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田中慎弥おすすめ8選をご紹介~書ききることが仕事なのです~

文体のパワーに圧倒される、田中慎弥氏のおすすめの作品8選をご紹介させていただきます。

高校卒業後、大学受験をするが不合格となり、その後は浪人するでもなく、アルバイトや一切の職業を経験せずに、いわゆるニート状態で過ごしていきます。

有り余る時間の中で、父が残した蔵書や母に買ってもらった文学全集を読んで過ごしていたそうです。

そうして、二十歳の頃より、小説を書き始め、執筆に10年をかけた「冷たい水の羊」という作品が2005年第37回新潮新人賞を受賞して、作家デビューをすることになります。

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田中慎弥おすすめ8選をご紹介~書ききることが仕事なのです~

その後は数々の文学賞を受賞したり、候補に挙がる中、2012年に「共喰い」という作品で、第136回芥川賞を受賞します。

また、川端康成氏、谷崎潤一郎氏、三島由紀夫氏の3名を自分にとっての特別な存在として名前を挙げています。

芥川賞受賞の記者会見では、「断ったりして気の弱い委員の方が倒れたりしたら、都政が混乱するので、都知事閣下と東京都民各位のために、もらといてやる」との発言は選考委員の石原慎太郎氏を挑発するような発言を行った事でも有名です。

そんな田中慎弥氏のおすすめの作品8選をご紹介いたしますので、お楽しみください。

『図書準備室』

田中氏のデビュー作「冷たい水の羊」と第二作である、表題作を収録しています。

表題作の図書準備室は、30歳を過ぎてもフラフラしている主人公が、その原因を中学の時に教師である吉岡に、挨拶をしなかったことに求め、吉岡に陰惨な自身の過去の告白をさせた中学時代を回想する話です。

また、冷たい水の羊は、いじめを受けている主人公が、自分はいじめをうけていないと考えるから、いじめられていないとする論理が成り立つ話です。

ここがポイント

二作とも、力の入った作品であり、作者の中から、迸るものを感じながらも、表現方法に違いがあり、作者が常に前をめざして執筆していたことが良くわかります。

不可思議な感覚がクセになりそうな作品です。

『切れた鎖』

表題作を始め3編が収録された作品集です。

いずれも血縁、生と死、因果など、心理を拘束するような事柄を題材にし、暗喩的に物語が展開されていきます。

平凡である日常と、筆者の屈託が迸るかのような幻覚的な風景描写が錯綜し、全体として暴力的世界観が醸成されています。

また、文体の負のパワーに圧倒されるのですが、どの作品もそれぞれの気持ち悪さに一貫性があります。

ここがポイント

テーマがはっきりしていると言うか、筆者が書きたかったのは、きちんとしたストーリーではなく、妄想の類だったのではないかと思ってしまいます。

正真正銘の純文学作品ここにありという感じです。

『神様のいない日本シリーズ』

イジメられて部屋に閉じこもった息子に、父親が部屋の扉の前で、自分の父親のことを語る話です。

ドア越しに語り、心を開いて打ち明けようとしているようで、やはり、自分の中で自分と語り合っているようで不思議に感じてしまいます。

祖父が野球をやめたいきさつ、父親は野球が好きなのに自分からはやらなかったこと、憧れの同級生と劇を上演することなどが、延々と語られていきます。

西武対広島の日本シリーズと「ゴドーを待ちながら」の戯曲が語りにエッセンスを与え、やってこない神様を待つことが鍵になっています。

ここがポイント

伝わるようで、伝わりきれない、親子代々の想いが切なくも感じる作品です。

『犬と鴉』

「犬と鴉」、「血脈」、「聖書の煙草」の3編が収録されています。

唯一戦火を免れた、図書館が丘のうえに聳え、荒れ地となった街には、空から産み落とされた黒犬たちが徘徊する圧倒的な空間。

そこであたかも壮大な叙事詩のように、ある家族の歴史の葛藤が綴られているのです。

ここがポイント

象徴や寓話としての解釈可能性は否定することはできませんが、この痺れるような文体は大いに魅力を感じてしまいます。

読み終えた時の脱力感がなんとも言えない作品です。

『実験』

「実験」、「汽笛」、「週末の葬儀」の3編が収録されています。

ここがポイント

ドラマチックな要素は全くなく、ただただ人間の内面を掘り下げていて、意外に苦痛もなく、さらりと読めてしまいます。

表題作については、小説家などは案外、底意地の悪い生き物なのかと感じてしまったりすることで、納得したりして、また、「汽笛」についてはあまりの意外性に驚きをかくせず、「週末の葬儀」については、作品の舞台もさることながら、全体にざらりとした質感をもっていて、おかしな感覚になってしまいそうです。

どんよりする読後感に何故か浸ってしまう作品です。

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『共喰い』

表題の「共喰い」は高校生の主人公が、セックスの時に暴力的になる父親と同じ血が流れていることへの、苦悩や、それでも湧き上がる性欲との板挟みになりつつ、暮す様子が描かれています。

「第三紀層の魚」は死を間際に迎えた曽祖父、その曽祖父と暮らす祖母、そして女でひとつで主人公をそだてる母親の血のつながらない3人の関係性がうまく描かれています。

切ないけれど、すこしの窮屈さ、そして優しさを感じてしまいます。

ここがポイント

二作とも描写が生々しくて、匂いだったり、温度が嫌な感じで伝わってきます。

ただとても丁寧に描かれているので、町の淀んだ場所などの描写は小さな街の閉塞感を上手く伝えてくれています。

『田中慎弥の掌劇場』

日常における、非日常を味わえる37篇に加えて、あとがきには自らの告白も含めた超短編集です。

ここがポイント

新聞に連載されていた掌編を一冊にまとめたものであり、一話が4ページほどなので、スキマ時間に読むには打って付けです。

短い文体の中に田中氏の思考が凝縮されていたり、あるいは時事ネタをちょっといじったようなものが、あったりと楽しませてくれます。

暗い部分も多いのですが、ユーモアチックのものもあり、あまり下品な部分や、あまり遊びすぎるところがないのが、いいのかもしれません。

不思議と文章に満足する作品です。

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『夜蜘蛛』

「戦争体験」、「父と子」、「介護」という重たいテーマに正面から挑んだ話です。

戦争に従事した父親を息子が、作家宛の手紙で語っていきます。

息子は父の言葉に悲劇的な要素を見出し、そして絡めとられてしまうのです。

それは決して発作的なものではなく、あれはこういうことに違いない、これは自分が行ってきたことの報いだと、自身で解釈し、自ら身体に蜘蛛の糸を、巻き付けてしまったかのようになってしまうのです。

ここがポイント

残されたものにとっては、声なきものの行動の意味はいかようにも変化していき、悔恨や罪悪感というものはどうしようもなく、強く残ってしまうものなのです。

意味のない不安に駆られるのが人間だと思える作品です。

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まとめ

田中慎弥氏の作品は楽しんでいただけましたでしょうか。

独特な語り口の純文学を満喫していただけると思います。

まだ、読んでいない作品がありましたら、この機会に是非読んでみてください。

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