様々な彩を持った、津村記久子氏のおすすめの作品を8選ご紹介させていただきます。
大学3年の頃から本格的に小説を書き始め、卒業後、勤めた会社でパワハラを受け、10ヶ月で退社をしてしまいます。
2005年「君は永遠にそいつらより若い」という作品で、第21回太宰治賞を受賞して、作家デビューを果します。
その後は会社員と作家の二足の草鞋で活動していましたが、2012年に専業作家として出発します。
津村記久子おすすめ8選をご紹介~好きなものが一つあればいい~
作風としましては、自身の会社員生活を元にした、働く人々や女性を描いたものが多く、また大阪出身であることから、近畿地方を舞台にした作品や関西弁を話す登場人物を描いています。
小説のネタは、自転車に乗っている時に大体見つけるそうで、思いついたことはすぐにメモをするそうです。
そして、現代人の働く姿、成長する姿、生活する姿などを、そこはかとないユーモアを交えながら、確かな筆致で描いているようです。
そんな津村記久子氏のおすすめの作品を8選ご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『君は永遠にそいつらより若い』
大学生である主人公のホリガイ(堀貝佐世)と、彼女を取り巻く人たちの話です。
主人公は大学4年生の女子「ホリガイ」であり、彼氏はおらず、恋愛にはあまり縁がないようなのですが、男女の友達はそれなりにいます。
ホリガイは、自分に会いたいと思う人は、この世には誰もいないだろうと思って生きているのです。
しかし人間への愛は深く、口で表さずに行動で示しているのです。
ここがポイント
自分が孤独であろうが、辛くてどうしようもない時でも、彼女の弱い者への接し方は凄く優しく、目を見張るものがあるのです。
主人公ホリガイの魅力に、深く吸い込まれてしまいそうになる作品です。
2、『カソウスキの行方』
仕事や恋愛に行き詰ったり、日常生活に飽きたりした人達が、主人公の3編からなる短編集です。
それぞれの人の日常が描かれていて、まるで、OLのエッセイを綴ったブログを見ているかのような、感覚になってしまいます。
それぞれの主人公の考え方が実にサバサバとしていて、常に冷静に物事や心情を把握しているようにも感じてしまいます。
誰にでも身に覚えがあるような落胆や、行き場のない怒りなどが美化されることなく、等身大の人間として描かれているのです。
それでいて、登場人物の心は温かさに覆われていて、なんだかこっちまでが救われてしまいます。
ここがポイント
切り口の鋭さに、何故か納得してしまう作品です。
3、『ミュージック・ブレス・ユー!!』
高三女子のアザミが主人公であり、進路のことを真剣に考えることができず、好きな音楽のことばかり考えている話です。
青春小説とも恋愛小説とも言い難い、不思議な印象を与えてくれます。
音楽をこよなく愛するアザミの一年が、瑞々しく見えてきて、自由であり自然体であり、等身大で高校生活を満喫している姿が、窺えます、
ここがポイント
周りに流されることなく、しっかりとした自分の意志を持ち、進んでいく姿には憧れさえ抱いてしまいます。
大好きで大切に思っていることが、あるのはとても幸せで、嬉しいことなのだと思える作品です。
4、『ポトスライムの舟』
対になる二つの中編が収録されている話です。
ここがポイント
両作品とも、厳しい現状の中で、必死に生きている女性の姿が描かれています。
「ポトスライムの舟」は、世界一周の旅をすることを希望に生きる派遣社員の話であり、ワーキングプアだろうと、何かの希望を持てば楽しく生きて行ける事が分かります。
残酷で絶望的になってしまいそうになるけれども、同時に強い生命力も感じてしまいます。
「十二月の窓辺」は、パワハラ上司に虐げられる女性社員の話であり、まさに「働きたくない」という仕事への嫌悪感が強まってしまいます。
両作品とも、決して楽しい内容ではありませんが、妙にリアリティがあり、働き方や生き方について、考えさせられます。
5、『ワーカーズ・ダイジェスト』
淡々とした日常の中にある、働くことの意味を取り上げた二つの話です。
「ワーカーズ・ダイジェスト」は32歳同士の働く男女の日常の生活をリアリティ感タップリに描写していて、明るすぎず、暗すぎず、自然で普通なのですが、ちゃんと紆余曲折があり、喜怒哀楽もあるのです。
ここがポイント
仕事をする上での一番の辛さは、明らかに理不尽な仕打ちであり、しかし、立場上は飲み込まなくてはいけないのかもしれないと思ってしまうのです。
「オノウエさんの不在」は理不尽に扱われる優秀な技術者の話なのですが、ちゃんと彼を尊敬し続ける仲間も、複数いることが分かり、なんとなく安堵感というか、嬉しくなってしまいます。
何かしらどこかで、共感してしまう作品です。
6、『とにかくうちに帰ります』
何気ない日常を切り取ったような6編からなる短編集です。
会社にはいろんな人がいて、その人たちの生き方を垣間見ることができます。
ここがポイント
憧れられるような仕事をやっていなくても、自分の仕事に矜持を持って、取り組んでいる人を見ると、本当に素敵だと思ってしまいます。
仕事って嫌なイメージで語られることが多いですが、この作品の中では、日常の歯車の一つとして、ごく普通に描き出され、しかもそれぞれの人のほっこり感が、溢れ出ているように思ってしまうのです。
『ポースケ』
奈良のカフェ「ハタナカ」で緩やかに交差する、様々な女性たちの日常と、小さな出来事の短編集です。
「ポトスライムの舟」のその後であり、前作では休むことも恐れて、お店を開け続けたり、パートや内職の仕事をいくつもかけもちをしたりして、働き続けたいた登場人物の暮らしにも、すこしゆとりが出てきている様子にほっとしてしまいます。
ここがポイント
大きな事件があるわけではありませんが、誰にでもある、生活の機微が細やかに語られています。
疲れている時に、心が温まる素敵な作品です。
7、『デイス・イズ・ザ・デイ』
サッカー2部リーグの最終戦と、プレーオフの模様を綴った連作短編集です。
昇格間近でワクワクしたり、降格への恐怖で悲壮感が漂っていたり、また昇格も降格もないけれど、好きな選手の活躍に心ときめかせたりする様子が、臨場感タップリに伝わってきます。
人生には様々な局面があり、その時支えにもなるのが、自分の好きなものだったりするのです。
ここがポイント
そして、人は自分が好きなものを大切に思ってくれる人を、好きになってしまうのです。
様々な彩がある人生って本当にすばらしいと思える作品です。
まとめ
津村記久子氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
ごく普通の日常のそこにある本当の日常を、面白、可笑しく、時には感動的に描いているのです。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。