常に問題意識を持って取り組んでいる、葉真中顕氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学中退後の2009年に、はまなかあき名義の「ライバル」という作品が、第1回角川学芸児童文学賞を受賞し、翌2010年に同作で、児童文学作家としてデビューを果します。
2013年には葉真中顕名義の「ロスト・ケア」という作品で、第16回日本ミステリー文学大賞の新人賞を受賞します。
その後も各文学賞を受賞したり、候補に挙がったりと目覚ましい活躍を続けています。
葉真中顕おすすめ作品8選をご紹介~常に問題意識を持って挑む~
各作品のテーマは、現代社会に拘ることなく、強い興味を持って、それなりに調べたり取材したものを題材にして執筆しているとのことです。
要するに問題意識を持って、取り組んでいるかどうかで、作品のイメージが出来上がってくるそうです。
これからも、社会派と呼ばれる作品を中心に執筆活動を続けていきたいとのことです。
そんな葉真中顕氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。
1、『ロスト・ケア』
介護に携わる人間がその立場を利用して、老人たちを毒殺する事件の話です。
犯人は高齢化社会と認知症、それを支える家族や介護職員の負担を上手く取り込み、43人もの人を殺害してしまったのです。
現代社会の抱える高齢化、介護をはじめとする様々な問題が、分かりやすく描かれていて、ミステリーであることも忘れて読み入ってしまいます。
ここがポイント
誰も病気になりたくないし、介護されたくはないと思っていても、人間は死に方を選ぶことはできないのです。
そして最後まで、お金という力がついて回るのも、現実なのです。
読後感はすっきりしませんが、多くの人に読んでもらいたい作品です。
2、『絶叫』
鈴木陽子という一人の女性の壮絶な物語です。
弟にしか興味を示さない母親と、借金を作り失踪してしまった父親、そして弟は自殺のような事故死を遂げ、さっさと娘を捨てる母親、そんな家庭環境に陽子は育ったのです。
平凡な人生を送るはずが貧困、無縁社会、ブラック企業、そして自ら深い闇の世界へ入り込んでいく予測不能な展開に、読み進めるのが辛くなってしまいます。
幼い子供にとっては母親は自分の神様であり、その言葉は絶対だったのです。
ここがポイント
母親の愛情のない言葉や態度が、後の陽子を生み出す結果になってしまったのです。
冒頭の陽子の死の様子に、絶叫してしまう作品です。
3、『ブラック・ドッグ』
目的のためには殺人も辞さない過激な動物愛護団体DOGが、遺棄動物の譲渡会の会場で、謎の黒い獣に人を襲わせる話です。
人間のエゴで作られるペット、無責任に放置されるペット、何故動物を食べるために屠ることは良くて、人間を殺してはいけないんだという過激な動物愛護団体の主張。
ここがポイント
現実的にあり得るかもしれない、事実が隠れていたからこそ、ゾクッとしてしまいます。
人間の都合で動物を劣悪な環境で飼育したり、殺処分したりすることへの警鐘を鳴らしている作品です。
4、『コクーン』
カルト教団であるシンラ智慧の会の6人の信者が、丸の内で無差別銃乱射事件を起こす話です。
そのことにより人生が変わってしまった人たちや、乱射事件の前から教団に取り込まれていた人たちなど、いろいろな視点で描かれています。
多分、幸せでも不幸せでも、あのとき・・・、と思うことは誰にでもあると思います。
この作品の場合は、幻が現実にリンクされているので、こっちの方がましだったとか、そんな風に思ってしまいそうなのです。
ここがポイント
その時その時を一生懸命に考え、試練の毎日を真剣に生きて行くしかないのです。
もう一つの世界があったかもしれないと思える作品です。
5、『政治的に正しい警察小説』
驚愕と感嘆に溢れた6編からなるブラック短編集です。
幼児虐待、将棋、冤罪、尊厳死などいろいろなテーマで楽しめます。
どの話も始めと終わりで世界が反転し、小気味よい読み味で、多彩なキャラ造形で、オチの意地悪さなど、ユーモアを交えながらの引き出しの多さには感服してしまいます。
ここがポイント
スキマ時間に読むには最高であり、葉真中氏の違った側面も垣間見れる作品です。
6、『凍てつく太陽』
終戦間際の北海道で、陸軍が秘密裏に開発する新兵器の謎と、陸軍関係者の連続殺人事件の謎の話です。
2つの大きな謎を追いつつ、日本人、朝鮮人、アイヌなど民族の想いが複雑に絡み合っていきます。
皇国臣民となり、日本に忠誠を誓う朝鮮人もいれば、日本の国というものに不信感を抱く日本人もいたのです。
戦争という背景と、アイヌの人々に宿る死生観を軸に、私たちが何かを犠牲にして、手に入れたものの本質を暴き、本当に目指すべき世界はどのようなものかを教えてくれているようです。
ここがポイント
人間の幸福、そして生まれてきた意味を思い起こさせてくれる作品です。
7、『W県警の悲劇』
W県警を舞台にした6編からなる連作短集です。
殆どがW県警に勤務する女性が主人公であり、すべての話にW県警初の女性警視、松永菜穂子が関わっているのです。
ここがポイント
男性社会の警察で松永への風当たりは確かに強いのですが、そんな中でも強かに周りの腐敗に目を背け、ひたすら権力の座を目指していくのです。
作品の一つ「洞の奥」は、啓作館の正義の鏡ともいわれていた熊倉哲の死と、彼の本当の顔、そして父を敬愛してやまなかった熊倉清の裏の顔には背筋が凍ってしまいます。
その他の作品もそれぞれに趣向が凝らされていて、楽しく読むことができます。
8、『Blue』
平成15年のクリスマスイヴに起こった一家4人殺害事件と、その15年後の殺人事件の話です。
警察が捜査を続けていく中で、ブルーと呼ばれる一人の男が捜査線上に浮かび上がってきます。
その男は平成が始まった日に生まれて、平成が終わった日に死んでいくのです。
ブルーの人生を語りながら、平成というひとつの時代を検証するかのように、社会の闇に潜みながらも、虐げられている子供を救いたいという、思いを持って生きていた、ブルーの生涯。
ここがポイント
親の愛情を知ることなく、生きた彼にとっては、最善の選択をしたのであろうと思います。
怒りと悲しみと衝撃に満ちた作品です。
まとめ
葉真中顕氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
作品を執筆するにあたり、常に問題意識を持って臨んでいる姿勢が伺えます。
まだ、読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
読書の楽しみが広がりますよ。