縮された作品です。
6、『父からの手紙』
子どもの頃に突然、家族を捨て失踪した父から、毎年、誕生日になると娘の麻美子と息子の伸吾宛に手紙が届く中、不幸な出来事が次々に起きる話です。
ある日、麻美子の婚約者が何者かに殺害され、弟の伸吾が容疑者にされてしまうのです。
また、一方で悪徳刑事に強請られていた、義姉を助けるために殺人を犯し、9年の服役後に出所して圭一。
お互いの事件の真相を探るうちに、2つの物語が絡み合っていき、やがて連結していきます。
ここがポイント
親子の情を描くヒューマンドラマとしても、いくつもの事件が複雑に絡み合うミステリー小説としても楽しめる作品です。
7、『冤罪』
練炭自殺かと思われた男の死体に不審な点が見つかり、男と関係があった銀座のホステス、美奈子に容疑がかかる話です。
警察の捜査が進むにつれ、今まで美奈子と関わった男たちが、すべて練炭自殺していたことが、明らかになります。
そして無実を証明するために、担当の鶴見弁護士が捜査を開始しますが、調べれば調べる程、美奈子の怪しい事実が浮かび上がってくるのです。
自殺者と美奈子を結びつける医療施設の存在と、自殺に対する独自の考えに美奈子が感化された事実が明らかになっていきます。
ここがポイント
真実を追求する鶴見弁護士の真骨頂が発揮され、尊厳ある死という骨太いテーマが根底にあり、読む者に訴えてくる作品です。
8、『覚悟』
ここがポイント
冤罪の可能性が高い殺人事件において、下された死刑判決の話です。
無実を主張し続けていた被告人の川原でしたが、控訴せず判決を受け入れようとしていきます。
しかし無実を信じる主人公の弁護士である鶴見は被告人に控訴をさせるべく、真実を探っていくのです。
果たして控訴期限までに、鶴見は川原の気持を翻すことができるのでしょうか、終盤は息もつかせぬ展開で祈る様な気持ちになってしまいます。
事件の背景に潜む川原を取り巻く人間ドラマが丁寧に描かれている作品です。
まとめ
小杉健治氏のおすすめの作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
人間の内に秘めた微妙な心の機微を感じて頂けると思います。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみて下さい。
読書の楽しみが広がりますよ。