幅のある作品を描く、夕木春央氏のおすすめの作品5選をご紹介させていただきます。
1993年生まれで、2019年に「絞首商会の後継人」という作品で、第60回のメフィスト賞を受賞します。
この作品を「絞首商會」と改題して、作家デビューを果します。
2022年9月に刊行した「方舟」という作品で、週刊文春ミステリーベスト10国内部門とMRC大賞2022のランキングで1位を獲得します。
夕木春央おすすめ作品5選をご紹介~矛盾の穴を塞ぐ楽しさ~
ミステリでしか、書けない興奮をこれまで書かれてこなかったミステリで描く、引き出しの多い作家なのです。
構想を練る時には、三題噺に近い考え方をすることが多く、なんとなくあるアイデアをいくつか組み合わせていき、最終的に綺麗に整ったもので、組み立てるそうです。
そんな、夕木春央氏のおすすめの作品5選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
三題噺:落語の形態の一つで、客席から「人物」、「品物」、「場所」など3つの題を貰って、即興で演じる落語の事。
1、『絞首商會』
大正時代の東京、自宅の庭で、血液学研究の大家、村上博士が刺殺され、その犯人を突き止めていく話です。
容疑者は博士と親しくしていた4人であり、しかも博士の死には秘密結社「絞首商會」との関りが囁かれていたのです。
犯人探しは、容疑者の一人である、水上淑子に依頼され、かつて村山邸に侵入した泥棒である蓮野と、その友人の井口が、真相解明に挑んでいくのです。
ここがポイント
必ずしもテンポが良いわけでは、ありませんが、緩むことのない展開と謎の広がり、またそれが解決されていく見事なスピードは本格ミステリの王道的な楽しさが味わえる作品です。
2、『サーカスから来た執達吏』
関東大震災後の混乱する東京を舞台に、借金取り立て人であるサーカス出身の少女ユリ子と、取り立てられる子爵家側の担保になった少女鞠子が、借金返済の為、行方不明の財宝探しをする冒険ミステリです。
序盤は没落名家及び宝探しのジュブナイル風で、グイグイと読ませ、中盤は空白の2時間の間に密室から運び出された美術品、宝のありかを示す不明な暗号の2つで、興味を惹きつけ、終盤には構図をガラリと反転させる大掛かりな仕掛けが用意されているのです。
ここがポイント
これらの伏線の張り方と、ストーリー展開の巧妙さは、かなり楽しむことができます。
密室と暗号に関してもハイクオリティの様相高く、見事な作品です。
3、『方舟』
山奥の謎の地下施設である「方舟」で、偶然発生した地震により、閉じ込められた大学のサークル仲間を中心とした7人と家族3人。
助かるためには、誰か一人が、残って犠牲になるしかないことが判明するのですが、そんな中、殺人事件が発生してしまうのです。
ここがポイント
密室空間にておきる殺人、当然警察も来ない状況での犯人探しが始まり、しかも本作は犯人が判明しておしまいとはいかずに、更に困難が待ち受けるという最悪な状況になっていくのです。
タイムリミットが迫る中、緊迫、切迫状況下での進行に目を離すことができません。
これが真相かと納得しかけた直後、驚愕の結末が待っている作品です。
4、『時計泥棒と悪人たち』
デビュー作「絞首商會」に登場した、蓮野と井口が探偵役となり、事件を解決していく連作短編集です。
大正時代、元泥棒にして、人嫌いの蓮野と画家の井口が、奇妙な事件の数々に出くわし、事件に挑んでいきます。
資産家の奇妙な美術館に忍び込み、時計を盗む企てや、誘拐された姪の救出劇や、船上の秘密倶楽部の殺人や、盗まれたルビーの行方など、バラエティーに富んだ展開となっています。
警察は信用しない設定で、ホームズ役の蓮野と相棒の井口が、事件の解決を図っていく展開に大正ロマンが味わえます。
ここがポイント
推理しながらの冒険活劇要素が満載の作品です。
5、『十戒』
亡くなった伯父が所有していた、無人島の校内島にリゾート施設を作る為、視察に集まった主人公とその父を含め9人が連続殺人の標的になってしまう話です。
島の視察を終えた翌朝に、同行していた不動産会社の社員が、殺され、犯人から十戒を課されてしまいます。
殺人犯を見つけてはならないという、戒律を課されて、島内の爆弾に怯えながら、指定された3日間を過ごす中で、殺人はまたしても起きてしまうのです。
ここがポイント
本当の驚きは犯人判明時ではなく、もっと後に待ち構えている最後の最後、既視感と共に押し寄せる衝撃に震えが止まりません。
用意周到に完遂させた犯行が繋がっていく結末はお見事でした。
まとめ
夕木春央氏の作品のご紹介は、お楽しみいただけましたでしょうか。
まだ読んでいない作品が、ありましたら、是非、この機会に読んでみて下さい。
新しいミステリが体験できますよ。