誰も実際に書くことはできなかった、そんな推理小説を描く、門前典之氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。
大学の建築学科を卒業後、2001年に「建築屍材」という作品が、東京創元社主催の第11回鮎川哲也賞を受賞し、作家デビューを果します。
また、受賞後のエッセイにおいては、「理性においても、感性においても、あっと驚かせる本格推理小説を書く」という事が、究極の目標であると、語っています。
門前典之おすすめ作品8選をご紹介~本格推理小説の神髄を追求~
門前氏は大学で学んだ建築学を基にした、トリックにも目を見張るものがあり、さらには、人体を使った仕掛けも数多くみられます、
人間の死体や身体の一部を資材や武器として使われる事もあり、一般のミステリー小説ではお目にかかれない、独自の発想が、特徴となっています。
そんな門前典之氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきますので、お楽しみ下さい。
1、『建築屍材』
物語の舞台は建築中のビルであり、そこに入り込んだ浮浪者が、発見した3人のバラバラ死体が、後に消滅してしまうという奇怪さで、その死体の行方と、続く連続殺人の犯人を追う話です。
パーツ分けの死体の理由が、筆者ならではの予想外の発想で非常に面白く、またわざと殺人に見せかけた理由などもロジカルであり、本格らしさを感じてしまいます。
ここがポイント
図面の意味があまり感じられないと思っていたのですが、最後の最後に衝(笑)撃のネタが仕込まれているのです。
探偵役のキャラが未だ確立される途中といった感はあるものの、数々の謎解きと、建設現場でのトリビアを楽しませてくれる作品です。
2、『屍の命題』
冒頭にいきなり、読者への挑戦状が付いており、舞台は雪に閉ざされた別荘という、ミステリの王道のようなシチュエーションであり、そこで一人、また一人と死んでいき、6人中2人が遺した手記を基に、探偵が事件を解決していく話です。
連続して起きる事件、そしてその繋げ方にも妙技があり、個々は唖然となるトリックですが、繋げることで綺麗にまとめ上げています。
上手くいきすぎな感もありますが、それを敢えて狙ったのだと思ってしまいます。
ここがポイント
殺害方法の違いも上手く活用していて、作中で登場人物が語るミステリ論、最低限のリアリティ、斬新なトリックで記憶に残るミステリを描くことが、門前氏の狙いだったのかも知れません。
3、『エンデンジャード・トリック』
かって謎の転落死と首吊り死があった、異形の施設であるキューブハウスで、宿泊者が惨殺される話です。
ここがポイント
建築探偵、蜘蛛手啓司シリーズであり、何度も挿入される参照図面に関係者の時系列行動表、さらには読者への挑戦とミステリ心をくすぐる構成となっています。
正にトリックありきのミステリであり、トリックを成立させる一つの駒として、人が死に、トリックを解明するためだけに、探偵が存在しているのです。
清々しいほど他には何もなく、読者への挑戦状を入れて、フェアな犯人当てを問うていますが、真の意味でトリックや犯人が解る方はいないと思われます。
しかし新本格ミステリ作品なのです。
4、『浮遊封館』
全国各地で、死体が消えるという不可解な事件が続発する話です。
死体の数が130人分足りない飛行機事故、儀式中にどんどん人が減っていく宗教団体、そして、雪の密室で口から剣を刺されて死んでいた団体関係者等。
謎が謎を呼ぶ出来事ばかりですが、最後に明かされる結末はかなりグロく、目をおおいたくなります。
ここがポイント
予想はできるのですが、そうであって欲しくないという思いを裏切りながら、最悪の結末へとたどり着いてしまいます。
恐怖と脱力の入り混じる複雑な読後感が味わえる怪作です。
5、『灰王家の怪人』
謎の手紙に導かれ、自分の出生の謎を解くため、山口県鳴女村にある既に廃業した温泉旅館の灰王館を訪ねた慶四郎が、13年前に起きた座敷牢でのバラバラ殺人事件を聞かされるのですが、再びその惨劇が繰り返される話です。
館の周囲をうろつく怪しい人影、そして13年前と同じ状況で起きた新たな殺人事件。
謎を調べていた友人も座敷牢の中で殺され、その後消失した座敷牢からは不思議なことに、死体が消えていたのです。
ここがポイント
今作はシリーズ外であり、建築士的なトリックは、含まれませんが、昔話風の伝説や、幼女の記憶、幽閉された人物の独白等が読書欲をかき立てる形となっています。
人間、人体を徹底的に冒涜する門前氏にしか描けない、強烈な人間性が伺える作品です。
6、『卵の中の刺殺体ーー世界最小の密室』
卵型のコンクリートの中に入っていた刺殺体の謎と、別荘の密室状態の部屋で社長が殺され、そしてまた翌年似た状態で、新社長が殺された事件の謎を解き明かして、犯人を指摘する話です。
読者への挑戦も付いた本格ミステリであり、密室状態での殺人事件、アリバイトリック、そしていつも通り登場の遅い名探偵の蜘蛛手。
殺人鬼ドリルキラーによる死者への冒涜は読んでいて、気持ち悪くなりますが、人間の死を弄ぶ狂気の描写も、門前氏の持ち味なのです。
ここがポイント
密室よりもアリバイトリックが綿密であり、見どころとなります。
トリックの必然性のなさ、細かな矛盾がありますが、そこは門前氏が織り込み済みな気がします。
読みにくさは多少ありますが、とにかく盛りだくさんの作品です。
7、『首なし男と踊る生首』
江戸時代から明治時代にかけて、首斬りの死刑執行人が、首を切られたという伝説が残る地域で起きる奇妙な事件の話です。
殺人願望を持て余していたある会社の社長が、裏切られた社員を完全犯罪で抹殺すべく、自ら立てた殺人計画書により、集中豪雨に見舞われた自社の工事現場で決行してしまうのです。
首斬り侍の伝説と、詳細な殺人計画、豪雨の中の密室で、首無し男による首切り殺人だったのです。
ここがポイント
何度も現れては消える生首と、不可解な死体の状況、加えて奇人探偵とくれば、いつもの門前氏の腕の見せ所となります。
まさかの設定が楽しめる作品です。
8、『不可能犯罪コレクション』
実力派の気鋭作家たち6人の書き下ろし作品が楽しめる、6編からなる短編集です。
一つのテーマに対して、各人各様の手法を見ることができて、かなり楽しませてくれます。
この手のものは色々な味が楽しめるのが嬉しく、型は密室、衆人環視殺人、自殺のみの状況など様々です。
ここがポイント
物理トリックも楽しめ、心理的なトリックも派手さはないのですが、割と印象に残ります。
競作を楽しむことができる作品です。
まとめ
門前典之氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
門前氏独特の発想を堪能していただけると思います。
まだ、読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみて下さい。
違ったミステリの楽しみが広がると思います。