痛快時代小説を描く、風野真知雄氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
立教大学法学部を卒業後、20年近くフリーライターとして、活動した後、1992年に「黒牛と妖怪」という作品が、第17回の歴史文学賞を受賞し、作家デビューを果します。
2002年には、第1回北東文芸賞を受賞、2015年には、耳袋秘帳シリーズで、第4回歴史時代作家クラブ賞(シリーズ賞)、「沙羅沙羅越え」で、第21回中山義秀文学賞を受賞しています。
風野真知雄おすすめ作品8選をご紹介~人間味溢れる人物を描写~
風野氏曰く、小説を書く時の材料に苦労したことが無く、江戸時代に関するエッセイを読んだり、絵をながめたりしているうちに、頭の中に次から次へとアイデアが湧いてくるのだそうです。
また、風野氏自身、歴史にあまり興味がないそうで、他の作家の歴史小説も殆んど読まないそうです。
舞台設定として歴史を利用しているのであって、ストーリー仕立ては、現代小説とほぼ変わらないそうです。
文中の会話も現代語に近く、細かい説明を要するような時代背景はなるべく使わないで、読者がすんなり話に入っていけるように心がけているようです。
そんな風野真知雄氏のおすすめ作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『水の城ーいまだ落城せず』
豊臣秀吉の北条攻めで、数多くの支城のうち唯一落城しなかった忍城の攻防を描いた話です。
五百程の将兵で守る忍城に対し、石田三成が指揮をする包囲軍は、二万三千であり、舘林城を三日で落城させた三成は、忍城を落とすのに二日もあればと自信を見せていたのですが・・・。
また籠城戦の指揮を執る成田長親の表裏のない人間としての温かさが、一緒に籠城した近在の百姓や町人の心もまとめていくのです。
ここがポイント
物語の一人称の視点が、成田長親と石田三成と交互に変わり、そのお互いの策や心理状況などが、繊細に描かれているので、臨場感タップリに味わうことができます。
長親に策の助言をする油屋の多助や、物語に華を添える甲斐姫の存在など、脇を固める登場人物も魅力的な作品です。
2、『消えた十手 若様同心徳川竜之助』
幕末、御三卿、田安徳川家の若様である徳川竜之介が、同心になって活躍する話です。
ざるの上に盛られたざるそばに、つゆをかけ、床にこぼしてしまったり、鮨につける醤油をすすってしまったりと、世間知らずな一面もあるのですが、幕末の情勢を客観的に見極める頭の良さや、柳生新陰流の後継者としての剣豪でもあったのです。
イケメンで女性にももて、純粋で優しい性格という完璧なキャラ設定になっています。
ここがポイント
重すぎず、安心して気楽に楽しめる物語ですが、ちょっと捻りもきいていて、さらにとぼけた味わいが堪らなくいいのです。
今後の展開が楽しみなシリーズ作品です。
3、『妻は、くノ一』
星が好きで、いつもぼんやりとした変わり者である平戸藩、御船手形書物天文係の雙星彦馬は、嫁入りして僅か一月足らずで失踪した美人妻の織江を探す為、江戸へ出向く話です。
疾走した妻、織江は何と平戸藩の密貿易を怪しんだ幕府が送り込んだ密偵(くノ一)だったのです。
ここがポイント
全体に漂うコミカルで穏やかな雰囲気が心地よく、とても読みやすく、また彦馬視点の物語だけでなく、失踪した織江の物語も並行しているので楽しむことができます。
果たして彦馬は愛する織江に出会うことはできるのか、ドラマ化もしている人気シリーズであり、先が楽しみな作品です。
4、『妖談 うしろ猫』
耳袋秘帳「妖談」シリーズの第一弾であり、怪異をテーマにした短編が、寄り集まり大きな物語を紡いでいます。
このシリーズは闇の者との戦いを描きながら、南町奉行、根岸肥前守の推理と、謎解きが楽しめます。
根岸のかわいがっている猫が、暗殺されかけた根岸を救うシーンは、何度読んでも鳥肌が立ってしまいます。
ここがポイント
パキパキとした文章、次々に起きる事件や珍事、その中にはっと胸を打つ文章や、目に浮かぶような鮮やかな描写が味わえる作品です。
5、『姫は、三十一』
嫁にいけないままに、三十歳を超えてしまった姫が、市井の事件の謎を追うシリーズの第一弾です。
姫とは「妻はくノ一」シリーズに少しだけ登場した平戸藩、松浦静湖姫のことで、このシリーズでは姫の性格や考え方がじっくりと描かれています。
姫に恋する男が六人も出てきて、登場人物も多いのですが、それぞれの個性がしっかりと描かれているので、混乱することはありません。
ここがポイント
登場人物のネーミングに大笑い、随所にある現代的な要素に笑い、事件解決に向けて行動すると大抵は命を狙われたりするものなのですが、そんな危険も無く、安心して読んでいられます。
休日の午後に、寝ころびながら読むのに適している作品です。
6、『歌川国芳 猫づくし』
江戸の町で八匹の猫と暮らす、人気絵師の歌川国芳の身辺で起きる、少しミステリアスな出来事を描いた7編かなる短編集です。
各話に国芳の飼っている猫たちが絡んできて、まさに猫づくしという具合なのですが、人情物や怪談物もの、ミステリーありと、守備範囲が広く、色々と描いた国芳の絵のように楽しませてくれます。
通して読むと国芳お得意の「寄せ絵」のように絵師、歌川国芳の人となりが、浮かび上がってくるようです。
ここがポイント
各話、国芳の作品絡みであったり、当時、活躍していた絵師やその後に評判をとる実在の人物たちが登場するのも楽しく、ひょうひょうと江戸の時代を描き、きっぷよく生きる江戸っ子の国芳の人物設定にも魅力を感じてしまいます。
作品全体が、国芳の寄せ絵が味わえる上等の作品です。
7、『猫鳴小路のおそろし屋』
何やら訳ありの女主人が営む骨董屋「おそろし屋」の話が綴られた、4編からなる短編集です。
扱うものも訳ありで、興味がありそうなお客だけに案内がいき、その由来を聞かされ、購入するというシステムになっているのです。
歴史上の超有名人たちの因縁が絡むもので、武田信玄、水戸光圀、葛飾北斎など、通説とは異なる逸話が面白くて、楽しめます。
特に好々爺の光圀公の真の姿がアレだなんて、とても興味が引かれます。
ここがポイント
戦国から江戸時代までの話だと思っていたら、急に現代の東京に舞台を移し、東京存亡の秘密なんかもあるのです。
シリーズなので、次作も待ち遠しくなる作品です。
8、『潜入 味見方同心(一)恋のぬるぬる膳』
南町奉行所の味見方同心である月浦魚之進が、食に関わる事件を解決していく話が4編綴られています。
ぬるぬる膳、ひげ抜きどじょう、婆子丼、歯型豆腐という何とも奇抜でユニークな料理にまつわる話です。
これらの料理に関わって殺しが行われて、魚之進が味見方として探索に出向き、見事に解決に導いていくという流れになっています。
ここがポイント
相変らず、とんでもないアイデアの料理のオンパレードなのですが、どれも良く考えられていて楽しく、しかも、ちょっと現実にありそうと思えてしまう、楽しめる作品です。
まとめ
風野真知雄氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
登場人物を事細かに描いているので、あたかも自分が、物語の中にいるような感覚に陥ってしまいます。
まだ、読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみてください。
読書の楽しみが、広がりますよ。