余韻を残す描写で魅了する、近藤史恵氏のおすすめ作品10選をご紹介させていただきます。
近藤氏は大学卒業後の1993年に「凍える島」という作品で鮎川哲也賞を受賞し、小説家デビューを果たします。
小説を書くようになったきっかけは、高校の終わりから大学生くらいの時に盛り上がっていた、新本格ミステリを読んで、自分でも書きたいと思ったそうです。
小説を読んでいて、真実が分かった時に、世界が一転するような感覚が、何とも言えず好きだったとのことです。
近藤史恵おすすめ作品10選をご紹介~感情の不連続性を描く~
近藤氏はミステリ作家として知られていますが、恋愛小説やスポーツ小説、女性向けの恋愛シュミレーションゲームのノベライズなども手掛けています。
また、大学時代には歌舞伎の研究をしていたこともあり、歌舞伎を題材にした作品も執筆しています。
そんな近藤史恵氏のおすすめの作品10選を刊行順にご紹介させていただきますので、お楽しみください。
1、『凍える島』
瀬戸内海の真ん中に浮かぶ無人島で起こる、殺人事件の話です。
喫茶店が主催する、慰安旅行で常連客やその友人、家族を含めた男女8人が、瀬戸内海に浮かぶ孤島へ向かって行くところからストーリーは始まります。
退屈する間もなく、起こってしまう惨事に、バカンス気分はどこへやら、やがて次の犠牲者が出てしまうのです。
ここがポイント
まさに典型的なクローズドサークルで、ありふれた設定なのですが、登場人物が皆とても魅力的で、風景や建物の描き方も想像力をかきたててくれます。
近藤氏のデビュー作であり、鮎川哲也賞を受賞しています。
2、『ねむりねずみ』
探偵今泉シリーズの第一弾であり、歌舞伎の公演中に起こった殺人事件の話です。
若手の女形の役者が言葉を失っていく話から始まり、一転して公演中に起こった殺人事件を大部屋役者とその同級生が、謎解きをしていきます。
そして二つの出来事が重なり交わる時に、奇妙な真相が炙り出されてくるのです。
知られざる歌舞伎界の裏側を垣間見ることができ、感銘を受けると共に、歌舞伎座へ足を運びたいと思ってしまいます。
ここがポイント
心理的側面に焦点をあてた作品です。
3、『散りしかたみに』
探偵今泉シリーズの第二弾であり、歌舞伎の公演中に一枚だけ落ちてくる桜の花びらの謎を追う話になります。
梨園の世界が垣間見えるのですが、何ともストーリーはもの悲しい展開になっていくのです。
ここがポイント
歌舞伎の演目と歌舞伎特有の師弟関係がうまく結びつけられていて、一味違う流れになっています。
素晴らしい歌舞伎の描写が、味わえる作品です。
4、『カナリヤは眠れない』
整体師「合田力」シリーズの第一弾であり、買い物依存症の女性や、様々な闇を持った人間を描いている話です。
わずかな身体の歪みから、その人間が抱えている症状を言い当てて、さらにはその人間の心の問題も、鮮やかに見つけてしまう整体師、合田を軸にストーリーは展開していきます。
ここがポイント
人間の価値観や考え方、さらには人間本来の生き方についても諭してくれているように思います。
名言も多く、ミステリーとしても大いに楽しめる作品です。
5、『茨姫はたたかう』
整体師「合田力」シリーズの第二弾であり、一人暮らしを始めた女性が、ストーカー被害に遭う話です。
第一弾に比べると合田は控えめな印象でありながらも、またまた名言を交えながら、身体の具合だけでなく、心の悩みも言い当てていくのです。
本当に身近にこんな整体師の先生が居たら是非、診てほしいと思ってしまいます。
ここがポイント
人との関わり合いについて、考えさせられ、繊細で、限りなく優しい異色のサイコミステリー作品です。
6、『桜姫』
探偵今泉シリーズの第四弾であり、大物歌舞伎役者の跡取り息子が、幼くして死んだ真相を探る、その妹と兄の親友の話です。
兄の死に疑問を持ち、二人が巻き起こす波紋から、様々な真実が浮かび上がってくるのです。
淡々と簡潔で美しい描写があり、何とも言えない不思議な感じに陥ってしまいます。
ここがポイント
哀しくて切ない話ですが、ラストに少しだけ救いがある作品です。
7、『賢者はベンチで思索する』
久里子シリーズの第一弾であり、日常に起きる謎を解明していく3編からなる連作短編集です。
ファミレスでバイトをしている久里子と、冴えない常連客の老人が、協力し合いながら事件を解決していきます。
人生の憂い、重荷を肩代わりする人は、どんな生き方をまた、過去を背負ってきたのだろうと思ってしまいます。
ここがポイント
ハラハラ、ドキドキのミステリーではありませんが、読みだしたらイッキ読みしてしまうくらいに、面白さに引き込まれてしまいます。
温かい気持ちになれる作品です。
8、『サクリファイス』
サクリファイスシリーズ第一弾で、自転車ロードレースを題材とした、青春小説とサスペンスが融合した話です。
過酷なロードレースを酷烈な精神で挑む選手たちの心意気が、臨場感タップリに描かれています。
自転車やロードレースが分からない人でも、その感動は伝わってきます。
また、悲しい事件と共に疑惑や中傷の中心だったエースの心の内が、次々に明らかにされていく爽快感も素晴らしく描かれています。
常に手に汗を握りながら、没頭して気が抜けなくなってしまいます。
ここがポイント
いつまでも余韻が残る近藤氏の最高峰の作品に間違いありません。
9、『タルト・タタンの夢』
ビストロ・パ・マルシリーズ第一弾で、下町のフランス家庭料理のレストランが舞台の7編からなる短編集です。
とにかく料理の描写が秀逸で、とても美味しそうであり、フレンチレストランに行きたくなってしまいます。
ここがポイント
謎解きやミステリーに主眼を置いているわけでもなく、料理のレシピでもなく、実に肩の凝らない展開で、物語は進んでいきます。
謎解きを、サブ的に読んでしまいそうな作品です。
10、『キアズマ』
サクリファイスシリーズ第四弾で、舞台は大学の部活としてのロードレースの話です。
弱小大学ロードレース部に、ズブの素人が入部し、徐々にその魅力に憑りつかれていきます。
緊迫したレース展開の描写はありませんが、主人公が新しいことを知っていく時の高揚感や、感情表現が巧く描かれています。
ここがポイント
主人公の心の鎖が、少しづつ解かれていくような作品です。
まとめ
近藤史恵氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
様々なジャンルを描いていて、老若男女問わずかなり楽しませてくれます。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非この機会に読んでみてください。
きっとハマってしまいます。