緻密な構成と大胆なトリックで定評のある、阿津川辰海氏のおすすめの作品6選をご紹介させていただきます。
大学在学中の2017年に、新人発掘プロジェクトKAPPA-TWOにより「名探偵は嘘をつかない」という作品で作家デビューを果します。
2020年発刊の「透明人間は密室に潜む」という作品が、2021本格ミステリ・ベスト10国内ランキング1位のほか、他のランキングを席巻しています。
阿津川辰海おすすめ作品6選をご紹介~次世代ミステリの魅力を描写~
様々な読み口で読者を楽しませ、高校生が孤立した館で連続殺人事件に挑む、「蒼海館の殺人」という作品もかなり話題になっています。
また、阿津川氏は小さい頃から、筋金入りの読書家であったようで、かなりのジャンルの本を読んだそうです。
そんな阿津川氏のおすすめ作品6選をご紹介させていただきますので、お楽しみいただければと思います。
1、『名探偵は嘘をつかない』
名探偵と言われる阿久津透が弾劾裁判にかけられ、15年前に彼が容疑者となった女児殺害事件の謎を解き明かしていく話です。
探偵の弾劾裁判に転生や幽霊といったガジェットも加わり、あまつさえ後半には物語の方向性ががらりと変貌して、当初の予想を裏切るような怒涛の展開になります。
例えるならば、刑事や裁判官や事件関係者らが力を合わせ、名探偵という高みに挑んでいるかのように思います。
ここがポイント
丁寧に張り巡らされた伏線と、裁判仕立ての高密度なロジックの応酬にひたすら圧倒されてしまいます。
今にも崩壊してしまいそうな、本格ミステリをギリギリのところで破綻させない構成力で、独特なスリリングさが味わえる作品です。
2、『星詠師の記憶』
紫水晶に未来の映像を記録する力を持つ、星詠師が殺され、その事件の瞬間の記録をもとに謎を解いていく話です。
謹慎中の刑事、獅堂が山間の寒村で出会った香島と名乗る少年は、未来予知を研究する怪しげな施設のメンバーだったのです。
そしてその少年に紫水晶に現れた犯人と思しき人物を助けてほしいと懇願され、獅堂刑事は調査に乗り出すのです。
星詠師が水晶に予知した未来は不可避で必ず現実となるのです。
果たして大星詠師の持つ水晶に記録された殺人の様子を覆すことはできるのか。
水晶による未来予知は絶対であるという条件のもと、それを如何に別の解釈ができるのかという事がテーマになっています。
ここがポイント
現実に対しての発想の転換と逆転が見事な作品です。
3、『紅蓮館の殺人』
山火事でクローズドサークルと化した、怪しい仕掛け満載の紅蓮館にて発生した、凄惨な殺人事件解決に高校生の田所と葛城が挑む話です。
合宿を抜け出した高校生の田所と葛城が、訪れたミステリ作家の財田雄山の館が、山火事にみまわれると同じくして、館内で殺人事件が発生してしまいます。
館に避難していた住人や登山者が見守る中、葛城と飛鳥井という二人の探偵の登場により、現在と過去の事件を絡めた複雑な展開に発展していきます。
仕掛けありの館と僅かな手掛かりで、真実にたどり着く推理合戦にワクワクさが止まりません。
ここがポイント
ロジカルに詰めてくる展開と、推理で楽しませてくれる一方で、探偵を辞めた者と現役探偵と探偵になりたかった者たちの想いが絡み合う場面も、楽しませてくれます。
探偵役が二人いることで、複雑な謎が展開していくのが面白い作品です。
4、『透明人間は密室に潜む』
表題作を含めた、全く趣向の異なる4編からなる中編集です。
透明人間がこんなにも制約があって、不便であり、透明人間と共生する世界の在り方なんて、考えたこともなかった、その①の表題作。
裁判員裁判に選ばれたのは偶然にもオタクばかりであり、「六人の熱狂する日本人」ウリャオイ!の掛け声にどんどん盛り上がった末の判決は果たしての、第②作。
微かな物音も聞き逃さない地獄耳の持ち主が、不協和音の正体に挑む「盗聴された殺人」、聞こえすぎるのもどうなのの、第③作。
そして楽しいゲームのはずだったのにマジで「第13号船室からの脱出」をしなくてはいけない事態に陥ってしまい、もう一つの計画を実行していた天才的なあいつが凄すぎの、第四作。
ここがポイント
それぞれがある作品へのオマージュになっているところも、ミステリ好きの心をくすぐります。
5、『蒼海館の殺人』
「紅蓮館の殺人」に続く第二弾の館シリーズであり、台風の為、氾濫した水が迫る蒼海館で起きた殺人事件に失意の名探偵、葛城が挑む話です。
前作で名探偵としての自信を喪失し、学校に来なくなった葛城に会うために、彼の家を訪れた田所と三谷が、殺人事件と災害に巻き込まれてしまうのです。
本作では名探偵、葛城の再起と覚醒がメインに描かれていいるのですが、それ以前に単純に大量の伏線と、その回収という点において、やりすぎな程にクオリティが高くなっています。
ここがポイント
中盤からの怒涛の推理と真相解明に至る展開には目を話すことが出来ない程、夢中になってしまいます。
すこし複雑ですが、読み終えた達成感は抜群であり、何よりも二転三転する展開が面白い作品です。
6、『非日常の謎 ミステリアンソロジー』
阿津川氏を含む6人の作家が、刹那の非日常で生まれる「謎」をテーマとしたお話をご紹介いたします。
「日常」が脅かされているコロナ禍の現在、物語がこの非日常を乗り越える力となることを信じる6人の作家のアンソロジーです。
各話、結末がぼやけてそうで、想像の余韻を上手く残してくれています。
人の本性って、どこまで信じることができるのか、たまには疑ってみることも必要なのかと思ってしまいます。
ここがポイント
当たり前に流れている日常ですが、自分の知らない間に事が、運ばれていたみたいなことって、結構あると思います。
父娘の愛情、お札の裏効力、度重なる偶然、仕組まれた殺人、タイムカプセルなど、それぞれの作家の個性がきらりと光った作品です。
まとめ
阿津川辰海氏の作品のご紹介は、お楽しみ頂けましたでしょうか。
現在、新進気鋭のミステリ作家として注目を浴びています。
まだ読んでいない作品がありましたら、是非、この機会に読んでみて下さい。
そして、次世代のミステリの魅力を堪能してください。