不思議な吸引力を持った津原泰水氏のおすすめの作品10選をご紹介させていただきます。
津原氏は大学在学中から、ライターとして、編集プロダクションでアルバイトをしていたとのことです。
卒業後は印刷会社に就職をしますが、短期間で辞めてしまい、かってのアルバイト先に舞い戻ったようです。
そして、この事務所からの依頼に応じて書き上げた「星からきたボーイフレンド」という作品が、津原やすみ氏の作家デビュー作となります。
津原泰水おすすめ作品10選をご紹介~幻想的で独特な世界観~
1997年には津原泰水名義で「妖都」という作品を発表し、一躍注目を集めます。
その後は、(幽明志怪)シリーズや「ペニス」、「少年トレチア」等の現像小説で人気を博します。
そして、2011年発表の短編集である「11eleven」という作品で、第2回Twitter文学賞を受賞し、収録作の「五色の舟」はSFマガジン「2014年オールタイム・ベストSF」の国内短編部門第1位にも選ばれ、漫画化もされています。
そんな津原泰水氏のおすすめの作品10選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『蘆屋家の崩壊』
幽明志怪シリーズの第一弾であり、軽妙なユーモアと気味の悪いおぞましさが同居した、8編からなる連作短編集です。
30歳を超えても定職に就かない主人公の猿渡と、ホラー小説家の伯爵が豆腐好きが縁で知り合い、日本各地を旅して怪異現象に遭遇していくのです。
ここがポイント
日常と非日常がいつの間にか何となく交じり合っていく様は、釈然としなくて何とも気持ち悪くなりますが、読み終えた時にはその中にどっぷりと嵌まり込んでいるのです。
幻想的な恐怖、民俗的なおぞましさがジワリとこみ上げてきて、特にストーカーの女の恐怖を描いた「猫背の女」と、虫に寄生された男を描いた「埋葬虫」にはゾッとさせられます。
不気味さに不思議な魅力が漂っている作品です。
2、『ルピナス探偵団の当惑』
ルピナス探偵団シリーズの第一弾であり、高校生が探偵役の本格ミステリーが3編収録されています。
語り口が軽妙であり、登場するキャラクターも生き生きとしていて、大変魅力的に描かれています。
殺人事件は起きますが、主人公たちの掛け合いがとても楽しく、笑わせてくれます。
ここがポイント
トリックについても、人間の思い込みや心理を活用していて、予想外でありながらも腑に落ちるものになっています。
笑える会話もどこか品が良くて、懐かしの少女漫画を彷彿させる作品です。
3、『綺譚集』
不気味且つ幻想的な作品が綴られている15編からなる短編集です。
様々な切り口で描きだされる文章は、怪しげな輝きを持って読み手を幻惑し、異郷の世界へと誘い込まれてしまいます。
まさに幻想的で色鮮やかな絵画を観たような、混沌とした異界を覗いてしまったような読後感に浸れ、もう日常へは戻ってこれないかという感覚にされてしまいます。
世界観も文体もまるで万華鏡のように、姿を変えながら展開していくのです。
幻想という名の異世界へ引きづりこまれてしまう作品です。
4、『ブラバン』
高校時代、吹奏楽部であった仲間たちが、同級生の披露宴をきっかけに、25年ぶりにバンドの再結成をする話です。
高校時代の吹奏楽部の仲間たちが再結成を目指す中で、交じり合うように紡がれていく現在と過去に引き込まてれしまいます。
現実を生きている現在と、過去の自分そして、変わったけれど変わらない青臭さを時折滲ませながら、甘酸っぱさを通り越して苦々しさすら醸しだしています。
ここがポイント
近くない過去になってしまった光景のノスタルジーに浸る程、年老いてもいないけれども、苦痛さえ美化されていた時代を鮮度のない今という現実から眺めているように思います。
現実をもう一度振り返れるような作品です。
5、『ピカルディの薔薇』
幽明志怪シリーズの第二弾であり、夢の中を漂っていいるように感じる9編からなる連作短編集です。
前作では定職に就いていなかった猿渡が、作家として歩み始め、再び不思議な事件に遭遇していきます。
ここがポイント
人間が怖いというよりも、人間が持つ執念や妄執が生命を得たかのように侵食して、取り込まれていく様が恐ろしく感じます。
物語りの中に異物を潜ませ、そしてそれが段々と確実に濃くなり、驚きの展開を見せてくれるのです。
虚実の混ぜ方が絶妙な作品です。
6、『たまさか人形堂物語』
たまさか人形堂シリーズの第一弾であり、世田谷にある人形店、玉阪人形堂を舞台に繰り広げられる、人形にまつわる話が詰まった、6編からなる連作短編集です。
祖母の形見の人形店を二人の押しかけ従業員と、修理をメインに切り盛りしていく社長の澪が描かれています。
ここがポイント
修理する人形への持ち主の様々な想いは深く重たく、時には歪であるも、愛と執着に溢れているのです。
天才肌で人形オタクの富永と熟練の職人といえる師村、そんな思いを図り行う修理はとても見事です。
それぞれ趣向を凝らした人形とそのエピソードは、ホッとするものもあれば、ゾッとするものもあり、人形に関する蘊蓄にも興味はつきません。
人の姿を与えられた人形は、様々な想いが宿り、遠い記憶をかきたててくれるのです。
あっさり読めますが、コクがある作品です。
7、『バレエ・メカニック』
一人の脳死寸前の少女を中心に巻き起こる、現実世界の変容とそれに伴う社会の変容が印象的な話です。
父と娘の交感という、ごく私的な物語を、東京全域へと拡大し、歴史的事件として近未来へと展開していきます。
SF的想像力によって、親子の愛を時空の拡大鏡で映し出した話であり、夢の中で錯綜する文脈に身をゆだねるように、夢が日常と化した東京を命がけで探索する事になります。
ここがポイント
非常にマジカルでファンタジックな作品です。
8、『瑠璃玉の耳輪』
尾崎翠氏の未完の映画脚本を80年の時を経て、津原泰水氏が小説化した話です。
舞台は昭和3年、瑠璃玉の耳輪をした三姉妹を捜すという依頼を受けた、女探偵、岡田明子。
古典的であり、淫靡なロマンティシズムを感じる幻想文学のようでもあります。
洋館に監禁されている美少女、美貌女探偵、横浜の阿片窟、見世物小屋等、どこか江戸川乱歩氏の世界を彷彿させる頽廃的な雰囲気があります。
退廃的で且つ、耽美な濃密世界が味わえる作品です。
9、『11 eleven』
想像力を刺激される話が詰まった11編からなる短編集です。
どの作品も先の展開が読めなく、最後に、静かに、それでも決定的に一寸先の闇へ放り出される感覚になってしまいます。
流麗な文章、一見乱雑にみえる語り口など、様々な文体をさらりと描き分ける技術に圧倒されてしまいます。
ここがポイント
作品それぞれに濃密な世界観もあり、短編とは思えないような余韻を与えてくれます。
どこか異なる世界を浮遊しているかのような感覚に陥ってしまう作品です。
10、「ヒッキーヒッキーシェイク」
JJという詐欺師のカウンセラーが4人の引きこもり達を連携させ、あるプロジェクトを始動する話です。
そしてヒッキー(引きこもり)達は疑心暗鬼になりながらも、次々とミッションをクリアしていき、そんな中でも社会とも折り合いがつけられるようになっていくのです。
ここがポイント
ヒッキー達が力を合わせた結果、世界を揺さぶり、まさにシェイクさせていくのです。
現実と幻想が入り混じる様な景色も見ることができる、妙な作品です。
まとめ
津原泰水氏の作品はお楽しみいただけましたでしょうか。
その幻想的で独創的な世界観を感じていただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しさが広がりますよ。